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グライアイ

 全軍を率いて進むと攻撃力は増すけれど、さっきみたいに防御魔法を使うと、俺の魔法消費が多くなる。

 ここは、姉ちゃん達と俺だけでグライアイが居る山に登った方が良さそう。


『ぜんぐんは、ここでたいき。

 ぼくと、ねえさんたちだけで、グライアイとたたかいます』


『そうだね、その方が少数精鋭で戦いやすいかも知れない。

 グライアイから攻撃を受けても、私達だけなら自力でしのげるだろうし』


 そう言ったのはアトラ姉ちゃん。

 実戦経験の最も多い姉ちゃんと、意見が一致したので少し安心する俺。


 全軍がいる前で、姉ちゃん達が馬に乗って進みでる。

 姉ちゃん達の顔を見ると、やる気十分で、気迫に満ちている。


 独身の男性隊員達から、小さなどよめきが起きている。

 何事かと思って、聞いてみる事に。


 聴力を魔法で上げてあるので、コソコソ話でも聞き取れる。


「エイルさん、今日は一段と綺麗だよな」


「やはり、世界的に有名な姉妹だけあって、見ているだけで幸せ」


「ハァー。

 凛々しい姿のアトラさんと、一緒に戦いたかったよ」


 ……?

 独身の隊員達が、姉ちゃん達の美貌にため息を吐きながら言ったどよめきだったんだ。


 いつも見ている姉ちゃん達だけれど、こうやって改めて武装している姉ちゃん達をみると、凛々だ。

 姉ちゃん達は世界的に美人で有名だけれど、武装した姿は、一枚の絵になるくらい勇猛で美しい……。


『トルムルは私達を見ているようだけれど、何か気になる事でもあるのかい?』


 おっと!

 ついつい長く、姉ちゃん達を見すぎてしまった。


『な、なんでもありません。

 それでは、これからしゅっぱつします』


『『『『分かったわ、トルムル』』』』


 姉ちゃん達がそう言うと、乗っている馬が同時にグライアイ目指して走り出した。

 俺は重力魔法を使って、姉ちゃん達と一緒になって移動をする。


 俺の右側には、アトラ姉ちゃんとエイル姉ちゃん。

 左側にはイズン姉ちゃんと、ディース姉ちゃんだ。


『試しに、真空弓バキュイティーボーで狙ってみるわ』


 そう言ったのはエイル姉ちゃん。


 ヒュン、ヒュン、ヒュン。


 あっという間に三本の矢を、真空弓バキュイティーボーで射ったエイル姉ちゃん。

 全速力で走っている馬から、遠くの山に居るグライアイめがけて矢が飛んで行く……。


 って、途中から早すぎて見えなくなった……。

 次の瞬間に矢は、グライアイの三姉妹の内、目玉を装着……、している先頭の老婆に突き刺さった……?


 いや、違う!

 防御魔法が発動して、矢を横にそらした。


 3本の矢は正確に飛んで行ったみたいだけれど、グライアイに命中しない……。

 普通、1回目の攻撃は防御魔法が発動して矢を止めるけれど、立て続けに放たれた二本目の矢は次の防御魔法が追いつかなくて、魔物に命中する筈だ!


 しかし、グライアイに放たれた矢は、全てが防御魔法を通り抜けることができなかった。

 エイル姉ちゃんの腕が悪いわけでは決してない。


 動いている馬から姉ちゃんは、遠くの目標に正確に三本の矢を射っている。

 これだけ高度な技を使えるのは、この世界では数えるほどしかいない程、姉ちゃんは凄い。


 むしろ、グライアイの防御魔法を褒めるべきだろう。

 今度は、俺が試しに矢を射ってみますか……。


『ぼくがこんど、やをいってみます』


 俺はそう言うと、魔矢を立て続けに八本射る。


 シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ。


 真空弓バキュイティーボーと同じで、魔法で作り出された矢は手元から放たれると、あっという間にグライアイを襲った。

 しかし、さっきと同じ様に矢が横に弾かれているのが見え、かなり特殊な防御魔法らしく、普通では考えられないほど高度だ!


 どうやら、姉妹で共有している目玉に秘密がありそう。

 矢を弾いた時、グライアイの目玉が怪しく光っているのが見えたから。


 グライアイの目玉は、防御魔法が連続して発動する秘密が隠されているのかもしれない……。

 もしかしたら、グライアイの強大な魔法の秘密は目玉にあるのか……?


