ピラーニャ
丘を超えると、平原が続くと聞かされていたのに、巨大な湖が目に入ってきたのでびっくりする俺!
平原の全てが、浅い湖に変わったみたい……。
これは明らかに、俺達の進行を止める為にメドゥーサが指示したのに間違いない。
平原の中を川が流れていると聞かされていたので、おそらく下流にダムを作ったみたいだ。
東の方を見ると、2つの山の斜面が削られており、その土砂で川を埋めた感じだ。
しかも、物理的に凄い量の土砂を使っているのが分かって、出城の岩を除けた比ではないぐらい多いい。
おそらく、岩石巨人を使っても数日かかる量だ!
どうすれば、ここを通れる……?
『馬で湖を渡ろうと試みたら、ピラーニャに襲われている。
手のひらサイズの魚だけれど、数が多過ぎて苦戦しているので、トルムルの助けがいる』
命力絆で、そう緊迫した声で言ってきたのはアトラ姉ちゃん。
ピラーニャって……、とっても美味しい魚だよね。
1匹だけだと怖くないけれど、集団で襲われると、馬でもあっという間に骨にされると聞いている。
湖の中をよく見ると、ピラーニャらしき魚が無数にいるのがわかる。
姉ちゃんの所に急降下して行くと、多くのピラーニャが姉ちゃんが乗っている馬を襲っている。
姉ちゃんは剣でピラーニャを退治しているけれど、次から次へと襲って来るピラーニャに苦戦を強いられている。
すぐに重力魔法で、馬と乗っているアトラ姉ちゃんを湖からすくい上げた。
馬の足から大量の血が流れ出ていたので、治癒魔法で治し、岸に移動させると姉ちゃんが言う。
「助かったよ、トルムル。
試しに馬で湖を渡ろうとしたんだけれど、まさか、ここにピラーニャがいるとは思いもしなかった。
これでは、向こう岸まで行けない。
どうにかできないか、トルムル?」
どうにかって言われても……。
さっきまで、それを考えていたんだよね。
「トルムル、むこうのやまに、まものが4にん、こちらをみている。
ひとりのあたまには、ちいさいへびが、うごめいている」
ウール王女がそう言って、指差す方を見ると間違いなくメドゥーサがこちらを見ていた。
でも、人間は潜望鏡タイプのメガネをしているので、石にならずにすんでいる。
ペガサスにも同じ様なメガネを作ってあったので、一安心。
メドゥーサを見ると、悔しそうにしているのが分かる。
石になる魔法をメドゥーサが発動しているみたいだけれど、俺達が石にならずに動き回っているので、それで分かったみたいだ。
でも、横にいる3人の老婆は誰だろうか……?
『メドゥーサの横にいる3人の老婆はグライアイね。
3人で、1つの目を共有しているのがここから見えたから。
伝説上の魔物だけれど、まさか、ここに現れるなんて驚き!』
そう言ったのは、ディース姉ちゃん。
グライアイって確か、ゴルゴーン三姉妹の姉妹……?
「まさか、グライアイ叔母様達がここにいるなんて……。
引退して、洞窟の中で余生を送っていたはずなのに……」
ペガサスがグライアイの名前を聞いた途端に、そう言って驚いている。
引退していたグライアイをここに連れてくるなんて、魔王は手駒が無くなってきたのかな……?
でも、グライアイって、伝説では超強力な魔法を使う事で有名だ!
しかし、1つの目玉を3人で共有するのって、どんな特殊な目玉なんだろう……?
とにかく、グライアイ達と戦う前に、湖の水をなんとかしないと、先に進めない。
湖を凍らす事は出来るけれど、魔法の消費が大き過ぎて、その後に控えるグライアイとメドゥーサ戦で戦えなくなってしまう。
とすると、竜巻で湖の水を吸い上げて、水は遠くに飛ばすしかないかな……?
それだと、魔法の消費が少ないので、なんとかなるかも。
これ以上考えても分からないので、実行あるのみ!
俺は早速、小さな竜巻を発生させて、湖の水を吸い上げて行く。
ゴォ〜〜〜〜!!
ゴォ〜〜〜〜!!
ゴォ〜〜〜〜!!
よく見ると、竜巻がもう2つできている。
風の魔法が得意なエイル姉ちゃんと、魔法が得意のイズン姉ちゃんだ!
2人は小さな竜巻を出して、俺と同じ様に湖の水を汲み上げている。
湖の水は、遠く山の向こうに飛ばしているので、湖面の水位が急速に下がっていく。
しばらくすると、湖の水がほとんど無くなり、歩いて渡れるぐらいになった。
竜巻を消すと、上空から無数の何かが襲って来ているのが気配で分かった。
俺は姉ちゃん達に、命力絆を、使って緊急の連絡をする。
『じょうくうから、むすうの、ちいさなまものがせっきんちゅう。
かくぶたいは、げいげきたいせいを、しいてください』
『『『『わかったわ、トルムル』』』』
姉ちゃん達の息のあった返答に、思わずニコッとする俺。
緊急の時って、姉妹の反応が全く同じなのには血筋を感じるよね。
って、それよりも、上空から来る小さな魔物は戦意を全く感じないんだけれど、なんで……?
