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誰が王様に?

 元宰相であるストゥルルング様と、ご令嬢のアンゲイアさんが俺を訪ねて来た。

 どうやら国葬の喪主が決まったみたいで、二人ともにこやかな顔つきだ。


 席に彼らが座ると、早速ストゥルルング様が言う。


「お待たせしましたトルムル様。

 貴族会で昨日、喪主に関して会を開く事ができまして、全会一致で一人の人物を選出しました。


 まだ若いのですが、才能豊かで、民の方は誰もが認めている人物なのです。

 貴族会でも全く同じ意見でして、この国の窮地を救ってくれるのは、この人しかいないという結論に達しました」


 才能があって、誰もが認める若い人って誰だろう……?

 心当たりが無いんですけれど……。


「前にお約束なされた通り、貴族会で決めた喪主をトルムル様が無条件で認めてくれるので、皆の者も安心して貴族会を閉会する事が出来ました。

 これからは新しい国王の元、我ら貴族会も全力を挙げて協力していく所存であります。


 何卒なにとぞ、宜しくお願い申し上げます」


 そう言うと、ストゥルルング様とアンゲイアさんが、俺に深く頭を下げた。


 ……?

 え……?


 新しい国王の話の最後で、何で俺に頭を下げるの?

 新しい国王って……、肝心な人物の名前が出ていないんですけれど……?


「ストゥルルルル……」


 ストゥルルング様の名前が言えない。

 難しすぎるよ、この名前……。


 って、肝心な事を聞かないと。


「ストゥル、ルングさま。

 もしゅになる、じんぶつをきいていないのですが?」


 ストゥルルング様が慌てて背筋を伸ばして、真面目な顔で俺に言う。


「これは大変失礼いたしました。

 私としたことが、あまりにも嬉しいので本人を前にして、新しい国王の名前を言い忘れるなどとは!」


 え……?

 何て言ったの、今……?


「改めまして申し上げます、トルムル様。

 貴族会で、トルムル様が国葬の喪主になってもらうのを全会一致で決まりました。


 トルムル様とのお約束では、貴族会で決まった喪主を、トルムル様が無条件で認めてくれるとのこと。

 トルムル様が、この国の新しい王になる事がこれで正式に決まりました。


 エイル様はそれに伴って、王姉殿下になります。

 国葬の後、一ヶ月後には戴冠式をしますので、宜しくお願い申し上げます」


 ……?

 ストゥルルング様は俺に……?


 少し重要な事を……、言った気がするんですけれど……?

 あれ……。


 新国王が、俺に決まったと言った気が……?

 まさか……、俺……、まだ一才なんですけれど……?


 横に座っていたエイル姉ちゃんを見ると、両手で口を押さえて、目が大きくなっている。

 姉ちゃんが最も驚いている仕草だ!


「トルムル様と、エイル様が驚かれるのも無理はありません。

 トルムル様が新しい国王になっていただきます事、年寄りの悪知恵で大変申し訳なく思っております。


 賢者のおさとしての責務もあるのに、国王にもなってもらうのは、大変恐縮しております。

 しかしながら、我が国にとってトルムル様は必要な人物。


 今までの国王は、この国の繁栄のみを優先して考えて行動して来ましたが、魔王軍に攻め入られ壊滅したのは周知の通りでございます。

 我ら凡人が次の国王になっても、同じ過ちを将来犯すと私は思いました。


 それよりも、トルムル様と、トルムル様に繋がる血筋のものがこの国を治めて頂いた方が良いと判断いたしました。

 勿論、賢者の長としての務めもトルムル様はありますので、新しく宰相を決めて下さり、その方に国に関する方向性の指示をすれば良いと思われます。


 国の方向性をトルムル様が決めてくださるだけで道筋が出来、新しい宰相をはじめ、貴族会でこの国を繁栄させたいと思っております。

 また、トルムル様がこの国に留まっている必要は無く、今までと同じ様に世界中を旅して、賢者の長としての務めを果たして欲しいのです。


 我が国にとってトルムル様は必要な方ですが、世界でも同じ様にトルムル様が必要なのです。

 新国王として、最初に決めていただきます事は、新しい宰相を決めてもらう事で御座います。


 誰か、心当たりはありますでしょうか?」


 俺……、この国の国王になるの……?