『やがはじかれたとき、グライアイのめだまがひかりました。

 どうやら、めだまにグライアイのまほうのひみつがあるみたいです』


 そう俺は姉ちゃん達に言うと、ディース姉ちゃんが言い始める。


『私もそう思うわ、トルムル。

 エイルの時は三回、トルムルの時は八回グライアイの目玉が光ったのが分かったから。


 どうやら、目玉がグライアイの要みたいね』


 ディース姉ちゃんも、グライアイの目が光っているのを見たんだ。

 しかも、回数までしっかりと数えていたなんて、姉ちゃんは思っている以上に動体視力が良さそう。

 

 そういえばディース姉ちゃんの槍には、スキュラの魔石が組み込まれており、一度の突きで、追加で六回同時に攻撃できる魔法が組み込まれていたんだった。

 つまり、槍の突き一回で、魔石の魔法が発動して六回突けるので、同時に七箇所の目標を見なくてはいけなくなる。


 スキュラの魔石がディース姉ちゃんの槍に組み込まれてから、正確に七箇所の目標を突くには、姉ちゃんはあれから猛特訓したに違いない。

 ディース姉ちゃんが戦ったのを見た事があったけれど、同時に七匹の魔物を突き刺していた。


 これって、動体視力がかなり良くないとできない事だよな。

 さすが、ディース姉ちゃんだ。


『トルムルは私の顔を見ているけれど、何か顔に付いているの?』


 おっと。

 又しても、長く姉ちゃんを見てしまった……。


『グライアイの、めだまがひかるかいすうを、せいかくにかぞえられたディースねえさんは、すごいとおもったからです。

 ぼくは、れんぞくして、ひかったのしか、かくにんできませんでしたから』


『トルムルに、褒めてもらえて嬉しいわ。


 見て……、今度は目玉が赤く一瞬光った。

 何かの魔法を使ったのは間違いないわね』


 ディース姉ちゃんに言われてグライアイの方を見ると、何かが俺達を襲って来ていた。

 真っ赤な水が、いきよいよく山頂から流れ出している。


 真っ赤な水が木々に当たると、木が燃え出しており、かなり高温な水……?


『あれは溶岩だわ!

 みんな気を付けて!』


 そう言ったのは、魔法が得意なイズン姉ちゃん。

 山を登り始めていた俺達に、グライアイは魔法で溶岩を作り出したんだ。


 このままでは姉ちゃん達が危ないと思って絶対零度アブソリュートゼロの冷気魔法を発動しようとしたら……。

 姉ちゃん達は既に散開しており、溶岩の流れを避けるべくそれぞれ行動に出ていた。


 姉ちゃん達も遠くが見えるので、予め溶岩の流れる箇所を予測して、避けるようにして馬を誘導して山を登っている。

 さすが賢者達で、これくらいの攻撃は自力で何とかできるみたい。


 俺は空中に浮いているので、流れる溶岩の上を飛んで、何ら問題なく山頂を目指す。

 山頂近くまで来ると、グライアイが俺を睨んで言う。


「お前が新しい賢者の長になったトルムルだね。

 噂だけかと思ったら、本当に赤ちゃんだとは……。


 しかし、たとえ赤ちゃんでも容赦はしないよ。

 魔王様から、賢者の長は殺すように命令されているからね』


 何度も聞いている魔王からの命令。

 いい加減、俺の事諦めてくれないかな?


 熱烈に、魔王からの暗殺命令を聞かされると、怖いんです……?

 ん……?


 この世界で最も強いであろう魔王からの睨まれても、俺は怖いとは感じない……?

 なんで……?


 今まで、多くの強敵を倒して来たので、少しは自信が付いたのかな?

 それよりも、魔王と戦うのを楽しみにしている俺って……?


「なに、ボーッとしているんだい。

  魔王に睨まれれると知って、ビビったのかい?


 まだまだ、ひよっこだね」


 ひよっこって言われたけれど、俺は赤ちゃんだから、ある意味、的を得ている……?

 魔王と戦うのを楽しみにしている俺って、どこかおかしいのかな、やっぱり……?


 って思っていたら、グライアイの目玉が再び怪しく光った。

 とっさに魔法でいつもの盾を作って、魔法攻撃に備えると、いきなり盾の半分が切り裂かれ、霧散した!


 やばい!


 これって、超強力なカマイタチみたいだ。

 俺は再び魔法で盾を作り、今度は弾力性を数倍増すイメージで作り出した。

 すぐに次のカマイタチが襲ってきたけれど、今度は弾力がある盾だったので、切り裂かれずに小刻みに震えながら耐え忍んでいる。


 流石、おっぱい型の盾だ!

 伝説上、超強力な魔法を使うと言われていたグライアイの攻撃を受け止めるとは!


 って、感心している場合じゃないよな。

 反撃に出ないと……。


 ドッゴォーーーーーーーーーーン!!


