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昼食会

 今回の昼食会の主賓を、元宰相のストゥルルング様にした。

 彼の一族は貴族の中では最も歴史が長く、一族からは多くの王妃を過去に出している名門貴族の宗主そうしゅ


 更にストゥルルング様は、この国の中では最も王家に近い血筋の人なので、次期国王になられるのは間違いないからだ。

 威厳が体中から滲み出ており、その存在感は圧倒されるほど。


 娘さんは品格があるし、流石、良家の子女だ!

 エイル姉ちゃんは、少しは品格がでてきたのだけれど……。


 でも、ストゥルルング様が俺の方を見ている目が気になるんですけれど……?

 何だか、探りを入れている様な目付きなんだよな。


 ま、初めて会った賢者のおさが、赤ちゃんだからかもしれないけれど……。

 でも、事前に俺が赤ちゃんだって事は知っているはずなんだけれど、どうも……、何か引っかかる……。


 エイル姉ちゃんが今回の進行係を務めていて、参加者の紹介をしている。

 この国の主な貴族の宗主達と、ハーリ商会の共同経営者のスールさんに三才になる娘のエルナちゃんにも出席をして頂いた。

 スールさんは今回の昼食会ではカギとなる人物で、エルナちゃんは、小さな子供も今回の料理を好きになってもらえるのか判断する為に声をかけた。


 モージル妖精王女も参加しており、俺が座っている椅子よりも、更に小さな椅子に座っている。

 でも、俺とエイル姉ちゃん以外の人は見えないので、紹介はしても、参加しているのかわからないかも……。


 ん……?

 エルナちゃんが、モージル王女の方ばかり見ているよ……。


 もしかして、エルナちゃんはモージル王女が見えているのか?

 そう言えば、小さな子供は妖精が見えると母ちゃんが言っていたよな。


 モージル王女を見ると、いつも以上に……、緊張している……?

 もしかして、子供に見られているのに気が付いて、妖精の王女として威厳をだす為か?


 出席者の紹介をエイル姉ちゃんが言い終えて、いよいよ昼食だ!

 みんな、好きになってくれるといいな……。


「今回参加して頂いた皆様の紹介を終わりまして、いよいよ食事の方に移りたいと思います。

 今回出します食材はこの国の名産品で、世界的に販売を促進して国の再建に役立つと思い、ご用意させて頂きました」


 姉ちゃんがそういうと、給仕係の人達が最初の食べ物を持って来る。

 焼きたてで、食欲をそそるピザの香りだ!


「これはパンの一種類でピザと言いますが、見ての通りパン生地の上に、トマトとチーズ、そしてソーセージと野菜を置いて焼いています。

 手で持ってお食べください」


 昨日、試食で食べたけれど、懐かしい味で涙が出そうになったよ。

 まさか、この世界で再びピザが食べれるなんて感動!


 よく考えれば、この世界でもピザを作る食材があるし、この国の名産品であるチーズとトマトはすごく美味しいので、ピザには最適だ!


 元いた世界で俺は、パン屋を経営していたお爺さんの所でバイトをしていたので、ピザトーストのレシピはよく知っている。

 それをピザに応用しただけで、簡単にピザが再現できた。


 この料理が世界的に流行ると、ハーリ商会を通じて世界的に売る事ができる。

 それに、ハーリ商会の各小売店には魔法で冷やされている冷凍庫があり、そこで冷凍されたピザを売る予定。


 ハーリ商会の共同経営者であるスールさんと打ち合わせを昨日しており、ピザを食べて頂いて彼は目を輝かせていた。

 ピザって美味しんだけれど、目を輝かすほど喜んでもらえて、商品としての価値をある程度の目安を付けた感じ。


 今回の昼食会で、具体的にトマトやチーズを生産していた地主の貴族達に試食をしてもらって、再び生産をしてもらう予定。

 とにかく、貿易を活発にして、この国の経済を元に戻さないとジリ貧になってしまうので。


「これは美味しい」


「こんなパンができるとは、驚きだ!」


「トマトとチーズをのせたパンが、こんなに美味しいとは!」


 参加者から絶賛の声が聞こえてくる。

 俺としても一安心。


 ストゥルルング様を見ると、横に居る娘さんと何か話している。

 悪いと思ったけれど、魔法で聴力を上げているので俺には筒抜け……。


「お父様、流石トルムル様ですよね。

 こんなに美味しいパンを、私は今まで食べたことがありません!」


「私もだよアンゲイア。

 長年生きて来たけれど、これほど美味しいパンは初めてだ。


 クロワッサンも感動したけれど、これはそれ以上の衝撃を受けておる。

 やはり、彼になってもらった方が良いな」


「私もそう思います、お父様」


 え……?

