メデゥーサの息子
魔王に奪われた三国の内、二国を奪い返した。
残りは一国だけとなったけれど、この大陸で最も手強いメデゥーサがそこにはいる!
姉妹であるステンノーとユウリュアレーが口を揃えて言うには、メデゥーサの魔力は彼女達の中では、ずば抜けて高いと言う。
長女のステンノーもかなり高い魔力を持っていて苦戦したけれど、それよりも高いとなると、かなり厄介だ!
しかも、メデゥーサを見た生物を、石に変えてしまう魔法は誰も真似ができない。
人間にはそれ用の対策をして、俺が考案した潜望鏡タイプのメガネをそれぞれに持たしている。
けれど、元に戻った優しい魔物達にはそれに会うメガネがないので、今回の作戦には参加出来ない。
っていうか、殆どの魔物達は子育てに奮闘中で、夏までは手が離せない……。
唯一、子育てが終わっているのが巨鳥のジズ。
彼女は戦闘に参加できると俺に打診してきたけれど、今回はダメだ!
何故なら、余りにも大きな鳥なので、潜望鏡タイプのメガネを作れない……。
兵士の輸送を頼んだけれど、ジズは戦いたいみたいだ。
魔王が住んでいる大陸に行く時は、心置きなく戦闘に参加出来るよと説得する。
相手がメデゥーサでなければ、ジズも参加できるんだけれど……。
会議で、各地の戦況の報告を聞いている。
小さな戦いは単発的に各地で起こってはいるけれど、どれも大した被害が出ていない。
主な敵はギガコウモリで、夜襲を仕掛けてきている。
メデゥーサの配下にいる魔物達の中ではギガコウモリはずば抜けて攻撃力が高い。
しかし、防御力が弱いので、弓矢や、風の魔法攻撃による攻撃に弱い。
主な城や出城には、姉ちゃん達やヒミン王女がいるので安心だ。
彼女達は、命力絆で飛躍的に魔力と戦闘能力が上がっているので、ギガコウモリでも相手にならないぐらい強い。
さっきから気になっていたのだけれど、会議に参加していたペガサスの元気が無い。
特に、メデゥーサの話になると、苦痛で何か悩んでいるみたいだ。
気になったので聞いてみる事にする。
「ペガサスは、なにか、きになることでも、あるのですか?
さきほどから、げんきがありませんから」
俺から突然言われたので、ペガサスは驚いている。
そして、意を決した様に言い始める。
「実は、母の事を思い出していたのです。
優しかった母の事を思うと、今の現状に悲しんでいました。
幼い頃、ステンノー叔母様と、ユウリュアレー叔母様と共に、母とよくピクニックに行って楽しい時間を過ごしていました。
それが、魔王に操られているとはいえ、多くの人達を石に変えたのを見るたびに心を痛めていました。
トルムル様。どうか母を宜しくお願いします」
そう言ったペガサスは頭を下げる。
……?
え……?
話の内容からすると、ペガサスはメデゥーサの息子なの……?
ま、まさか……?
全く、似てないんですけれど……?
「ぼくの、ききまちがいでなければ、ペガサスはメデゥーサのむすこさん、なのですか?」
会議場内がどよめきだした。
一斉に、ペガサスの方を向く人達。
ペガサスは申し訳なさそうに言い始める。
「実は、メデゥーサが私の母だと言おうとしたのですが、石にされた人達を見る度に、怖くなったのです。
メデゥーサの息子が、ここ居ると分かると、今まで優しくしてくれた人達が私を怖がって白い目で見るようになるのではと。
申し訳ありませんでした。
今回の戦闘に私も是非参加したのですが、相手が母なので、戦闘に参加する有無の判断はトルムル様にお任せします」
そう言ったペガサスは、もう一度深く俺に頭を下げた。
って事は、ニーラや、ユウリュアレーにステンノー達は当然知っていたんだよな。
でも、俺に話さなかった理由も分かる。
ペガサスは優しい心の持ち主で、凶悪なメデゥーサとは正反対。
でも、メデゥーサの息子がここにいるだけで、人は潜在的にペガサスを恐れるようになる。
でも、肉親や友達を石にされた人達もこの会議に参加しているけれど、彼らを見ると、ペガサスに対して増悪の感情を向けていない。
今まで一緒に戦って来た実績があるので、彼らはペガサスに対しての不信感は全く無いみたいだ。
俺もそうで、ペガサスを全面的に信頼をしている。
それに俺は、ラスボスである魔王の娘ニーラと寝起きを共にしているので、要は本人次第だと思う。
「ペガサス、あんしんしてください。
きいたときは、おどろきましたが、あなたは、われわれの、たよれるなかまです」
ペガサスは、俺の話を聞くと喜びの顔で言う。
「ありがとうございます、トルムル様。
今以上に、一生懸命に頑張りますので宜しくお願いします。
それで、母の事を考えていましたら、1つだけ気になる事を思い出しました」
気になる事……?
