再生魔法
グライアイが味方になり、強敵はメデゥーサだけとなった。
しかし、魔王軍の抵抗は思っていた以上に強い。
メデゥーサが居る城塞都市に行くまでに、地方都市を通らなければいけないのだけれど、石にされている人達を傷つけたくないので全軍でゲリラ戦で戦っている。
負傷者が増えるけれど、これしか地方都市を制圧する方法が思いつかない。
痺れの毒で、地方都市の魔物をやっつけようとしたけれど、風の魔法が思うように内部に入っていかない……。
やはり、俺の攻撃パターンを研究しているみたいで、風の魔法が都市内部に入らない何らかの対策をしているみたいだ。
魔矢で魔物を狙おうとしても、魔物が物陰に隠れているので狙えない……。
魔物が姿を見せると、魔矢を曲げて飛ばせるので仕止める事が出来るんだけれど、それさえもできないでいる。
魔物達も必死みたいで、メデゥーサの居る城塞都市に近づけば近づくほど、地方都市内部の魔物達の数が増えて抵抗が増している。
すでに、六つの地方都市を制圧して、今戦っている地方都市で最後になる。
この都市を制圧すると、いよいよメデゥーサが居る城塞都市だ。
けれど、負傷者の数が日増しに増えているのに、治癒魔法を使える人が少ないので、そちらで苦労している。
俺の攻撃魔法は強すぎて、ゲリラ戦では使えないので治癒部隊に行く事に。
治癒部隊を指揮しているのはシブ姉ちゃんで、得意な治癒魔法は再生魔法だ!
プラナリアの妖精と友達の儀式をしているので、この分野では俺以上の能力を示している。
右腕が切り落とされた重症患者でも、数日後には完全に腕が再生されて、戦線に復帰している……。
最初聞かされた時は、そこまで出来るのかって半信半疑だった……。
シブ姉ちゃんは、右腕を切り落とされてきた若い女性に再生魔法を発動。
ニョキ、ニョキ、ニョキ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
切り落とされた腕から、新しい腕が再生されていく。
目の前で再生されているのを見ると、信じるしかない……。
「これで、数日後には元の様に動かせれるわよ。
どこか痛いところはない、ミーネ?」
ここに運ばれた時のミーネは、右腕を切り落とされた痛みと喪失感で、苦痛が半端ないほどだった。
今は笑顔になり、新しく再生した右腕を、左手で愛おしむ様に触っている。
「シブ様、本当にありがとうございます。
右手が切り落とされた時は、人生が終わったと思ったのですが、まさか、腕が再生するなんて思いもしなかったです。
痛いところはないのですが、再生された腕が異常にむず痒いのですが?」
「それは、神経、筋肉などが元の状態になる為に活発に再生しているから。
今はほとんど腕が動かせないと思うけれど、数日すれば完全に元に戻るわ」
ミーネはさらに笑顔になり、シブ姉ちゃんと俺に言う。
「シブ様、トルムル様。
本当にありがとうございます。
再生された右腕って、トルムル様の肌みたいに潤いがあって、とっても気に入っています」
「ミーネに喜んでもらえて嬉しいわ。
でも、再生したばかりの右腕だから潤いがあるけれど、戦線に戻ったら元の荒れた肌に戻るわね……。
そうだ! トルムルからもらった、潤いを保つ化粧品をミーネにも分けてあげるわ。
アロエと蜜蠟から作った乳液よ。
潤いを保って、肌を保護もしてくれる優れ物。
試作段階だけれど、使った感想を後で教えて」
ミーネはシブ姉ちゃんから試作品を受け取ると、フタを開けて中身を見ている。
そして俺を見て、以外だという顔で言う。
「トルムル様って、新しい化粧品までお考えになられるのですか?
私が大好きなコーヒーとビスコッティーも、トルムル様がお考えになられたと聞いています。
この試作の化粧品はラベンダーの香りがしているのに、ラベンダーの色が混ざってないのが驚きです。
ロウソクにラベンダーの香りを混ぜる時は、真っ白いローソクがラベンダー色に染まるのに、これは染まっていないのでとても不思議です」
え〜〜と、何て答えようかな……?