 最後の言葉が気になるんですけれど……。


 ストゥルルング様が言った彼は、明らかに俺だよな。

 俺が、何になるの……?


 どうも、ストゥルルング様は俺について何か考えているみたい。

 でも、それが何だか分からないけれど……。


 エルナちゃんを見ると、小さな口を、大きく広げてピザを食べている。

 スールさんが心配して声をかけているよ……。


「そんなにほお張らなくても、エルナ。

 喉につかえて、大変なことになるよ」


「モグモグ、これ、モグモグ、おいしい。

 おなか、モグモグ、いっぱい、モグモグ、たべたい」


 あちゃーー!

 エルナちゃん、ピザを口の中に入れすぎーー。


 スールさんが心配する気持ちが分かるよ。

 でも、エルナちゃんに気に入ってもらえて良かった〜〜!


 モージル妖精王女の方を見ると、今までに見たことのない光景が広がって、俺はピザを喉に詰まらせそうになる……。

 それは……、三人が同時に食べている事だ!


 今までだったら、モージル王女が独占して食べていたのに、仲良く三人が食べているなんて初めて見たよ!

 エルナちゃんがモージル王女達が見えるので、そうしているんだ、きっと。


 ドゥーヴルとマグニは、嬉しそうにピザを食べているよ。

 三人が同時に食べているなんて、もう二度と見れないかも……。


 それに、ヒドラの妖精がピザを食べている姿って、とっても可愛い……、かも……?


 いずれにせよ、参加者全員が満足してくれたみたいだ。

 さて、デザートの時間ですよ。


 このデザートをスールさんに食べてもらおうと昨日、彼の前で器を温めると、彼は椅子から落ちそうになった。

 大きな音がするのを、彼に教えていなかったからだ!


「皆さま、ピザに満足していただけましたでしょうか?

 次はデザートなのですが、大きな音がするので、驚いて椅子から落ちないようにお願いします」


 エイル姉ちゃんがそう言うと、参加者からどよめきが起きる。

 ま……、デザートから大きな音が出るなんて、誰も思わないからな。


 給仕係の人が、手の平サイズの陶器の鍋と、鍋を置く台を各自の前に配り始める。

 鍋の上には紙が覆っており、中が見えない。


「火炎魔法で鍋を温めて下さい。

 このぐらいの火加減でお願いします」


 エイル姉ちゃんの手から、火炎が出ている。

 ポップコーンを作るのには最適の火だ!


 参加者全員が火炎を魔法で作り出して、鍋を温め始める。


 ポッポッポォーン、ポッポッポォーン、ポッポッポォーン!!!

 ポッポッポォーン、ポッポッポォーン、ポッポッポォーン!!!


 部屋中にポップコーンが弾ける大きな音が聞こえ、エルナちゃんが驚いて椅子から落ちそうになる。

 俺はとっさに重力魔法でエルナちゃんを助けた。


 フゥ〜〜〜。

 これを販売する時には、子供は特に注意して下さいと但し書きを書かないといけないよな……。


 参加者全員が驚いて、鍋を見つめて大騒ぎになっている。

 中には、攻撃魔法を使おうとしている人達もいるよ……。


「皆さま、落ち着いてください。

 中にあるのはトウモロコシとバターだけなので。


 鍋を覆っている紙を取っていただいて、デザートのポップコーンをお楽しみ下さい」


 参加者は恐る恐る覆っていた紙を取ると、大きく膨らんだトウモロコシを見つめている。

 誰かが早速食べたらしく、感動した声で言う。


「これは、今までに食べたことの無い美味しさだ!」


 それを聞いた人達も、呪縛が解けた様にポップコーンを食べ始めた。


「トウモロコシが、こんなに美味しくなるなんて!」


「これが、あの硬いトウモロコシなのか?」


「トルムル様は、奇跡を起こされた!」


 奇跡って……、大げさすぎませんか……?