襲って来る魔物をよく見ると……。
ピ、ピラーニャ……?
ピラーニャって、空を飛べたの……?
ドサ、ドサ、ドサ、ドサ、ドサ、ドサ。
ビチィ、ビチィ、ビチィ、ビチィ、ビチィ、ビチィ。
地面で跳ね回るピラーニャ。
もしかして、これって俺のせいなの……?
周りでは、ピラーニャを剣で突き刺している。
『トルムルが言っていた魔物って、ピラーニャなのかい?
でも、何でピラーニャが空から降ってくるのか不思議』
そう言ったのはアトラ姉ちゃん。
えーと、それは俺の仕業になるな……。
『さっきのたつまきで、ピラーニャがじょうくうにとばされたみたいです。
ちょうど、おひるどきなので、ピラーニャをみんなでやいてたべましょう』
『ここで、ピラーニャを焼いて食べるのかい……?
メドゥーサは居なくなったみたいだけれど、山の上からグライアイが見ているのに……?』
姉ちゃんは驚いた感じで聞いてくる。
『かなりとおくにいるので、かのじょたちは、まほうをつかいにくいと思います。
おひるごはんがおわったら、しんぐんします』
アトラ姉ちゃんが呆れ返った様に言う。
『トルムルは肝が据わっているな。
私も、トルムルを見習わないとな』
今度はエイル姉ちゃんが、アトラ姉ちゃんに思い出しながら言う。
『トルムルは以前、戦いの前にゆっくりと食事を取って、仮眠もしたぐらいよ、アトラ姉さん。
魔物が見ている所で、食事をするのは朝飯前よね。
あ……。
今はお昼時よね』
そう言って笑い出したエイル姉ちゃん。
この頃の女の子は、これくらいで可笑しいんだ……。
『それではぜんぐん、ピラーニャをやいて、おひるにします』
『『『『了解』』』』
ピラーニャを焼けるだけの火炎魔法は誰でもできるので、香ばしい香りがあちらこちらから漂ってくる。
俺も近くにいたピラーニャに、火炎魔法で焼いていく。
俺の場合、油断したらピラーニャが消し炭になってしまうので、凄く弱い火炎魔法で焼いていく。
焼き終わると、ピラーニャを持ってかぶりついた。
う、美味い。
以前食べたピラーニャよりも遥かに美味しい。
やはり、新鮮で、外で食べるから美味しくなるよね。
隣に居るウール王女もピラーニャを持って睨んでいる……。
王家に生まれて、お皿の上の魚しか食べたことのなかった王女は、魚をかぶりつくのは初めてみたい。
迷いながらも、最初の一口を食べて驚いている。
「ピラーニャが、こんなにおいしいなんて!
しろのなかでたべるよりは、こちらのほうが、だんぜんおいしいです」
そう言ったウール王女は、二口目を食べ始めた。
ニーラはよほど美味しかったのか、頭も食べている。
人間世界に馴染むには、頭は食べないようにといったのだけれど、今回だけは大目に見ますか……。
なんたって、ピラーニャはすっごく美味しいからな。
昼食が終わると、進軍を開始する。
草原の中央まで来ると、グライアイの殺気が感じられるようになる。
何かの、魔法を発動するみたいだ。
ふと、上空に気配を感じて見上げると、岩石巨人が落下してきている。
このままだと、岩石巨人に押しつぶされてしまう……。
とっさに俺は魔法を発動して、全軍の上空に巨大な盾を作り出した!
いつもの様に、おっぱい型の盾だけれど、今までで最大の大きさだ!
ボヨヨォ〜〜〜〜ン!
城がすっぽりと入るくらいの盾は、超強力な弾力で、岩石巨人をグライアイの方に飛ばした。
ビユゥーーーーーー。
ドォ、スゥゥゥ〜〜〜〜〜〜ン!!
岩石巨人はグライアイに向かって行き、最後には粉々になった。
無意識の内に、岩石巨人をグライアイの方に飛んで行くようにしたみたいだ。
砂埃でよく見えないけれど、もしかして……、やっつけたのか……?
「「「「「「ワァ〜〜〜〜〜〜!!」」」」」」
全軍が、歓声を上げている。
どうやら、グライアイの岩石巨人を、俺が魔法で作った盾で、跳ね返したのに感動したみたいだ。
「流石、トルムル様だ!」
「あんなに大きな岩石巨人を跳ね返すなんて、人間業とは思えないわ」
「すっげぇ〜な、賢者の長は!」
みんな俺を褒めているけれど、グライアイの気配は消えてはいない。
グライアイとの激戦は、これから始まる!