表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

128/195

セイレーン

 城に攻めて来た主力のゴブリン達は船に逃げ始めているけれど、なんだか……、おかしい……、気がする……。

 何処からともなく……、魅惑的な歌声が聞こえてきている……?


 ヴァール姉ちゃんの歌声と同じで、この歌声も透き通るような素晴らしい声なのに……、どこかおかしい……、気がするんですけれど……?

 でも……、それが何だか判らない……。


 眼下を見ると、城の兵士達は追撃を止めて歌に聞き入っている。


『ヴァール姉さんと同じくらい、素敵な歌声ね』


 一緒にいるエイル姉ちゃんも俺と同じ感想で、この歌声を聞き入っている。

 俺も大空を飛びながら、ひたすらこの歌声を聞いている。


 港を見ると、魔物達を乗せた大型船が何隻も出航している。


 俺は何かをしなければならないのに……、それが何だか判らない……。


 歌を聞けば聞くほど、その判らないことまでも……、考えるのを止めている……。


 ◇


 魔物達の船団が地平線に消えると、歌声が止まった。

 えーと……。


 あ〜〜〜〜〜〜〜〜!!

 し、しまった〜〜!


 魔物達が二度と襲って来ないように、船を沈めようと思ったのに、歌に聞き入ってしまって何もできなかった〜〜。

 さっきまで聞こえていた歌声は、明らかに人の行動を止める歌声。


 歌を聞いている間、おかしいと思っていても何もできなかった。

 どうやら魔物の中に、精神を操る奴がいるみたいだ!


 たぶん……、セイレーンか?

 ヴァール姉ちゃんがバラードで歌っていた、船員を惑わす魔物。


 脳に直接聞かせる歌声みたいで、たぶん耳栓をしても効果はない気がする……。

 どうしたら、歌声の呪縛から逃れられるんだろうか……?


『トルムル、私達どうしたのかしら?

 歌声が聞こえてからは何も考えられなくて……、ただひたすら歌声だけ聞いていたわ』


『セイレーンの、うたごえだとおもいます。

 ヴァールねえさんが、バラードでうたっていた』


『まさか……、あのセーレンなの?

 船員達を歌声で惑わして、船を岩礁に導いて遭難させる伝説の魔物。


 そういえば……、歌を聞いていたら……、何も考えられなくて……。

 ただ、歌だけを聞いていたわ』


『こんかいは、ぜんしょうせんで、あいてはこちらのでかたを、みたのだとおもいます。

 まもののかずがおおかったけれど、ゴブリンがほとんどでしたから』


『近い将来、本格的に魔王軍が攻めて来るとトルムルは予想しているわけね。

 でも、セイレーンの歌声を聞いたら何もできなくなってしまうけれど、対処方法はあるのトルムル?』


 それが……、今のところ思いつかない。

 解決策はあると思うんだけれど……。


 とにかく、エイル姉ちゃんの体を城に戻さないとな。

 それから俺は自分の体に戻って、ウール王女と一緒にペガサスに乗って、こちらの東海岸に来ないと話が始まらない。


 ウール王女に連絡すると、出発する直前だったので、俺が帰るまで待ってもらう事に。

 間に合ってよかったよ、出発した後だったら戻ってもらわなければならないところだった。


 真空魔法を使えばペガサスよりも早く飛べるけれど、長距離で使った事がないので、もしかしたら……、宇宙に出る可能性があるので使いたくない……。

 惑星なので、一直線に行けば大気圏を出てしまうだろう……。


 それと、ヒミン王女にも東海岸に来てもらおう。

 王女は戦闘能力が高いので、東海岸の別の国に居てもらって、もしもの時の為に動いてもらう。


 それに、ウール王女はまだ1才なので、実のお姉さんが近くに居たら寂しがらない……、と思う。

 普通の1才児は、まだお母さんに甘えていたい時期だからな。


 それなのに俺は、無理矢理ウール王女を大陸の端から端まで移動させている。

 もちろん、ウール王女は賢者となったので、魔物から世界を守るという使命があるのだけれど……。


 でも、俺の本音は別なのかもしれない。

 超可愛いウール王女が、泣いたり、寂しがらせたくないのかも……?


