巨大竜巻
ゴォォォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
ステンノー最大の魔法である岩石巨人を撃退したのも束の間、突然現れたのは竜巻だ。
しかも、普通の竜巻よりも数十倍はありそうな巨大竜巻!!
ここにいたら巻き込まれるので、影響の少ない空域まで避難。
でも、魔法で視力を上げてあるので、何ら問題はなく見える。
巨大竜巻を良く見ると、アトラ姉ちゃん似の岩石巨人に襲い掛かって、表面の衣服を猛烈な勢いで剥いでいる。
このままだと、岩石巨人の衣服が無くなって裸になってしまいそう……。
後ろの方を見ると、アトラ姉ちゃん達も盆地に入って来ており、岩石巨人が見える位置に既にいる。
姉ちゃんの事を思って、俺は岩石巨人を霧散させた。
機能的には十分に戦える状態だったのだけれど、アトラ姉ちゃんの心情を思うと、姉ちゃん似の岩石巨人は戦闘には使えないと判断。
裸で暴れまわるアトラ姉ちゃん似の岩石巨人を、姉ちゃんは見たくないだろうし……。
岩石巨人が霧散したにも関わらず、巨大竜巻は益々勢力を上げて、今度はアトラ姉ちゃん達の方に向かい始めた。
姉ちゃん達は岩や大木の陰に避難を始めているけれど……、とってもヤバイ気が……。
巨大竜巻の通った後には、大きな岩や大木が根こそぎもぎ取られ、土も深くえぐり取られている。
周辺には、巻き上げた岩や大木が落ちて来ていて、当たれば大怪我間違いなし!
何とういう威力の巨大竜巻!!
進行速度も速く、このままだと姉ちゃん達は全滅してしまう。
今すぐ、巨大竜巻を止めないといけないけれど……。
再び岩石巨人を出しても、この巨大竜巻を食い止める事は出来ないのは明らかだ!
では、どうすれば……?
これは、相殺するしか手はないと判断する俺。
しかし、これだけの巨大竜巻に対抗するには、風の妖精シルフィード、愛称シルフとエイル姉ちゃんに協力してもらう。
シルフは、エイル姉ちゃんと友好の儀式をしているので、姉ちゃんの近くに居るはずだ。
エイル姉ちゃんに命力絆を使って、すぐに連絡をする。
『エイルねえちゃんと、シルフのきょうりょくが、ひつようです。
二人の、のうりょくを、ぼくがつかいます』
『分かったわトルムル。
シルフが、この暴力的な竜巻を押さえ込めるのはトルムルしかいないと言っていたのよ。
こちらから、連絡しようと思っていた所だったの。
私とシルフ、そしてトルムルの3人が協力すれば、きっと成功するわ』
既に巨大竜巻はエイル姉ちゃん達の直前まで迫っており、とっても危険な状態。
でも、ここで精神統一しなければ、この巨大竜巻に対抗できる竜巻が魔法で作り出せない気がする……。
俺は防具からオシャブリを取り出すと……?
ちょっと……、待てよ……!
1才を過ぎているので、オシャブリはそろそろやめないと、生まれて来る甥か姪に、立派な伯父さんと言われない気がする……。
立派で威厳ある叔父さんは、オシャブリを吸わないよな……。
今回初めて、オシャブリ無しで精神統一する俺。
初めての試みなので、いつもより時間が掛かったけれど、精神統一できた〜〜!
やったね、俺!
これで、少しは威厳がでたよな……。
『エイルねえちゃん、シルフいくよ』
俺は命力絆を使って連絡し、二人の能力を使う。
両手の中では、既に巨大竜巻のイメージが出来上がっていたのですぐに魔法で発動した。
ゴォォォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
俺が出した巨大竜巻は、ステンノーが出している巨大竜巻を軽く凌駕している。
俺の竜巻は、ステンノーの竜巻の逆回転なので、近くに移動させて相殺を始める。
ゴォ〜〜!
2つの巨大竜巻は勢力が衰え、次第に小さくなっていき、最後には俺が出した竜巻だけになった。
しかし、この竜巻は攻撃には使えない。
何故なら、メドゥーサによって石に変えられた人達の石像を壊す可能性があるからだ!
仕方なく俺は、竜巻を消滅させる。
ステンノーは更なる魔法攻撃を仕掛けて来る。
巨大な雷雲がアトラ姉ちゃん達の上空に突然現れた。
ゴロゴロ、ピカァ〜〜〜〜〜〜〜〜!!
バキバキィィ〜〜〜〜〜〜!!
空気を揺るがす音と共に、雷雲から姉ちゃん達の近くにあった大木に雷が落ち、大木は一瞬の内に真っ二つになった。
このままだと、姉ちゃん達に当たって大惨事になりかねない。
どうすれば、雷を防げる……?
そうだ、避雷針の原理で、針金を雷雲と地面を繋げれば、そこしか雷は落ちない……、はず。
俺は手の中で、雷雲のど真ん中から、真下の地面に伸びる針金をイメージする。
簡単にイメージできたので、魔法を発動する。
地面から雷雲に向かって、針金が現れた。
ゴロゴロ、ピカァ〜〜〜〜〜〜〜〜!!