 でも、ポップコーンを食べたことがない人達から見れば、驚きだろうな。


 この国で栽培されるトウモロコシはポップコーンに最適なんだよな。

 今回はバターと塩味だけだけれど、キャラメル味も開発して、この国の経済を立て直さないとな。


 ストゥルルング様を見ると、驚きの目で俺を見ており、右手を強く握りしめる。

 まるで、何かを決心した様な……?


 何か、希望の光を掴んだかの様な素振り。

 目が……、光り輝いている様な気がするんですけれど。


 き、気のせいかな……。


 エルナちゃんを見ると、またしても口いっぱいに頬張って食べている。

 横にいるスールさんは、気が気でないみたい。


 今回もエルナちゃんに気に入ってもらえたので良しとしよう。


 モージル妖精王女を見ると、お淑やかに、ゆっくりと食べている。

 いつもだったら、お腹が張り裂けると思うほど食べていたのに、今回はお腹があまり出ていない……?


 やはり、エルナちゃんが見ているから、威厳を保ちたいんだ、きっと。

 お腹の膨らんだヒドラの妖精の噂が、エルナちゃんから広まる可能性があるからな。


 でもモージル王女は最後に、俺にこう言った。


『トルムル様、まだピザとポップコーンは有りますか?

 妖精の国に持って帰って、彼等に食べさせたいので』


 当然、予備のピザもポップコーンもあったので、モージル王女に持たせた。

 小さな体に、持ちきれないほどのピザとポップコーンを抱えて、王女は妖精の国に帰って行った。


 エルナちゃんはその姿を見て、他の妖精達に美味しい食べ物を持って帰る、優しい妖精王女だと思ったはずだ。

 しかし、俺は全く別の見方をしており、ドゥーヴルとマグニが可哀想だなと、同情心を抱かずにはいられなかった……。


 ◇


 食事会が終わって、ストゥルルング様とご令嬢のアンゲイアさんに残ってもらい、この国をどうするか、俺とエイル姉ちゃんの四人で話し合いが始まった。

 エイル姉ちゃんがこの国の現状を説明する。


 戦争が終わってすぐなので、経済活動が殆ど行われてなく、特に食糧難は最悪だ!

 他の国から援助物資で何とかしのいでおり、このまま何もしなければ冬を越す事が出来ない。


 更に、戦争の傷跡で建物が壊されており、まともな家がない程、どの家もボロボロになっている。

 しかも、精神的に傷を負った人達も多くいて、その中でも、戦争孤児は一つの大きな問題にもなっている。


 人の物を盗んだり、傷つけたり。

 でも、その子たちは活発なのでまだいい方だけれど、何もやる気が無く、一日中塞ぎ込んでいる戦争孤児が多く避難所に居る。


 この大陸から、魔王の支配する国が無くなったとはいえ、戦争の傷跡は余りにも深く、多くの人々が希望なき未来に暗い顔をしている。

 王家の全員が亡くなったのも、人々に暗い影を落としている原因の1つだ!


 国の再建の手始めに、亡くなった人達の国葬を俺はストゥルルング様に提案した。

 そして、その国葬の喪主をストゥルルング様にしてもらいたいとエイル姉ちゃんから言ってもらう。


 国葬の喪主は、言い換えれば自動的に次の国王になるので、ストゥルルング様しかいない!

 しかしここで、ストゥルルング様から意外な意見が飛び出た!


「国葬の喪主に関しましては、貴族会を早急に開きまして決めたいと思います。

 そこで決めれた喪主は、エイル様が仰った様に、次期国王になることになります。


 そこで提案なのですが、貴族会で決まった喪主は、トルムル様が無条件で認めて欲しいのです。

 この国の未来を決める大事な会議ですから、必ずや次期国王に相応しい人物を選出したいと思います」


 無条件で認めろって、明らかに裏を感じるんですけれど……?

 でも、俺には次期国王を決める権限がないので、ストゥルルング様の言った事に賛同するしかない……。


 俺はストゥルルング様の提案を、飲まざるを得なかった。

 俺が承認できなさそうな人物を、決めてくる気がするんですけれど……。


 でもそれって……、俺の思い過ごしか……?


 とにかく、数週間後には結論が出るとストゥルルング様が言う。

 他の二国は、次期国王が決まりそうにない。


 貴族同士の権力争いが激化しているからだ!

 しばらくの間、三つの国を統治しているのは俺になる。


 俺……、まだ一才なんですけれど……?


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