キノコ狩りに
あれから一週間が過ぎた。
今日は3人でキノコ狩りに行く。
目的は、野生のキノコとゴブリン。
エイル姉ちゃんの卒業課題でもある、ゴブリンの魔石をゲットする為。
それと、美味しいキノコも食べようって言っていた。
でも、まだミルクの俺は、キノコが食べたくても……食べれない。
食べたいのに、今回も眺めるしかないのか……?
ゴブリンはキノコが大好物だと聞いた。
で、この時期に行く。
キノコが取れる所には多くいるみたいだ。
ゴブリンがそんなにたくさんいて、大丈夫なのか心配になっている。
父ちゃんが、おんぶ紐で俺をおんぶしてくれる。
この世界では、前抱きのおんぶ紐で、お互いが向き合う形になる。
「エイル〜、準備はいいかい?」
部屋の中から、エイル姉ちゃんが出てきた。
身軽な、皮の鎧を付けている。
短パンを履いていて、足は素足だ。
スラットしていて、えーと、……美脚?
オット、お姉ちゃんの足に見とれていてもダメだよな。
虫刺されに対しては、鎧に組み込まれている魔石の中に、それ用のスキルを付与している。
魔石のスキル付与は、知れば知るほど奥が深くて、最近は寝不足なっている程だ。
でも、生まれて半年で寝不足はさすがに肌に悪いので、出来るだけ寝るようにはしているのだけれど……。
エイル姉ちゃんが、腰に剣を装着しているのには驚いた。
エイル姉ちゃん、剣術もできるんだね。
「準備できたわ。
お父さんとトルムルは?」
「お父さんたちも準備万端」
「バブー」
「トルムルも、父さんに皮の鎧を作ってもらったんだね。
とっても可愛いよ」
え、俺がとっても可愛い……?
喜んでいいのやら、男としてのプライドが……。
皮の鎧を俺も作ってもらったのだけれども、手足が自由で動きやすい。
父ちゃんは、パンティから皮の鎧まで作れる器用な人だな〜と思う。
「みんな準備ができたので、出発するよ」
「はーい」
「バブブブーーーー」
俺は言いながら、右手を上げた。
家の近くは出かけたことはあるけれど、遠出するのは初めて。
なので、興奮している俺。
おんぶ紐で、父ちゃんは俺をおんぶしてくれた。
しかし、横しか景色が見えない……。
前を向きたいのだけれど、それ用におんぶ紐がなっていないので我慢するしかなかった。
それでも初めての遠出で、興奮しているのが自分でも分かった。
しばらく歩くと、町を抜けた。
遠くには城らしきものが見えて、威厳を感じさせる造りになっている。
反対の丘の上には学園がある。
エイル姉ちゃんの通っている学園で、家の近くからでも学園の一部が見えていた。
「お待たせ、ヒミン」
「おはようございます。
エイルに、ドールグスヴァリさん」
ん?
誰かと待ち合わせしてたの?
ここからだと、顔が見えないんだけれど?
不意に、俺を覗き込む美少女。
だ、誰!?
至近距離で、俺をジッと見ている。
驚いて、目をパチクリしている俺。
「わー、可愛いわね。エイルの弟さん。
トルムルという名前だったわよね。
初めまして。私はヒミングレーヴァよ。
今日は宜しくね」
「バ、バブゥー」
思わず返事をしてしまった。
気品溢れるこの子は、一体何者なのだろうか?
「ヒミングレーヴァは第1王女で、私の親友でもあるのよ」
俺が聞きたいことを教えてくれたエイル姉ちゃん。
さすが姉ちゃん、頭の回転が早い。
「名前が長いので、愛称のヒミンって私は呼んでいるのよ」
えっと、姉ちゃんは王女と親友?
ワォーーーー。それって、凄くね?
エイル姉ちゃんと王女のヒミンは、それから並んで先を歩き始める。
親友どうしだから話のネタが尽きないで、目的地に着くまで話を続けていた。
時折聞こえてくる会話は、同級生の男の子の事だと分かった。
年頃なのか、やはり男の子が気になるみたいだ。
エイル姉ちゃんを傷つける奴がいたら、俺は許せないだろうなと不意に思った。
もしかして俺は、……?
イヤイヤ。
エイル姉ちゃんに彼氏が居ないのは分かっているので、自己嫌悪。
俺はまるで、父親みたいな考えになっている……?
まだ赤ちゃんなのに……?
不意に、目線を感じた。
敵意ではない。
斜め後ろから、誰かが尾行……?
ん、まてよ……?
あ、そうか。分かった。
ヒミンは王女だから、もしもの為に警護をつけているんだ。
こちらから見えないようにしているみたいだけれど、感情が丸出し。
あれ……。なんで俺、こんな事が分かるんだろう?
「もうすぐ着くよー」
父ちゃんがそう言うと、林の中に入って行くのが分かった。
しばらく歩くと、ヒミンが言う。
「見つけたわ、マッタケ」
今、マッタケって言わなかった?
言った……よね。
「ほんと、たくさん生えているわマッタケ」
マッタケが、そんなにたくさん生えているのか〜〜。
食べたいけれど、食べれない。
目の前にあるのに、食べれないこの切なさ。
前の世界では、薄〜〜いマッタケを一切れ食べただけだった。
ふと、異様な気配を横から感じた。
よく見ると、母ちゃんから聞いたゴブリンの姿に似ている。
まだ遠かったけれど、はっきりとゴブリンが見える。
短い短剣を持っており、数匹こちらに向かっている。
足をバタバタさせて、大きな声で俺は言う。
「バブー! バブー! バブー! 」
「どうしたんだいトルムル?
何か居るのかい?」
父ちゃんが聞いてきたので、ゴブリンの方を指差した。
「何も居ないよ、その方向には」
父ちゃんには、まだ見えないんだ。
魔法で視力を間違ってあげ過ぎたせいで、普通では見えない遠くの物まで見える。
喜んで良いものやら、悲しんで良いのか分からない。
かなり近くになった。
今度は見えるだろうと、もう一度足と手をバタバタさせてゴブリンの方を指差した。
父ちゃんが驚いたように言う。
「トルムルの言う通り、向こうからゴブリンが来ているよ。
エイルとヒミン。向こうからゴブリンが来るよ!」
それからエイル姉ちゃんとヒミン王女、そして父ちゃんは戦闘態勢に入っていった。