 突然の音は、アトラ姉ちゃんが超音波破壊剣ソニックウエーブディストラクションソードを使った音だ!

 攻撃を開始し、姉ちゃんはグライアイに斬りかかって行く。


 エイル姉ちゃんも、アトラ姉ちゃんと同時に別の方向から斬りかかる。

 ディース姉ちゃんは槍で襲いかかっており、イズン姉ちゃんは最大火炎魔法アルティメイトファイアーを左右の手からの魔法攻撃。


 姉妹の息の合った四方からの猛攻に、グライアイは驚いている。


 ピカァ、ピカァ、ピカァ、ピカァ〜〜〜〜〜〜!!


 目玉が怪しく四回光り、姉ちゃん達の攻撃を跳ね返した。

 その勢いで、姉ちゃん達は大きく後ろに飛ばされる。


 勢いで馬は倒れているけれど、姉ちゃん達は全員怪我もなく無事に立って、戦闘態勢をしている。

 あれだけの同時攻撃を跳ね除けるなんて、グライアイはやはり強敵だ!


 でも、さっきの防御魔法は明らかに周りに張り巡らせているみたいで、もしかしたら上は、防御魔法が無いのかもしれない。

 何故なら、グライアイの上を除いた周りに霧のような靄が、姉ちゃんの攻撃を弾いたのを近くから見たからだ!


 とすると、上から攻撃すれば、グライアイの防御魔法をくぐり抜けられるかもしれない……。

 迷っている暇はないので、俺は巨大蛸足クラーケンレッグの魔法を発動する。


 上空に巨大なクラーケンの足が現れたと思うと、グライアイめがけて振り下ろされる。


 ズッ、ズゥゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!


 膨大な土煙が上空に舞い上がり、グライアイの居た辺りは何も見えなくなった。

 気配で探ると、さっきまで感じていたグライアイの殺気が全く感じられない……。


 かといって、魔石にならずに生きているみたいで、もしかして気絶したのかな……?


 土煙が収まって、グライアイを見たけれど、見つけられない……。

 よく見ると、グライアイの居た辺りに大きな穴があいているのが見える。


 重力魔法を使って、上空から穴を見てみると、グライアイが穴の底で気絶していた。

 グライアイの一人が目玉を持っていたので、重力魔法で回収する。


 ちょっと気持ち悪いけれど、グライアイの魔法のかなめである目玉がここにある限り、もはや彼女達は怖くない……、はずだ。

 ウール王女に連絡して、ニーラを連れて来てもらう事に。


 ニーラがペガサスに乗ってここに着くと、さっそくグライアイ達に魔法を掛けて、魔王に支配されていた心を取り戻した。

 穴からグライアイを出してやり、治癒魔法を発動する。


 グライアイが、腰をさすりながら起き上がってきたのを、ペガサスが心配して彼女達には近寄って話しかける。


「ペムプレードー叔母さま、エニューオー叔母さま、そしてデイノー叔母さま、大丈夫ですか?」


「その声はペガサスなのかい?

 目玉がどっかに行ったみたいで、真っ暗で見えない。


 ペガサスや、私たちの目玉を知らないかえ?

 あれがないと、歩く事さえできないよ」


 ペガサスが俺をチラッと見てから、グライアイに話す。


「叔母さま達の目玉は、今度新しく賢者の長になられたトルムル様が持っています。

 叔母さま達を、魔王に支配された心を取り戻したのは、ひとえに彼の功績なのです。


 トルムル様、叔母さま達は元に戻られたので、目玉を彼女達に返してもらえないでしょうか?」


 グライアイが元に戻ったのなら、もちろん返すよな。

 っていうか、目玉はグライアイの手元を離れても、絶えず動いて気持ち悪いんで、すぐに返したいです……。


 目玉をグライアイに返すと、俺をしげしげと見つめだす……。


「長い間私達は生きて来たけれども、赤ちゃんがこれほどの能力を見せるとは、まさに奇跡!

 貴方様だったら、必ずや魔王様を倒すことができましょう。


 老婆心ながらこのグライアイ、協力は惜しみませんぞ」


 伝説上、有名なグライアイが味方についてくれて、心強いよな。


「ありがとうございます。

 まおうをたおすべく、ぼくはぜんりょくをつくすつもりです」


 この後、お互いの挨拶が終わって、グライアイから情報を得た。

 それによると、メデゥーサ城塞都市に立てこもっているらしい。


 ついに、メデゥーサの居る城まで行くことができそうだ。

 激戦が予想されるけれど、姉ちゃん達を始め、ここにいる皆んなはメデゥーサ戦の勝利を確信しているみたいだ!


 この大陸での、最後の強敵を倒す時がいよいよ来た!!


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