里帰り
国葬が終わって、俺が国王になる戴冠式までの一ヶ月間の忙しい間、なんとか時間をつくって久し振りに俺は里帰りをする事に。
母ちゃんのお墓に行く為と、父ちゃんと直接話をして、父ちゃんの店をどうするのか決める為だ。
父ちゃんは魔石に魔法を付与をする店を開いていて、そこで仕事をしていた。
しかし、俺たち姉弟が賢者になったので、父ちゃんは魔王から狙われている。
父ちゃんは一人で店に居るので、もう少しで誘拐されそうになった過去がある。
その数日前に俺は、父ちゃんの危険を感じて城に行くように指示をし、数日後に魔物が襲って来た。
幸い、父ちゃんは城に居たから誘拐されずに済んだ。
けれど、城の警護の人達が大勢怪我を負ったので、俺は心を痛めた。
俺が国王になると、父ちゃんはますます重要人物になり、魔王から狙われる可能性が更に高くなる。
ヒミン王女の城で父ちゃんは住まわせてもらってはいるけれど、戦闘能力の高いヒミン王女が城に常に居るわけではないので、危険がある。
母ちゃんのお墓があるから、父ちゃんは国から離れたくないだろうと思う。
けれど、俺の国に来てもらった方がより安全で、父ちゃんが店を再開するのも容易にできる。
それに、付与師として世界的に有名な父ちゃんがメディア国で仕事を始めるだけで、お客さんが世界中から来てくれる。
父ちゃんには、多くの常連客が世界中にいるからだ。
ペガサスに乗っても、父ちゃんの所には一日で行けないので、ヴァール姉ちゃんの居る城に一泊することに。
妊娠中の姉ちゃんは元気そうで、お腹の中いる子供も元気。
少しお腹が出てきており、ゆったりしている服を姉ちゃんは着ている。
ディナーの席上、姉ちゃんは俺に言う。
「トルムルのおかげで、私達の結婚式が安心してできるようになったわ。
トルムルの戴冠式が終わったら、私達の結婚式がすぐにあるから必ず来てよトルムル」
ヴァール姉ちゃんは、念を押すように言う。
もちろん、姉ちゃんの結婚式には参加する予定。
それよりも、姉ちゃんのお腹の中にいる子どもの方が気になるよ。
なぜなら、俺と意識が繋がっているみたいだからだ!
「けっこんしきには、さんかします。
ねえさんの、はなよめいしょうが、たのしみです。
それと、おなかのなかにいる、こどもはげんきそうですが、なにか、かわったことはありましたか?」
「トルムルが来てくれるので、嬉しいわ。
でも……、妊娠してお腹が少し出ているので、着てみたかった細いウエストの結婚衣装が着れないのが残念なのよね。
子供は元気で、お母さんがトルムルにしていた体内教育を始めているわ。
生まれてくるこの世界が、どんなにすばらしいか教えている。
文字と、トルムルが考えだしたソロバンも教えているのよ。
時々、私の言葉に反応したような感情が伝わってくるの」
た、胎児にソロバンですか……?
それはいくらなんでも……、早い気がするんですけれど……。
意識を伸ばして、ヴァール姉ちゃんの胎児に接触をし、優しく包み込んであげる。
そして俺は、命力絆で語りかけた。
『トルムル、おじさんですよ〜〜。
そこはきもちが、いいですか〜〜?』
って、俺が胎児に言っても、まだ理解できないか。
『トームー?』
え……?
も、もしかして、胎児が返事したの?
嘘でしょう!!
い、いくらなんでも早くない?
『こ、えー。
トームー?』
間違いなく、胎児からの返事だ!
もしかして、祝福の魔法を使ったから、普通よりも早く成長しているのか……?
そうだとすると、ウール王女よりも能力の高い子供が生まれるのは間違いない!
