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最強の女

 山にあった雪も完全になくなり、予定通り南の国に進軍を開始する。

 北にいるメデゥーサの急襲に備えて、姉妹の中では最も魔法力の高い、魔法使いのイズン姉ちゃんに国境の出城に行ってもらった。


 メデゥーサは物理攻撃よりも、魔法攻撃を得意としていると、実の姉であるユウリュアレーから教えてもらったからだ。

 メデゥーサの魔法攻撃で、石に変えてしまうのは脅威だった。


 しかし、俺が考案した潜望鏡型のメガネを各自持たせてあるので、石に変えられる事はもうない。

 でも、依然として魔法力の高いメデゥーサは強敵だ!


 北の守りはイズン姉ちゃんに任せて、補給部隊をヒミン王女に引き続きしてもらう事にした。

 事務能力が秀でており、全体に滞りなく物資を送るのは彼女しかいないと思った。


 勿論、ヒミン王女以上の能力を見せている王子や王女達もいたけれど、俺とすぐに連絡が取れるので何か問題があれば対処しやすと考えた。


 ヴァール姉ちゃんは妊娠しているので、大事をとって国に帰ってもらった。

 姉ちゃんと遠く離れていても、いつでも命力絆ライフフォースボンドで連絡ができて、胎内にいる胎児の心音をいつでも聞くことができる。


 新しい命の存在が感じられ、心音を聞くたびに俺に勇気を与えてくれる。

 生まれる予定日を教えてもらったので、今から待ちどおしい。


 生まれた赤ちゃんから、トルムルおじさんと言われるのを今から楽しみにしている。

 その頃になると、2才を過ぎているので、今よりは風格が出ているかな……?


 と、とにかく……、立派なおじさんと思われたいので、頑張らないとな。

 身内が増えるって、こんなにもワクワク、ドキドキするんだと今回初めて知った俺。


 俺が生まれた時、アトラ姉ちゃんが俺を思いっきり抱いた心境が、今では少しは分かる。

 でも、死にそうになったけれど……。



 アトラ姉ちゃんとヤリ使いのディース姉ちゃん、そしてエイル姉ちゃんの3人を中核とした部隊編成にして、最も幅の広い道から南に進軍する事にした。

 俺とウール王女、それに魔王の娘であるニーラは、ペガサスに乗って上空から偵察する事に。


 春になったとはいえ、まだ肌寒い天気が続いているので厚着をして、ペガサスに乗って大空に舞い上がった。

 アトラ姉ちゃん達の進路に何か異常があるかないかを調べるのが、俺とウール王女の任務。


 山間部なので魔物側が罠を仕掛けるのではと、会議の時に意見として出ていた。

 俺もそう思うし、追い込まれた魔物側が城でおとなしくしている筈もないし……。


「ケンタウルスたちが、みぎぜんぽうのさんぷくにいるよ、トルムル」


 ウール王女がそう言ったので、そちらの方を見てみる。

 ケンタウルス達が、遙か遠くの山腹で何かをやっている。


 よく見ると、木を切りだして山腹にうず高く積み上げている。

 それも山間の両方でやっており、その谷間を通っアトラ姉ちゃん達が通る。


 このままだと姉ちゃん達が谷間を通る時、切り出された木が襲って来て大惨事になりかねない。

 幸いにも、今日は薄曇りだったので、真っ白いペガサスは見つかりにくいので上空まで飛んで行く。


 切り出された大木の量は凄く多く、谷間を覆い尽くすほどの量だ!

 一本の大木が谷間に落ちて来ただけでも、怪我人が出るのは間違いない。


 でも、あれだけの数の大木を、重力魔法で動かすのは大変だ。

 やはりここは、岩石巨人を出すしかない。


 竜巻で木を吸い上げて、辺りを安全にする事は出来る。

 けれど、吸い上げられた木が、どこに落ちてくるかまでは分からないので、こちらに害が出る可能性が残る。


 燃やすにしても、周りの木々も燃えてしまうので、木の妖精達に合わす顔がない……。

 予め、木を谷間に落とす事も考えたけれど、それだと後から来るアトラ姉ちゃん達が通りにくい。


 しかも、補給物資は荷馬車なので、木があると通れない。

 ここで、強大な魔法を使うとは予想していなかったけれど、仕方ないか?


 先を見越せないなんて俺も、まだまだ若いよな……。


 俺は決断をして、再びアトラ姉ちゃん似の岩石巨人を魔法で作り出した。

 勿論、服を着ている……。


 岩石巨人が現れると、ケンタウルス達が弓矢で攻撃を開始しを始める。

 火矢を使っているケンタウルスもいるけれど、岩石巨人なので全く問題ない。


 弓矢による猛攻をしているみたいだけれど、表面の服が落ちているだけで、機能的には問題ない。

 でも、早く行動に移さないと、アトラ姉ちゃん似の岩石巨人がまた裸になってしまう……。


『岩石巨人が現れたけれど、敵の急襲なのか?』


 アトラ姉ちゃんが命力絆ライフフォースボンドを使って聞いてくる。


『わながあったので、がんせききょじんで、かたづけようと、まほうでだしました。

 ケンタウルスが、こうげきをしているけれど、もんだいありません』


『今回の岩石巨人も私に似ているけれど、何か理由でもあるのかい?』


 り、理由ですか?

