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進撃

 魔王の支配からジズが解放された日から、数日が過ぎた。

 奪われた3つの国にいる魔物の戦力を分析して、こちらの戦力をどの様に分けるのか判断する為に、今日まで城塞都市に留まっている。


 そんな中、グルマ国に戻っていたユウリゥアレーから、ワイバーンの使者によって報告が来た。

 それによると、魔王に心を支配されている各種族の王や王女達を地下牢で拘束していると。


 王や王女達を魔王の支配から解放する為に、至急ニーラを連れて来て欲しいと。


 でも……、なんだか嫌な予感がする。

 何故なら日数が、かかり過ぎているからだ!


 安全が確保されるまでは、ニーラをグルマ国の城には連れて行けない。

 ニーラを魔王側に奪われると、魔王の力が更に増して人間の力ではどうにもならなくなる。


 それに、このメッセージを持ってきたワイバーンの目付きが怪しい。

 オレを刺すような目付きで、復讐に燃えている感じもする。


 以前俺は、ワイバーン戦で多くのワイバーンを殺して魔石に変えた。

 当時は、魔物達が魔王に心を支配されているとは知らずに、人間を滅ぼす悪い奴らだと思っていたからだ。


 今思うと可哀想な事をしたとは思うけれど、魔石に変えなければ人間達が殺されていたのは間違いない。

 横で聞いていたアトラ姉ちゃんが言う。


「トルムル、少しおかしくないか。

 行くにしても、用心した方がいい」


 姉ちゃんもそう思っているのなら、間違いなく罠だ!

 でも、ここはあえて罠にはまったふりをして、こちらが逆に罠にはめてやろう。


 その前に、『敵を欺くには味方から』って何かの本で読んだ事がある。

 アトラ姉ちゃんには後で説明するとして、今は姉ちゃんを騙すしかない……。


「アトラねえさん、だいじょうぶだよ。

 ユウリゥアレーが、いうのだから、まちがいない。


 きょうのごご、ぼくがおひるねしたあとに、ニーラをつれていきます。

 あなたは、さきにかえって、ユウリゥアレーに、このことを、つたえてください」


 使いのワイバーンの目が、一瞬キラリと光ったのを俺は見逃さなかった。


「トルムル様、ご決断ありがとうございます。

 これから再び舞い戻って、この事をユウリゥアレー様に伝えます」


 そう言ったワイバーンは踵を返して退出する。

 今度はヒミン王女が心配そうに俺に言う。


「アトラさんが言ったように、とても怪しいです。

 慎重に事を運ぶのが上策と思います」


 俺は、この部屋にいる人達全員に聞こえるように言う。


「アトラねえさんと、ヒミンおうじょの、しんぱいするとおり、これはわなです。

 あきらかに、ユウリゥアレーは、こうそくされています。


 ですが、これはチャンスでもあります。

 ヒドラの、たいぐんといっしょに、こんかいは、いきます。


 むこうは、ヒドラのたいぐんが、いるのを、しりません。

 せんりょくてきに、もんだいはないと、おもいますが、どうでしょうか?」


 ヒドラの妖精であるモージル妖精女王の横にある頭、ドゥーヴルが嬉しそうに言う。


『流石、トルムルだぜ。

 オレも怪しいと思っていたんだよ。


 モージル、いよいよ俺たちヒドラの出番だ』


 王女もヒドラが出撃できると知って、とても喜んでいる。

 今までは、魔物側と人間側の両方から敵視されてきたので、彼らの立ち位置を明確にできなかったからだ。


『ヒドラを代表して、全力で戦う事をここに誓います、トルムル様』


 ヒドラが戦う必要は無いと思うんだよね……。

 なにせ、圧倒的な戦力の差で、グルマ国にいる魔物相手では、瞬殺に近いぐらいだから。


 でもヒドラ達に、戦わなくても威圧するだけでいいよって言えないよな……。

 あんなに張り切っているのに……。


 え〜〜と、……?

 そうだ、痺れの毒をヒドラ達も吐くんだった。


 これを利用しない手は無いよな。

 一応、戦う事になるし、グルマ国の城にある人間の石像も壊されないし。


「グルマこくの、じょうくうは、くもりなので、ひどらたちを、そこにいどうさせてください、モージルおうじょ。

 ヒミンおうじょの、ぶたいは、ここにとどまって、ください。


 そのたのぶたいは、グルマこくのしろに、いまからしんげきを、かいしします。

 とおりみちの、まちなかは、わなをしかけている、とおもうので、きけんをさけるために、とおらないように。


 ぼくはひるねをして、ペガサスにのって、いきます。

 ニーラとウールおうじょ、をのせて。


 いじょうで、かいぎをおわります。

 みなさん、グルマこくのしろで、あいましょう」


 みんなオレの判断に納得してくれて、真剣な表情に変わり部屋を出て行く。

 エイル姉ちゃんが部屋を出て行くときに、呆れ顔で俺に言う。


「トルムルってば、こんな時に昼寝をするなんて流石ね。

 みんな興奮して、三日三晩でも起きていそうな雰囲気なのに」


 そうなの……?

 俺は赤ちゃんなので、体がお昼寝を要求しているだけなんだけど……?


 それに、お肌の為にも必要だし……。

 乳歯も新しいのが生え始めているから、規則正しい生活を送りたいだけで……。


 ◇


 タップリとお昼寝をした俺とウール王女は、ニーラと共にペガサスに乗ってグルマ国の城に向かって空をかけて行く。

 姉ちゃん達からの報告では、多少の抵抗はあるもの、順調に城に向かって進んでいる。


 モージル妖精女王からは、既にヒドラ達は城の上空にいると報告が来た。

 ペガサスに乗って空をかけているけれど、雲の上は晴天で別世界。


 下は雲海が広がっており、時には雲が上昇している箇所もあり、オレ達はそこを突き抜けて行く。

 ふと、前方に何かの気配を感じる。


 よく見ると、ヒドラの大群だ!