ウール王女は、生後六ヶ月になってから命力絆を使って急激に心身ともに成長した。
この子は、妊娠と判った時点で俺が祝福の魔法を無意識に使ったので、そこから急激に成長しているみたい……。
ヴァール姉ちゃんも命絆力で、胎児の声を聞いていたのでビックリして、優しく子供に話しかける
『私の赤ちゃん……。
トルムル叔父さんがわかるの?』
『わーる、マーマ』
なんと……、今度はマーマって言ったよ。
意識の中で言ったとはいえ、これは凄い事だ!
同席していたウール王女も聞いていたので、目を大きく開けてヴァール姉ちゃんのお腹を見ている。
ヴァール姉ちゃんと結婚する婚約者のエイキンスキャルディ第一王子は、俺達が突然驚いているので首を傾げているよ。
姉ちゃんは、今起きている奇跡をエイキンスキャルディ王子に説明をすると、王子も驚いて俺に言う。
「それって、素晴らしい事だね。
私達の子供が、ウール王女やトルムル様と同じようになるんだからね。
トルムル様は、新しい世代の人間を創り出しているのかもしれないね」
え……?
新しい時代の人間を創り出すって……、それはもしかして……。
神の領域に……、入る気がするんですけれど……?
◇
「もうすぐだね、トルムル」
ペガサスに一緒に乗っているウール王女が言う。
眼下を見下ろすと、城が見えてきた。
ヴァール姉ちゃんのお腹にいる子供の事を考えていたら、あっという間に時間が過ぎていた。
この事は近い将来、世界に大きな影響を与えるような気がしてならなかった。
俺は……、神の領域まで踏み込んでしまったのでは……?
そしてこれは……、闇の神に対抗するための神の意思か……?
とにかく今は、父ちゃんとの話し合いが先だ。
ヒミン王女は先に戻って来ており、俺達が戻るのを命力絆を使って連絡を入れてあった。
中庭を見ると、懐かしい父ちゃんがそこに居た。
父ちゃんの近くにはヒミン王女と王妃様も居る。
多くの人達が、遠巻きにして俺達を見ている。
っていうか、彼らが見ているのはペガサスで、伝説上の生き物を一目見ようと集まって来たみたいだ。
父ちゃんと王妃様もペガサスに会うのはもちろん初めて。
お互いの挨拶が終わると、父ちゃんは俺を抱きかかえると小声で言う。
「ペガサスに乗りたいんだけれど、乗ってもいいかな?」
と、父ちゃん!
子供みたいなこと言っているよ。
久しぶりに俺に会ったのに、いきなりペガサスに乗りたいって……。
父ちゃんって、こんな性格だった……?
「もちろんいいですよ、ドールグスヴァリ様」
おっと、ペガサスに聞こえているよ、父ちゃん……。
その後父ちゃんはペガサスに乗せてもらって、空を駆けるのを心ゆくまで満喫したみたい……。
◇
ディナーを食べ終わると、父ちゃんの店をどうするか聞いてみた。
意外にも、お父ちゃんはあっさりと俺の国に来てくれる事を承諾してくれる。
父ちゃんも同じ様な事を考えていたみたいで、天国にいる母ちゃんも同じ意見だろうと。
母ちゃんの話が出て、父ちゃんは俺に満面の笑みで言う。
「ナタリーの夢を昨晩見て、笑顔でこう言っていたよ。
『トルムルは王様になるのね。
私の坊やにこう伝えて、おめでとうって』
きっとナタリーは、天国から父さんを通じて、トルムルにお祝いを言いたかったんだと思うんだ」
まさか……、母ちゃんからお祝いの言葉をもらえるとは思わなかったよ。
こんなに嬉しい事はない!!
あれ……?
父ちゃんの顔が……、ボヤけてきている。
……?
俺……、涙を流しているんだ……。
誰よりも国王になる事を報告したかった人から、返事がもらえたからだ。
こんな奇跡が起ころうとは!
父ちゃんがいきなり俺を再び抱き上げると、優しく抱いてくれる。
「ナタリーだったら、トルムルを優しく抱くと思ってね」
母ちゃんが俺を抱く様に、優しく……。
俺はなぜか、涙が止まらなかった。