バッシィーーーーーー!!
雷が、針金を伝わって地面に流れた。
ヤッター!
ほとんど魔法を使わなかったし、大成功だね。
それから何度も雷が落ちても、針金を伝わって地面に流れるだけ。
ディース姉ちゃんが命力絆を使って聞いてくる。
「雷が一箇所にしか落ちないけれど、トルムルは何をやったの?
何かかが雲から地面に繋がっていて、そこを雷が伝わって落ちているんだけれど?
私達に雷が落ちないで、その一箇所にしか落ちないのが凄く不思議』
説明が難しい……。
雷がマイナス電気で、針金を伝わって地面に流れているだけなんだけれど、この世界の人達は電気の概念が無いので、簡単に説明できない……。
ディース姉ちゃんに、どうやって説明しようか?
『きんぞくのいとを、くもからじめんに、だしました。
かみなりは、きんぞくのいとに、ひきつけられるので、そこだけに、ながれるのです』
『金属の糸で、雷が惹きつけられる……?
よく分からないけれど、ありがとうトルムル』
やっぱり、理解できないみたい……。
でも、姉ちゃんに感謝されたのは嬉しい。
「いちばんたかい、とうのうえに、ステンノーがいるよ、トルムル」
ウール王女が俺に、ステンノーの場所を教えてくれる。
まだ1才なのに、雷に怯えることなく自分の任務を遂行するウール王女は凄いと思う。
「ありがとう、ウール」
「どういたしまして」
言葉遣いも、以前よりは丁寧になっているウール王女。
それに、さらに可愛くなっているし……。
おっと!
ここは戦場だったのを、忘れる所だった……。
ウール王女が言った場所を見ると、明らかにゴルゴーン三姉妹の特徴である、髪の毛が蛇である魔物が一番高い塔の上にいるのが確認できた。
俺はステンノーめがけて、魔矢を射る。
それも、強力な催眠効果も加えて。
シュ、シュ。
最初の矢は、彼女の防御魔法が防ぐと思ったので、すかさず2本目の魔矢を射った。
一本目の矢は、思っていた通りにステンノーの防御魔法に弾かれた。
しかし、2本目の矢は次の防御魔法が発動する前にステンノーの右腕に刺さった。
彼女は苦痛で顔を歪めて、倒れ込むように視界から消えた。
「とっくんの、せいかがでましたね、トルムル」
そう言ったのはウール王女。
雪によって城に閉じこ込められていた冬に、毎日ウール王女との特訓が実ったみたいで素直に嬉しい。
「ウールとの、とっくんのおかげです」
ウール王女を見ると、ニコッと俺に微笑んでくれる。
か、可愛すぎる……。
俺の心臓が速くなって行く気が……。
まてまて、ここは戦場だ!
城を制圧したわけでもないし、向こうが降参したわけでもない。
城を見ると、多くの魔物達が見えるし、戦闘意欲も旺盛みたいだ。
風の魔法に、眠りの魔法を足して城の内部に入るように俺は発動した。
しかし以前の様に、城の内部に風が入って行かない……。
俺の攻撃パターンを研究していたみたいで、魔法使いか、あるいは魔石の魔法が発動して俺の発動した風の侵入を防いでいる。
ここから見える魔物は、魔矢で眠らせる事はできるけれど、内部に居る魔物達は城に侵入しないとダメみたいだ!
姉ちゃん達に、命力絆を使って連絡する。
『ねえちゃんたち、これからしろに、しんこうしてください。
ステンノーは、ねむらせているので、きょうてきは、いないとおもいます』
アトラ姉ちゃんが、驚いたように言う。
『ステンノーを、既に戦闘不能にしたって事?
凄いなぁ、トルムル。
これからは、私達の出番ってわけだね』
『おねがいします、ねえちゃんたち』
『『『任せて、トルムル』』』
3人の姉ちゃん達の、息の合った返事に心強く感じる俺。
接近戦が得意でない俺は、できるだけ魔矢で魔物達を眠らせないとな。
シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ。
一度に、8本の矢を射る俺。
魔物達も防御魔法をしているので、1匹に対して2本づつ射る。
つまり、一回の行動で4匹づつ魔物を眠らせている。
ふと下を見ると、エイル姉ちゃんが真空弓で矢を射っている。
シュ、シュ。
姉ちゃんの弓矢は、魔矢と同じ性能なので、遠くからでも魔物を狙える。
それにしても、姉ちゃんも腕をかなり上げたみたい。
移動しながらも、正確に魔物に矢が当たっている。
流石、エイル姉ちゃん。
俺も頑張って、できる限り魔物を倒さないとな。
シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ。
それから俺は、姉ちゃん達が城に着くまで魔矢をを射続ける。
姉ちゃん達が城に近づく頃には、俺から見える魔物は1匹も居なくなっていた。
俺は重力魔法でペガサスから降りて、姉ちゃん達と合流。
最後の戦いの為に、俺たちは城に侵入して行った。