表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

110/195

春の息吹き

 窓から外を見ると、雪解け水で城の外が浅い池になっている。

 山には雪が残っているけれど、平野にはもう雪がない。


 草木は気が早いのか、緑の色が少し見え始めた。

 冬がもうすぐ終わり、春の息吹を感じる。


 水が完全に引けば、南のダルガン国に進軍できる。

 グマル国に再び戻って来た人達の話によれば、10日ほどで山間部の雪も溶けるとの事。


 この国に戻って来た人達はそれ程多くはなく、100人にも満たない。

 けれど、少しずつ復興の兆しが見え始めている。


 石像にされた人達を一箇所に集めて、見張りを付けて安全を確保した。

 メドゥーサが死ぬか、あるいは本来の彼女に戻れば、石にされた人達も元の人間に戻る事が出来るからだ!


 魔王軍との戦いで破壊された家などは修理を始め、通りも人が通りやすいように片付けている最中。

 雨水を排水する側溝が、多くの箇所が瓦礫で埋まっている為、王都も城内と同じで至る所に浅い池が出来ている。


 排水をよくしないと疫病が流行しやすいので、手の空いている者は側溝の掃除をしている。

 みんな泥だらけになりながらも、一生懸命頑張っている。


 言い出しっぺの俺も、朝の時間だけ側溝を掃除する手伝いをしている。

 もちろん、俺だけは泥だらけになっていない。


 重力魔法で浮いて移動し、重力魔法で側溝の瓦礫を外に出しているからだ!

 能率が良いし、体も泥だらけにならない。


 周りの人達は『流石、賢者の長だ』と言って俺を褒めてくれる。

 重力魔法を使える人達はいるけれど、長時間に渡って出来るのは俺だけみたい……。


 側溝の掃除を終えると、お昼ご飯を食べに城に戻る。


「おひるごはん、できているよ、トルムル。

 きょうは、ひらまめの、スープだよ」


 食堂に行くと、ウール王女が声を掛けてきた。

 冬の間中、王女はシブ姉ちゃんから料理を教わっている。


 それもなんと、俺の母ちゃんが娘達に教えていた料理だ!

 つまり、母ちゃんがシブ姉ちゃんに教えていた料理を、ウール王女が習っている。


 生まれてすぐに母ちゃんが亡くなったので、俺は母ちゃん直々の手料理を食べた事がない。

 エイル姉ちゃんが作ってくれていたけれど、シブ姉ちゃんの方が母ちゃんから教わった年数が長いので、料理の種類も多く、かなり美味しい。


 公平に言えば、エイル姉ちゃんの料理も美味しい。

 でも、シブ姉ちゃんの料理はさらにその上を行く美味しさ。


 それをウール王女が習っている……。

 何というか、俺のためにウール王女が作っているので、とても複雑な心境……。


「今回はウール王女が一人で作ったから、正直な意見を聞かせてあげて」


 シブ姉ちゃんが真剣な表情で俺に言う

 これを、ウール王女が一人で作ったって……。


 もし、不味かったらどうしよう……。

 不味いですって、正直に言えない気がする。


 ウール王女とシブ姉ちゃんが真剣に俺を見ている。

 近くにいたニーラまで、手を止めてこちらに注目しているんですけれど……。


 見た目は今までと同じ、ヒラ豆のスープ。

 いや、待てよ……。


 緑の野菜が入っているけれど、これはネギか?

 一口啜ってみる。


 美味しい……。

 今まで食べたヒラ豆のスープの中では、今回が1番美味しい。


 もしかして、ネギを入れたから味が良くなった?