 勿論、俺に恐怖を植え付けた人に似てしまうのは仕方のない事。


 でも、それをアトラ姉ちゃんには言えない……。

 新生児の頃、アトラ姉ちゃんが抱いただけで、俺が死にそうになった事を……。


『ねえちゃんが、つようそうなので、こんかいもだしました』


 嘘は言えないので、これが精一杯の返答……。


『私が?

 トルムル、私は……、そのう……。


 わ、分かる……、だろ……?

 別の人間に似ている岩石巨人を、出して欲しいのだけれど……?』


 え……?

 アトラ姉ちゃん……、もしかして……?


 姉ちゃんは、肉体的に最も強い人だけれど、それを言われるのを嫌がっているのか……?

 よく考えたら姉ちゃんは、まだ若くて嫁入り前の娘。


 王子と相思相愛の中でもあっても、婚約したわけでないので、あまり姉ちゃんが強すぎると良くないのかな……?

 俺、男なので、独身女性の心境が、わ、分からない……。


『このけんについては、あとではなしあいましょう。

 こんかいは、これでいきます』


『ありがとう、トルムル。

 助かるよ』


 やっぱりそうだ。

 姉ちゃん達は年子なので、アトラ姉ちゃんはまだまだ若い……、はず。


 えーと、エイル姉ちゃんが15才なので、双子のイズン姉ちゃんとディース姉ちゃんは16才。

 その上のシブ姉ちゃんは17才で、ヴァール姉ちゃんは18才ということは、アトラ姉ちゃんは、19才……。


 え……、アトラ姉ちゃんって、まだ19才だったの……?

 鍛えられた身体つきだけれど、心は19才……、だよね。


 少しだけ分かる気がする。

 19才のアトラ姉ちゃんに、貴女は肉体的に強いですって、王子の彼氏から言われたくないよな……、たぶん……?


 次回からは、別の人に似た岩石巨人を出さないとな……。


 意識を岩石巨人に戻して、ケンタウルスに両手で攻撃を開始。

 ケンタウルスは、岩石巨人の手に狙われたので逃げ始めた。


 ま、そうだろうな。

 圧倒的な戦力に、ケンタウルスはなすすべがなく逃げ惑っている。


 それに、群のリーダー格がいないみたいで、蜘蛛の子を散らすように逃げて行くケンタウルス達。

 戦意を失っている彼らを無視して、この山積みされた大木の回収を始める。


 両脇の山腹にあった罠用の大木を全て回収すると、持ったまま山道を進む。

 この大木はいずれ、この国を再建する時に役に立つと思って、このまま出来るだけ王都に近い所まで持って行けたらと思う。


 山間部を通り抜けると盆地に変わり、奥に城が見えてくる。

 突然、巨大な物が、岩石巨人の前に現れた!


 よく見ると、同じ岩石巨人だ!

 しかも、頭にはヘビが蠢いており、明らかにゴルゴーン三姉妹に似ている。


 俺と同じ岩石巨人を出せるなんて、三姉妹の長女であるステンノーしかいない!

 俺は、岩石巨人が持っている木を投げ始める。


 大木なので質量がある。

 当たると、向こうの岩石巨人の岩石が崩れて行く。


 近くに来れば来るほど命中率が上がり、更に崩れ落ちている。

 右手が落ちて、今度は左手も落ちた。


 偶然とはいえ、大木をここまで運んで来て本当に良かったよ。

 目の前に来る頃には頭も無くなって、下半身だけで突進して来るだけになった向こうの岩石巨人。


 大木を5本まとめてアトラ姉ちゃん似の岩石巨人が両手で持つと、目の前に来た下半身だけの巨人を横からぶっ叩いた!


 ドッゴォォォ〜〜〜〜〜〜!!


 大きな音を立てて、向こうの岩石巨人は砕けて霧散した。


「やったね、トルムル。

 あいてのきょじんを、かんたんにやっつけるなんんて、さすがトルムルです」


 興奮しながら言ったのはウール王女。

 ペガサスも興奮しながら言う。


「さっきの岩石巨人は、ステンノー最大の魔法です。

 それを、いとも簡単にやっつけるとは凄いです」


 あれが『最強の女』と言われたステンノー、最大の魔法だったの……?

 簡単にやっつけたよ、俺……。


 でも、まだ油断できないよな。

 ステンノーとの戦いは、これからが本番だ!


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