是非、聞きたいよな。
「きになることとは、なんでしょうか?
メデゥーサにかんしてだったら、ささいな、じょうほうでもほしいので」
「私がトルムル様達に正気に戻していただいた少し前の話になるのですが、魔王直属の部下であるナイトシャドーが、近々配属されると聞きました。
ナイトシャドーは暗殺と拉致が得意な魔物みたいで、その実態はよくわからないのです。
ニーラ様を拉致する目的だと思うのですが、常にトルムル様が側にいますので、ナイトシャドーは手を出せないのではと思っているのです。
既に、この大陸にいるのは間違いのですが、ニーラ様がもし拉致できないでいるので、彼は焦っていると思うのです」
ナイトシャドーって、名前だけでもヤバそうな魔物。
そういえば、怪しい気配を夜中に何度も感じた事があった。
気配を伸ばして探ろうとすると、フット消えていた。
でも、最近ではその怪しい気配が全くなくなっている。
でもこれって、返って胸騒ぎが起きてくる。
ナイトシャドーがニーラを拉致できないとなると、誰を拉致、或いは暗殺するんだろうか……?
姉ちゃん達やヒミン王女は重要人物だけれど、単独で撃退できそうだし……。
各国の王子や王女達は、屈強な兵士達に昼夜を問わず守られているので安心できる。
とすると、誰を狙うのが我々にとって痛手になるんだろうか……?
分からない……。
ナイトシャドーが、ニーラを諦めた事は間違いなさそう。
では、誰を……?
ん、……?
もしかして、父ちゃんか……?
そうだ、父ちゃんを狙う可能性がすごく高い。
父ちゃんが人質に取られると、俺や、姉ちゃん達が思う存分戦えない。
戦線から遠く離れているので、父ちゃんは安全だと思っていたけれど、ナイトシャドーの話を聞くと、超危険だ。
今からでも遅くないので、対策を考えないと……。
命力絆で会議に参加していたヒミン王女と話し始める、俺。
『ナイトシャドーが、ニーラをあきらめて、つぎのもくひょうが、わかりました。
ぼくのとうさんで、ひとじちにとって、ぼくたちきょうだいの、せんりょくを、うばおうとしています。
そこで、はやうまで、このことを、とうさんにつたえ、しろで、ほごをたのみます』
『トルムル様のお父様が、ナイトシャドーに狙われるのですか……?
言われてみれば、理に適っています。
もし、人質に取られると、トルムル様や、アトラさん達が思う存分戦えないのは間違いなさそうです。
流石、トルムル様です。
私達では、そこまで考えもしませんでしいた。
早速早馬を出して、お父様に城に来ていただき、安全を確保したいと思います』
そう言ったヒミン王女は連絡を切って、行動にすぐに移してくれた。
早馬なら、2日でいけるはずだ。
どうか、間に合ってくれますように……。
◇
あれから6日経って、ヒミン王女から命力絆を使って連絡が来た。
『トルムル様の予想通り、ナイトシャドーはお父様を拉致しようとしましたが、既に城で保護していましたので、事なきを得ました。
襲われた時、警護の人達が数人大怪我をしたみたいなのですが、トルムル様のお父様が治療をなされました。
トルムル様の予想通りで、流石です』
あ、危なかった〜〜。
あと、数日遅かったら、父ちゃんは人質に取られたいたよ。
メデゥーサは魔力だけでなく、戦略的にも優れているみたいだ。
気を引き締めて、これからの戦いに臨まないと。
数日後には、メデゥーサがいる国に向かって、再び進撃を開始する。
頑張るぞ〜〜!!