 国王になりたいって、神様に言った覚えはないのに……。


 ストゥルルング様と約束していたので、王様になるしかない……。

 何かあるとは思っていたけれど……。


 まさか……。

 こうなる事になるとは夢にも思わなかった。


 でも、やるからには全力を出して、この国に寄与しないとな。

 この国の将来がかかっているし。


 新国王として、最初の仕事が新しい宰相を決めてくれとの事だけれど、ストゥルルング様しかいない。

 名宰相として、世界中が認めていた人だからだ!


「ストゥル、ルングさま、わかりました。

 あたらしい、こくおうになることを、おうけします。


 あたらしい、さいしょうには、ストゥル、ルングさまにおねがいします。

 くにを、とうちしたことがいままでないので、よろしく、ごしどうのほど、おねがいもうしあげます」


「トルムル様が私に敬語を使う必要などございません。

 貴方様は、私達の王になられるのですから。


 それと、新しい宰相を私に決めて下さり、有難うございます。

 ある程度私がなるだろうと予測していましたので、新しい大臣達を決めてきました。


 この一覧表を見て頂ければと思います」


 なんと……、手回しの早い事!

 ストゥルルング様はやはり、やり手だ!


 一覧表を見ると、昼食会に出席していた貴族達の名前が半分を占めている。

 彼らの能力が判らないので、ストゥルルング様に……?


 ストゥルルング様に対して、これからは様はいらないか……。


 とにかく、彼に任せるしかない。

 でも……、一人だけ気になる人が孤児院の担当者になっている。


 大臣ではないけれど、将来この国を背負って行く子供達を担当する大事な役目だ。

 その大事な役目に、ストゥルルング様……、


 それはストゥルルングの娘さんである、アンゲイアさんの名前になっていた。

 アトラ姉ちゃんの下で戦闘をしていた彼女は、姉ちゃんも認めるほど戦闘能力が高い。


 確か、まだ独身なのに、子供を扱う仕事に慣れているのだろうか?


「アンゲイアさんのなまえが、ここに、きさいされていますが、けいけんはあるのでしょうか?」


 俺がアンゲイアさんを見て言うと、品格のある笑みで彼女は話しだした。


「トルムル様が私の能力を疑うのは自然だと思います。

 戦争で私が避難した所が、アトラ様の居る国の孤児院で、十五歳になるまでそこでお世話になりました。


 その後、その孤児院で働いて、今回の戦闘に参加する頃には、孤児院を取り仕切っていました。

 それだけでは、経験が足らないでしょうか?」


 笑顔で言われても……、この国の将来に関わる役職だからなぁ〜〜。

 いくらストゥルルングが推薦しても、裏付けがないと承認は難しいよな。


 あ、そうだ!

 アトラ姉ちゃんに聞けばある程度、アンゲイアさんの事が判るかもしれない。


 アトラ姉ちゃんは今、残党の魔物を退治すべく、どこかの山奥に居るはず。


『アトラねえさん、ききたいことが、あるのですが?

 いま、へんじができますか?』


『なんだい、トルムル?

 残党の一部が洞窟に居る情報があったので、これから中に入って調べる前だから、時間はあるけれど?』


『アトラねえさんのしたで、せんとうにさんかしていた、アンゲイアさんについてききたいのです』


『アンゲイアって、元宰相の娘さんだろう?

