出城
窓から外を見ると、東の空が明るくなり始め、もうすぐ夜明けなのが分かる。
城内では、戦いの準備に追われている。
夜の見張りをしていた人達は、寝ている人もいるかもしれないけれど、殆どの人達は騒音で慌ただしいので眠れないみたいだ。
っていうか、夜明けと共にメデゥーサのいるメデア国に進軍するので、見送りたいみたい。
何たって、今回の戦いは記念になるのは間違いなく、この戦いに勝利すると、奪われた国を全て取り戻せる。
戦える人達は全員、この戦いに参加を希望しているけれど、奪い返した城の守りも重要。
居残り組はそれを理解はしているみたいだけれど、貧乏くじを引いたと彼らは思っている。
それはそうだよな。
歴史的な戦いになるのは間違いなく、誰もが参加を希望していた。
ヒミン王女も、今回の戦いに参加したいだろうけれど、王女に俺はこう伝えた。
『ヒミンおうじょには、ひきつづき、ぶっしのゆそうのてはいを、おねがいします。
ぜんせんで、おもうぞんぶんたたかうには、えんかつな、こうほうしえんがかかせません。
いままでのじっせきから、おうじょがてきにんと、はんだんしました。
よろしくおねがいします』
『トルムル様、私は……。
いえ、何でもありません。
与えられた任務を遂行し、今回も勝利に導くべく全力を尽くします』
王家に生まれ育ったヒミン王女も、やはり今回の戦いに直接参加したかったみたい……。
でも、王女以外には後方を任せられる人物が居ないので、諦めてもらうしかない……。
その事について詳しく話さなかったけれど、聡明なヒミン王女は理解してくれたみたいだ。
それに、王女は俺に忠誠を誓っているので、指示には従わざるを得ない。
でも過去に、俺が大反対したにも関わらず、無理矢理……、姉ちゃん達と温泉に入らされた事があった……。
その時は、最終的には自分の理性に従うと言っていた。
今回は、ヒミン王女の理性と、俺の判断が一致したみたい……。
王女の分まで、頑張らないとな。
「もういいわよ、トルムル」
そう言ったのはエイル姉ちゃん。
エイル姉ちゃんとニーラの3人で、同じ部屋で寝泊まりしているけれど、2人が着替えている間は俺は窓の外を見るようにしている。
年頃の若い娘……、であるニーラの着替えを見る訳にはいかないからな。
それに、エイル姉ちゃんの着替えも見たくないし……。
振り返って2人を見ると、緊張感が伝わって来る。
やはり、今回の戦いには特別な思いがあるみたいだ。
「いよいよね、トルムル。
私は部隊の人達と、一緒に朝食をとるから先に行くわ」
そう言って、エイル姉ちゃんは完全武装の姿で部屋を出て行った。
前回に引き続いて、部隊長を任せてあるので、彼らと行動を共にしたいみたいだ。
でも本当は、その部隊にいる彼氏のスィーアル王子と一緒に過ごしたいのかもしれない……。
激しい戦闘が予想されるので、何が起きるか分からないから、出来るだけ好きな人の所に居たい気持ちは痛いほど分かる……。
コンコン、コンコン。
エイル姉ちゃんが部屋を出たすぐ後に、誰かがドアをノックしている。
気配でウール王女だとすぐに分かった。
「どうぞ、はいってください」
俺がそう言うと、静かにドアが開きウール王女が入って来る。
いつもと違って気合いが入っているみたいで、血色がよく、今まで以上に可愛く見える……。
ジッと、ウール王女を見ていたので、王女は急にソワソワしだした。
「なにか、わたしのかおに、ついているのトルムル?」
おっと!
つい、必要以上に見てしまった……。
「な、なんでもありません。
いつもとちがう、かみかざりをしているので、なんだろうとおもっていただけです」
ご、ごまかせた……。
「これですか?
これはさいきん、おかあさまからいただいた、ぼうぎょまほうがふよされた、かみかざりなのです」
髪飾りに、防御魔法を付与しているのは良い考え。
最近、俺の髪が思った以上に生えてきているので、俺も髪飾りを……。
って、男はしないか。
でも、バンダナを頭に巻くと、多少の防御にもなる。
魔石を組み込んで、防御魔法を付与すれば完璧だ!