 こうやって見ると壮観で、ヒドラ達は戦闘開始を今か今かと待っている。


 ヒドラ達と合流し、俺だけ単独で城に向かって急降下して行く。


 雲を突き抜けると、グルマ国の城が見えてきた。

 1番高い塔の近くに行くと、ワイバーン2匹が見張りをしている。


 俺を見つけると、彼らの緊張が伝わってくる。

 その内の一匹が、俺の周りを見ながら言う。


「トルムル様か?

 ニーラ様と一緒に来ると聞いていたのですが?」


「ぼくだけ、さきにきました。

 ユウリゥアレーと、はなしがしたいので、ここまでよんで、きてください。


 ニーラをひきわたしたあと、みなみのダルガンこくに、しんげきする、よていですから」


 聞いている内容と違うので、ワイバーンは慌てている。


「城の中に入って、くつろがれてはいかかでしょうかトルムル様?」


 城の中に単独で入るのは危険なので、ご遠慮しますかね。


「それにはおよびません。

 ユウリゥアレーに、ニーラの保護をたのんで、すぐにここを、はなれるので」


 ワイバーンは口元を少し歪めると、諦めたように言う。


「分かりました」


 そう言って、ワイバーンは階段を降りていった。

 しばらくすると、今まで見たことのない様な、大きなワイバーンが階段を上って来た。


 やはり、予想通りユウリゥアレーは来なかった。


「トルムル様、私はワイバーンの王、グバーンと申す者。

 ユウリゥアレー様はご多忙で、私にニーラ様の保護をたのまれました。


 ニーラ様はどちらでしょうか?」


 計画通り、実行に移しますかね。


「それでは、ニーラをこちらに、つれてきます。

 ごえいがいるので、こうげきしないように、しろじゅうに、でんたつを、おねがいします」


 グバーン王は、口をわずかばかり動かして、薄気味悪い笑いをする。


「もちろん、ニーラ様に危害を加えてはいけませんから。

 トルムル様のおっしゃる通り城中に、これから来る護衛を攻撃しないよう伝えます」


 そういったグバーンは、大きな声で下に向かって、これから来る護衛を攻撃しない様に、城中に伝える様に言った。

 俺は安心したフリをして、自然な笑みになる様に上下4本づつの乳歯を見せて言う。


「それでは、これからニーラの護衛をここに連れて来ます」


 俺はウール王女に命力絆ライフフォースボンドを使って、ヒドラを城に降りて来るように言う。


 すると、待っていましたとばかりに、ヒドラの大群が空から舞い降りて来たので、城の魔物達はパニック状態に。


 グバーン王の前にも、十倍以上ありそうなヒドラが睨んでいる。

 グバーン王は俺を凄い形相で睨むと、まくしたてる様に言う。


「こちらが誠心誠意心を尽くしたのに、このヒドラの大群はどう言う意味だ!

 返答によっては戦闘を開始する!」


 ここは、先手必勝だよな。

 横を飛んでいるヒドラの妖精であるモージル王女に、ヒドラ達に痺れの毒を吐くように目線で合図を送る。


 ヒドラ達は、一斉に痺れの毒を城に向って吐き始める。

 俺はすぐにガスマスクを魔法で作り出し、城の奥深くまで行くように風の魔法を発動した。


 目の前にいたグバーン王は、なすすべもなく倒れて痙攣をおこしている。

 俺を、睨んだまま……。


 ニーラがここに来るまでの辛抱だよと、心で俺はグバーン王に言って、ウール王女にニーラを連れて降りて来るように言う。

 しばらくすると、上空からペガサスに乗ったウール王女とニーラの姿が見えてくる。


 俺の近くにニーラが来ると、グバーン王に魔法を発動した。

 グバーンは魔王の支配から心が解放されると、先程とは打って変わってニーラを見て戸惑っている。


 痺れの毒消し魔法を俺は、グバーン王に発動した。


 王は立ち上がると、夢から覚めた様に現状が把握できないでいた。

 ニーラが優しくグバーン王に言う。


「グバーン王は、お父様に心を長きに渡って支配されていたのです。

 トルムル様の活躍によって、王は元の心を取りもどしたのです。


 全ては、お父様が闇の神を召喚したのが始まり。

 ワイバーン族の多くの仲間が亡くなったと聞いています。


 全てはお父様と、それを止められなかった魔族に責任があります。

 本当にすみませんでした」


 そう言ったニーラは頭を深く下げた。

 グバーン王は少しづつ思い出したみたいで、天を仰ぐ様に言う。


「種族の半分近くが亡くなった。

 魔王が私の心を支配したとしても、誤った判断を下したのは間違いなく私……」


 グバーン王は、ニーラに顔を向けると言う。


「ニーラ様、顔をお上げください。

 貴女様は、魔王から心を取り戻してくれた人」


 今度は俺の方を向くと、王は頭を深く下げる。

 そして王は顔を上げると、意を決したように言う。


「トルムル様とは過去に色々ありましたが、今後は魔王を倒すべく、我々も微力ながら協力したいと思います。

 まさか、ヒドラの大群がここに舞い降りて来るとは、度肝を抜かされました。


 トルムル様が1才で賢者の長になったと報告を聞いて、バカにしていたのです。

 しかし、予想を遥かに超える力をトルムル様が使えるので、畏怖さえ感じました」


 そう思ってもらえると、今回の作戦も大成功。

 東を見ると、先行している騎馬隊が見えて来た。


 俺は心の中で、天国にいる母ちゃんに報告をする。


『グルマ国を取り戻したよ、母ちゃん』



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