 戦闘能力の高い彼女が抜けて、残念だよ。


 それで、彼女の何が知りたいんだい、トルムルは?』


『アンゲイアさんに、こじいんのかんりをまかせたいのですが、かのじょがてきにんか、わからなくて。

 ねえさんにきけば、アンゲイアさんがこじいんを、かんり、うんえいするのうりょくがわかるのではないかと』


『彼女こそ、孤児院を管理、運営する適任者だと思うよ。

 他の孤児院で、どうしようもない荒れた子供達を立ち直らせたって、何度も聞いた事があるからね。


 それに、孤児院で育ったので内情にも詳しいし、経理の面でも、彼女の管理していた孤児院は黒字だったと聞いている。


 管理者の中には、私服を肥やす奴が……。

 とにかく、彼女は子供達に対して誠心誠意尽くしていたし、悪い噂も一切なかったね。


 ただ、……』


 ただ……?

 気になるんですけれど?


『ただ、なんですか?』


『奥手なので、近寄って来る男どもが持ってくる物を、全て子供達にあげたと噂になっていたよ。

 あれだけの容姿と品格だろう、常に男どもが周りに居たみたいで、子供の数よりも押し寄せて来る男の数の方が多い日もあったと聞いているよ」


 アトラ姉ちゃんも奥手なのに、その姉ちゃんから言われるアンゲイアさんて、どれだけ奥手なの……?

 とにかく……、彼女が適任者だって事だけは判りました。


『ねえさん、ありがとうございます。

 アンゲイアさんに、このくにの、こじいんをまかせたいとおもいます』


『トルムルが孤児院の責任者まで決めるのかい?

 ストゥルルング王が決める事だと思うけれど?」


 ……。

 俺が王になる事は、いずれ分かるので言わないとな……。


 なんだか、すごい反応が返ってきそうな予感がするんですけれど……?


 俺は命絆力ライフフォースボンドで繋がっている人達に連絡を入れる。


『みなさん、じゅうようなおしらせです。

 メディアこくの、おうさまに、ぼくがなることがけっていしました。


 きぞくかいのぜんかいいっちでのようせいをうけ、せいしきに、いま、きまりました。

 にかげつ、いないには、たいかんしきになります。


 そのときは、みなさんさんかしてください』


 いきなり全員が話しだして、又しても、誰が何を言っているのか判らなくなる。


『『『『『『『『マジか、トルムル! トルムル様こそ、王様に相応しい……。トルムルが王様になったら、私は王姉殿下になるの……? 戴冠式には、何を着たらいいの、トルムル? それ、本当なのトルムル? トルムルと一緒に、温泉に入れなくなっちゃうの〜〜?』』』』』』』』


 な、何でここで、温泉の話になるの……?

 と、とにかく……、騒ぎが収まりそうに無く、強制的に連絡を絶った。


 ふぅ〜。

 これでやっと静かになったよ。


 あ、いけない!

 アンゲイアさんが、俺をジッと見ている。


「しつれいしました。

 アトラねえさんと、れんらくをとって、アンゲイアさんのことにかんして、きいていました。


 ねえさんは、アンゲイアさんを、すいせんしていました。

 こじいんのかんりと、うんえいを、よろしくおねがいします」


 俺がそう言うと、アンデイアさんは目を丸くして、俺を凝視して驚いている。

 何でアンゲイアさんは驚いているのだろうか?


 あ〜〜〜〜〜〜!!

 アトラ姉ちゃん達と、遠く離れても連絡できるのは秘密だとういうことを忘れていた〜〜!


 この世界では、遠く離れた人達とは連絡できないのが普通だと忘れていたよ。

 俺が王様になるので……、動揺していたみたいで……、つい……、言ってしまったんだ〜〜!


「ねえさんたちと、れんらくできるのは、ひみつでした。

 ないみつに、おねがいします」


 アンゲイアさんは、驚きながら俺に言う。


「流石、王になられる方です。

 トルムル様が王位を継がれます事、心よりお祝い申し上げます」


 王位を継ぐ祝いの言葉を、アンゲイアさんから始めて聞く。

 そのあと俺は、王位を継ぐ祝いの言葉を多くの人達から聞いた。


 母ちゃん……、報告があるんだけれど、喜んでくれるかな……?

 俺……、まだ1才だけれど……、王様になるんだよ。




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