「これは、おいしいです。

 ネギが、はいっているから、あまみがましていて、ぼくは、これがすきです」


 俺が言うと、緊張していたウール王女が笑顔になって言う。


「ありがとう、トルムル」


 シブ姉ちゃんが後ろに持っていた物を、俺の前に出して言う。


「これが今回使ったネギで、リーキと呼ばれているの。

 煮ると柔らかくなって甘みがでるので、母さんがよく使っていたわ」


 俺の腕ぐらいはありそうな、ぶっといネギ……。

 あまりの大きさに、目が点になって行く俺。


「うふふ。

 トルムルの、そんな顔初めて見たわ。


 エイルも、リーキを知っていると思うけれど、ここ最近入手が困難になっていた。

 ここグマル国は産地の1つで、今回は初物が手に入ったのよ」


 リーキの初物か〜〜。

 こんなに美味しい野菜があるなんて、今まで知らなかった。


 それに、これはまさに春の味で、ヒラ豆のスープから春の息吹を感じる〜〜。

 それから俺たちは、とっても美味しいヒラ豆のスープを堪能した。


 ◇


 午後からは、冬中続けている魔法の訓練を始める。

 その訓練は、魔矢を連射する。


 ベヒーモスを倒した時に、魔法で作り出した矢が思っていた以上に効果があった。

 それに改良を重ねて、移動している魔物にも当たるように訓練を積み重ねている。


 訓練の相手は、ウール王女だ!

 俺の次に重力魔法を上手に操れるので、標的を動かしてもらっている。


 何個もの標的を同時に動かしているので、王女の訓練にもなる。


「トルムル、いくよ〜〜」


 最初は、一個の標的を複雑に動かすのが精一杯だったウール王女は、今では6個まで同時に標的を動かせる。

 俺も同じ事がいえて、最初、複雑に動く一個の標的を狙うのがやっとだった。


 でも今では、6個の標的を短い時間内で当てる事が出来るようになって、今日は7個に挑戦だ!

 お互いに若いので……、急成長している感じ。


 ウール王女が7個の標的を同時に動かし始めた。

 俺は意識を集中して、手の中にイメージを作り始める。


 シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ。


 手元から矢が発射する音だけが聞こえてくる。

 全矢命中だ!


 実戦では、矢じりに爆発とか痺れ、あるいは睡眠の魔法を同時に発動する事によって、戦略の幅が広がる。

 雷撃、火炎、水流なども使えるかもしれない。


「凄いわね、貴方達。

 いつの間に、こんなに上達したの?」


 シブ姉ちゃんが俺の横で、ビックリしながら言った。


「でも、まだまだです。

 もっとふやして、ぜんや、めいちゅうしないと」


「トルムルってば、本当に凄いよね。

 真空を使って矢を飛ばしているって言ったけれど、その真空がいくら考えても分からない。


 何もない無い空間が、真空だってトルムルは言う。

 けれど、イメージが湧かないから、私が矢を魔法で作っても前に飛ばない。


 私だけでなく、誰に聞いても分からないって言っていたわ。

 元賢者の長だったリトゥルに聞いても、初めて聞いた言葉だと言って、頭を悩ませていた」


 ……。

 それは……、理解するのは難しいかな……。


 一応、真空の定義を姉ちゃんに言ったのだけれど、本当の意味で理解するには、科学の知識が必要になるからな。

 それに昨夜、凄いことを思いついたので実験をしようと思っている


 今までは、直線しか矢を飛ばさなかったけれど、標的を追尾するように真空魔法を発動したら良いのではと考えた。

 こうする事によって、標的の間に障害物があっても問題なく当てる事ができるからだ。


「ウールおうじょ、さっきはなした、くんれん、おねがい」


「本当に出来るのトルムル、障害物の向こうにある隠れた標的を当てるって事。

 とても私には信じられない……」


「りろんじょうは、できるはずです。

 みていて、シブねえちゃん」


 俺がそう言うと、ウール王女は標的を見える場所から障害物のある後ろへと動かした。

 既にイメージが完了していたので、俺はすぐに魔法を発動する。


 シュ。


 どうだ……?

 俺たちの見える方に、ウール王女が標的を移動させてきた。


 やった〜〜! 見事に、真ん中に命中しているよ。


「トルムルはすごいです。

 やが、まがってとぶなんて!?」


 ウール王女が驚きの表情で言う


「まさか……、本当に見えない標的に当てるなんて!?

 今までも信じられないわ……」


 そう言ったシブ姉ちゃんは、浮いてるオレを引き寄せて抱いてくれる。

 母ちゃんに褒められているみたいで、俺はとても幸せな気分になった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