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しおり

 エイル姉ちゃんは、俺にしおりをくれた。


 それは不思議なしおりで、チョウチョが紙の中で立体的に羽ばたいていた。

 動画を再生したような……?


 よく見ると、同じ動作で繰り返し羽ばたいている。

 そして、しおりの上には小さな魔石が埋め込まれていた。


 小さな魔石に、俺の体から微小に魔法が流れているのが分かった。

 チョウチョが動いているのは、この魔石によるものだ。


 これも魔石に、スキルを付与したのだと分かった。


 母ちゃんから教わったことのない魔法で、この世界には多くの魔法があることを予感させてくれた。


 ジッと見ている俺に、エイル姉ちゃんが声を掛けてきた。


「そのしおり、私が作ったのよ」


 え、これを?

 完成度が高いので、専門に作っている人から買ったのかと思った。


 しおりと、エイル姉ちゃんを交互に見る。


「うふふ。トルムルはそのしおりを気に入ったみたいね。

 これは会心の作で、今までで1番良くできたわ。

 教授も褒めてくれて、しばらく展示されていたのよ」


 ……え?

 そんなに、大事なものは受け取れないよ。


 持っていたしおりを、エイル姉ちゃんに返そうとした。


「トルムルが持っていてよ。

 私からのプレゼントよ。

 私がいない時に、これを見て思い出してくれると嬉しいわ。

 そうだわ。お父さんの作ったのも見る?」


 俺は少し驚いて、エイル姉ちゃんを見た。


「これなんか、可愛くて私のお気に入りなんだ」


 そう言ってエイル姉ちゃんは、椅子の上の方にあったパンティを取って俺に見せてくれた。


 絵が描かれてあったのは知っていた。

 けれど、しおりと同じ様に絵が動くとは予想外。


 それは、羽の生えた小さな女の子が2人、飛びながら踊っている。

 愛らしくて、今にもパンティから飛び出てきそうだった。


 このチョウチョも素晴らしい出来だったけれど、父ちゃんの作品は遥か上をいっていた。


「これはね、光の妖精なの。

 他にも妖精がいて、それらをお父さんが武具や下着類に描いているのよ。

 私は風の妖精と土の妖精のパンティを持っている。

 お父さんが、私の誕生日に作ってくれたんだ。

 妖精シリーズは、この店の人気商品なんだよ」


 そうか、だから下着類がここにあったんだ

 ん……?


 もしかして……、さっきのおばさんが買っていったのは妖精の下着?

 おばさんが、妖精の下着を付けているのを想像しかけた。


 けれど、俺は強制的にその思考を排除した。

 ふーーーーー。


 危ない危ない。

 絶対に想像したくない!


 おっと、お客さんだ。


「いらっしゃいませ」


 エイル姉ちゃんが、慣れた声で言った。

 お客さんは、ゴッツイ体つきの若い男性だった。


 エイル姉ちゃんがお客さんに近寄っていき、笑顔で聞いた。


「何をお探しでしょうか?」


「あ、えーと、そのう。

 それ……」


 男性客は、男物の下着を指差した。


「下着類ですね。

 攻撃系、防御系、治癒系など有りますが、どれをお探しでしょうか?」


「防御で、物理ダメージ減少があったら、そのう……」


 このお客さんは、エイル姉ちゃんが若くて美人なので、どうやら下着を口に出して言えないみたい。


「分かりました。

 それでしたら、こちらの商品になります」


 エイル姉ちゃんは移動して、お客さんにそれらの商品を紹介した。


「無地は安いのですが今の流行りで、この様に絵が動くのが売れ筋ですね。

 お客様には、これなどいかがでしょうか?」


「む、無地でもよ、よかったんだけれど……。

 これ可愛いね」


 お客さんは、ドラゴンの絵の描いた商品を気に入ったみたいだ。


「これですね」


 そう言うとエイル姉ちゃんは、そのパンツを取ってお客さんに見せた。

 ドラゴンが動き出して、火を吐きながら飛んでいる。


 ワァオーーー!

 これはカッコいいよ。


 俺も、それ欲しい!

 でも……、俺……、オムツだしな……。


「これ、とってもい、いいですね。

 こ、これをお願いします」


「ありがとうございます。

 オーダーメイドになりますので、サイズを計らせてもらいますね」


 そう言ってエイル姉ちゃんは片膝をついて、お客さんの腰回りのサイズを測った。

 終わると立って、満面の笑顔で言う。


「5日後に来て頂ければ、ご希望の品物ができています。

 お名前と、住んでいる場所をあちらでご記入下さい」


 お客さんは笑顔になって、父ちゃんの所に行った。


 エイル姉ちゃんは明らかに、この店の看板娘だと分かった。

 お客さんへの応対は完璧だ!


 お客さんが出て行くと、俺はつい嬉しくなった。

 笑いながら拍手をした。


「バブブブーーーー」


「あ……。

 トルムルは、ずっとお姉ちゃんを見ていたんでしょう?」


「バブゥ」


「本当は恥ずかしんだよ。

 特に、男性の下着を説明をする時は。

 でもね、父さんのお手伝いをしたいんだ。少しでもお父さんの役に立てるように。

 それに、私を学園に通わせてくれている。もちろん、トルムルも居るしね」


 そうか。

 そこまで考えて、店の手伝いをしているんだ。


 あ……。

 また、睡魔が……。


「トルムル寝ちゃったよ、お父さん」


「魔法が使えて字が読めても、体は赤ちゃんだからね。

 トルムルをベッドに連れて、毛布をトルムルに掛けてあげて」


「はーい。

 寝顔も、とっても可愛いわ」


 薄れゆく意識の中で、エイル姉ちゃんが俺の頬にキスをしてくれて嬉しかった。


 ◇


 その夜、再び起きた俺は、エイル姉ちゃんにミルクを飲ませてもらった。

 ゲップもさせてくれた後、エイル姉ちゃんは見せたいものがあると部屋に行った。


 部屋から帰って来たエイル姉ちゃんは下着姿で、俺にお尻を見せて言った。


「これがさっき言った、お父さんからのプレゼントなのよ」


 妖精が動いていて、今にもこちらに飛んで来そうだった。

 俺はそれを見て、飲んだミルクを……、


 ピュ〜〜〜〜。


 ゲップをしたのに、ミルクを吐いてしまった。

 妖精に驚いたのと、エイル姉ちゃんの下着姿にも驚いたからだと思う。


 いくら俺が赤ちゃんでも、下着を履いた姿を弟に見せるな〜〜!


「キャーーー!!

 トルムルがミルクを……、わ、私の大事なパンティに!」


 吐いたミルクがパンティに掛かって、エイル姉ちゃんは大騒ぎをしていたのだった。


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