 公私混同してはいけないのだけれど、賢者のおさとして、幼いウール王女の精神面を支えてあげないとな。

 もっとも……、ウール王女はハヤブサの妖精と友達の儀式をしたので、ハヤブサの荒ぶる気性の影響を受けている面も時折見える……。


 エイル姉ちゃんの体を、恋人であるスィーアルの第一王子の居る部屋まで戻った。

 そして俺は自分の体に戻ることに。


 自分の体に戻ると、そこの部屋にはウール王女にヒミン王女、それに王妃様と父ちゃんが居た。

 ヒミン王女が言う。


「トルムル様、お疲れ様でした。

 ゴブリン達を追い返したと聞いた時は、流石トルムル様と思いました。


 しかし……、魔物の追撃を、セイレーンに邪魔されたと聞きましたが……」


 ヒミン王女にはまだセイレーンの事は言っていないので、たぶん親友であるエイル姉ちゃんが東海岸で実際に起こった事を言ったんだ。

 今の段階では対処方法が分からないので、答えるのになんて言っていいのか……。


「たぶんセイレーンが、うたごえでこちらのこうどうを、とめたのだとおもいます。

 こうげきまほうですが、ちょくせつダメージをうけるわけではありません。


 たの、まものがこうげきしているときには、セイレーンのうたがきこえませんでした。

 たぶん、こちらがいたみをおぼえれば、セイレーンのうたごえから、のがれられるとおもうのですが……」


 ヒミン王女は俺の言った事に、素早く反応して言う。


「そうするとセイレーンと戦う為には、痛みを自ら作りながら戦わなくては行けないというわけですね。

 それだと、精神を集中して攻撃をする強力な魔法は使えないことになります。


 剣や弓も同じく、精神を集中して魔物達を倒しているので、こちらも思う成果が得られないだろうと、トルムル様はお考えなのですね」


 さすが王女で、歴代トップの成績で学園を卒業しただけのことはあるよ。

 俺と同じ結論を、素早く見つけ出している。


「それが本当なら、非常に厄介です。

 本格的に魔物達が攻めてきた時にセイレーンの歌声が聞こえてきたら何も出来ないで、彼等の侵攻を見ているだけになります。


 自ら痛みを作る方法は、戦闘能力が極端に減るので実用的ではないです。

 何か対処方法はあるのでしょうか?」


 それがあれば、こんなに悩まなくてもいいんだけれど……。

 唯一の答えは催眠術を魔法で発動する事だと思うんだけれど、催眠術を俺は知らないから上手くいくとは限らない。


 ぶっつけ本番で失敗したら、大惨事がその後待ち受けているのは間違いない。

 さいわい、本格的な侵攻はもう少し後になりそうなのが唯一の朗報だよな。


 モージル妖精女王からの連絡でも、俺が追い返した魔物以外は、東海岸に上陸していないみたいだし。

 リバタリアンとジズが東海岸に向かっているので、かなりの戦力が期待できる。


 でも……、彼らもセイレーンの歌声で何も出来ない可能性もあるけれど……。

 それに、俺が考えているのは闇魔法に属するので、もしかしたら……。


「こころをそうさする、まほうのけんきゅうをはじめようとおもいます。

 このことは、ここにいるひとたちと、ライフフォースボンドでつながっているひとたちだけのひみつにします。


 ひじょうにきけんなけんきゅうなので、たのひとには、しらせたくありませんから」


 俺がそう言うと、ヒミン王女を始め、ウール王女に王妃様と父ちゃんが非常に驚いている。

 ヒミン王女は驚きながらも俺に言う。


「人を操作する魔法の研究は、各国が禁止している闇魔法に含まれます。

 しかし、セイレーンに対抗するには……、それしか無いですね」


 王妃様が威厳のある声で俺に言う。


「普通だったら、人を操作する魔法の研究は禁止事項なのですが、トルムル様を信じて、私は聞かなかった事にしましょう。

 規則を守って、国が滅んでは本末転倒ですから」


 王妃様から、暗に了解の返事がもらえたので安心をする俺。

 もし、王妃様が反対されたら、このことは諦めるつもりだった。


 長くこの世界で生きてきて、国を治めている王妃様は俺の道徳上の指針を示してくれる大切な人だ。

 なんたって王妃様は、母ちゃんが信頼している一人だから。


 ウール王女とヒミン王女と共に、ペガサスに乗って東海岸への旅が始まる。

 ペガサスに乗っても、東海岸に着くのは明日の夕方だ。


 途中、休憩を取りながらになるけれど、殆ど騎乗したままになる。

 ペガサスが一番大変だけれど、俺達も乗ったまま寝る事に。


 もしもの為に、なるべく早く東海岸に着かなくてはならない。

 魔物の脅威から世界を守る為に、俺達はペガサスに乗って東に飛び立った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