前の世界でラベンダーを蒸留すると、香りの成分を抽出できるのを知識として知っていたので、試しにしたら成功したんだよな。
それに、アロエと蜜蠟の事も知っていたので、この三つを一緒に混ぜただけ。
これはまだ試作段階で、改良して品質を上げないとハーリー商会では売れない。
そうだ!
ミーネはさっき、ローソクを作る時にラベンダーを混ぜると言っていたよな。
とすると、ラベンダーの扱いに慣れているって事。
良いアイデア思いついたよ俺。
「しさくひんなので、つかったかんそうをききたいです。
それと、もしよかったら、さらによいものをつくりたいので、きょうりょくをたのめますか?
ミーネはラベンダーのあつかいに、なれているみたいなので。
ぜひおねがいします」
俺はそう言って、頭を下げた。
ミーネが驚く様にして俺に言う。
「トルムル様が私に頭を下げる必要なんて、全くありません!
私からお願いしたいと思っていました。
私の実家がラベンダーを栽培しているので、凄く興味があったんです。
よろしくお願いします、トルムル様」
なんと、実家がラベンダーを栽培しているんだったら、幼い頃から取り扱いには慣れているはず。
これで品質が向上しそうで、素直に嬉しい。
「このたたかいがおわったら、ほんかくてきに、はじめようとおもっています。
そのときは、よろしくおねがいします」
俺がそう言うと、ミーネは弾ける様な笑みで言う。
「正直言って、この戦いが終わったら何するか決めていなかったので、私の好きなラベンダーに関わる事ができるので、今からとても楽しみです。
それに、新しい化粧品を開発するのって、みんなの役に立つのでやり甲斐もあるので、一生懸命頑張りたいと思います」
ミーネと別れると、別の重症患者の所に行く。
こうして朝から晩まで治療をしても、途絶える事なく患者たちが運び込まれ、寝る時間がないほど……。
真夜中を過ぎた頃、シブ姉ちゃんがいきなり俺を背後から抱き抱えて言う。
「トルムルは根を詰め過ぎよ!
総司令官の貴方が疲労で倒れたら、全軍に多大な損害が出るかもしれないわ。
トルムルは凄い事を沢山してきたけれど、体はまだ赤ちゃんなのよ。
私達と同じ様に動けるには、まだまだ先の話。
今は寝て、1日の疲れを取らなければならないわ。
貴方の姉さんとして、強制的にベッドに連れて行きますから!」
……。
な、何も反論できない……。
そういえば、さっきから細かなミスを何度もしていた……。
それを、シブ姉ちゃんは見ていたんだ。
ケガ人の治療をしなければと思って、自分自身の事を忘れていた……。
シブ姉ちゃんの言う通りだ。
ベッドまで姉ちゃんに運ばれて、強制的に寝かされた俺。
横になった途端、意識が夢の世界に引き込まれて行く……。
◆
「トルムル、おひるごはんできたよ」
ウール王女が、枕元で俺に言う。
……?
お昼ご飯……?
俺は、真夜中から昼まで寝ていたのか……。
寝すぎだ〜〜〜〜〜〜!
俺はベッドから飛び降りると、仮設テントの外にでる。
太陽は南を過ぎて、西に僅かに移動した所にいる。
もしかして……、俺って半日も寝ていたの……?
『思っていた以上に疲れていたみたいね、トルムルは。
でも、それだけ寝れば、疲れは取れたでしょう?
それと先程、アトラ姉さんから都市の制圧に成功したと連絡が来たわ。
これで残るのは、メデゥーサの居る城塞都市だけになった。
いよいよ、最後の決戦が始まるわね。
それだけ寝ていたんだから、勝機はあるわよね、トルムル?』
俺が起きた途端、命力絆で言ってきたシブ姉ちゃん。
ウール王女が、シブ姉ちゃんに連絡したんだ。
みんなが、俺の事を心配している……。
なんだか、妙に嬉しい。
最後の地方都市を制圧できたので、シブ姉ちゃんの言う通り、最後の決戦が始まる。
半日も寝ていたので……、気力も体力も充実している。
しかも、テントから漂ってくる香りは、間違いなく俺の大好物のクロワッサン。
キュゥ〜〜、グルグルグル〜〜。
おっと。
お腹の虫がなっている。
メデゥーサを倒す前に、クロワッサンを先にやっつけますかね。
なんだか今日は、良い日になりそうだ!