「いいアイデアです。
ぼくもマネをしてみます」
俺がそう言った途端に、ウールの目が突然大きく見開いた。
ちょっと驚いた顔も、か、可愛い……。
「トルムルも、するのですか……?」
あ……。
勘違いしているかな……、ウール王女。
「かみかざりでなく、バンダナをあたまにまいて、とうぶをほご、するんです。
ませきをくみこむので、いまいじょうに、ぼうぎょりょくがあがりますから」
それを聞いたウール王女は、クスクスと笑い出した。
「それをきいて、あんしんしました。
トルムルも、かみかざりをつけるとおもったので」
やはり、俺が髪飾りを付けると思ったみたいだ……。
それにしても、笑っているウール王女が一番カワイイ……。
早い朝食を食べ終わると、夜明けと共にペガサスに乗って北を目指し、雲一つない大空に駆け上がって行く。
ペガサスの足は空気を蹴ることが出来るので、舞い上がるでは印象が違う気がする。
まるで、急な坂道を馬に乗って駆けて行くのと全く同じ。
地面でなく、それが大空に変わっただけだ……。
よく考えると不思議だけれど、魔法の世界だからすんなりと受け入れやすい。
ある程度上空に駆け上ったら、今度は水平に駆けて行く。
おそらく、この世界ではペガサスに敵うものがいないほど早く大空を走っている。
右手には朝日が昇り、眩しいくらいだ。
既に敵陣地に入っており、進軍する先の地形をウール王女と2人で見始める。
今回は妖精達の援護がないので、手探りで敵陣に乗り込まなくてはいけない。
何故なら、メドゥーサに睨まれると、妖精達も例外なく石にされるからだ!
既に、石にされている妖精達もいると、モージル妖精女王が言っていた。
今回は、仲間の魔物も、妖精達も参加しないので戦力的にはかなり少なくなっている。
しかし、人間は今まで以上に一致団結し、装備も充実しているので安心だ。
そう思っていると、前方に出城が見えてきた。
ここ数年で作った出城らしく、教えられた情報にないので、明らかに人間が作ったものではない。
今まで見た出城の中では最大級で、頑丈そう。
姉ちゃん達がここに着くまでには何とかしたい。
となると、再び岩石巨人の出番だけれど、アトラ姉ちゃん似はもう出せない……。
他の姉ちゃん達に似せても、やはりダメだ!
姉ちゃん達は年頃の女の子なので、自分に似た岩石巨人が暴れるのを見たくないだろうし。
となると、俺に似た……、岩石巨人か……?
それしかなさそう……。
えーと……、俺自身の岩石巨人を出すとなると、少し難しい。
鏡をほとんど見ないので、俺自身どんな容姿か細部まで分からない。
着替えた後の確認は、いつもエイル姉ちゃんがしていたので……。
時間がないので、できるだけ自分のイメージを手の中で作る。
もちろん、ウール王女達が見るので、少しカッコ良くしないとな……。
イメージが完了したので魔法を発動し、俺似の岩石巨人が出城に前に現れた。
ズズッ〜〜〜〜〜〜ン!!!
……?
あれ……?
少し、俺と違う気がするけど……。
あぁぁぁーーー!!
8頭身になっている……。
しかも、髪の毛が多すぎてアフロみたい……。
ウール王女とニーラが、岩石巨人を見て驚いている。
「もしかして、あれはトルムルなの……?」
ウール王女が聞いてきたけれど、何て答えたらいいのか……。
「あまり、にてないです……。
でも、せんとうには、かんけいないので……」
「15ねんごの、トルムルかもしれませんね。
とても、カッコいいです」
え……?
ウール王女が褒めてくれた……。
アフロ、なのに……?
でも、とってもうれしい。
しかし、現実の俺はどうみても、6頭身……?
もしかして、5頭身か……?
って、今は戦闘中だった。
魔物側から攻撃があるけれど、表面の服が剥がれ落ちているだけで、戦闘能力には問題ない。
岩石巨人の腰まで城壁があるけれど、積んである石組みを脇に退け始める。
魔物は猛攻をしているけれど、機能的には問題ない。
流石、岩石巨人だ!
って、自分が出した岩石巨人を褒めても仕方ないか……。
両手を使って、城壁の岩を取り除くスピードを速めていく。
まるで、木の積み木を取るぐらい簡単に。
出城が解体するにつれて、魔物が戦意を無くして逃げて行く。
最後の方は、後から来る姉ちゃん達の為に道を平らにする。
ここまで解体する頃には、魔物の姿が見えなくなっており、最初の難関はすんなりと通る事が出来そうだ。
『トルムルに似た岩石巨人、可愛いわよ。
えーと、道の両脇にある岩の山は、もしかして……、出城の残骸なの?』
そう聞いてきたのはイズン姉ちゃんで、後ろを見ると味方が大挙してこちらに向かっている。
岩石巨人を見てイズン姉ちゃんが可愛いっていったけれど、どう返事していいか分からない……?
無視……、でいいか……?
『でじろがあったので、かいたいしました。
まものもにげて、ここはぶじにいけそうです』
『これだけの岩を、両脇に移動させたの……?
凄すぎるわ、トルムル。
話に聞いていたけれど、実際この量をみると、赤ちゃんのトルムルがしたとは到底思えないわ。
呆れ返るほど、凄いわね』
イズン姉ちゃんに褒めてもらえて、とても嬉しい……。
この調子で、メドゥーサの居る城まで快進撃開始だ〜〜!!