メデゥーサ……?
ペガサスに乗ったオレ達は、魔王側の手に落ちたグマル国内に入る。
国境に大きな川が流れているのですぐに分かった。
曇り空なので、隠密の偵察にはもってこいだ!
ペガサスは全身白いので、カモフラージュされているみたい。
モージル妖精王女からの情報によると、この川の向こうにある森の中に魔物達の一部が集結している。
徒歩だと1日かかる行程を、ペガサスで飛んで行くとさほど時間がかからなかった。
上から見ると、何かが森の中で動いているのしか分からない。
俺はハゲワシに変身して降下して行く。
森のすぐ上を旋回していると、森の中で動き回っていた魔物の正体が分かった。
ゴブリンの群れで、かなりの数が集結しているその中で一際大きなゴブリンを見つけた。
以前に見たゴブリンクイーンよりも更に大きい!
母ちゃんの言葉を思い出す。
『ゴブリンはねトルムル、ゴブリン王を頂点として組織を作っているわ。
ゴブリン王の下には大勢のゴブリンクイーンがいるのよ』
ということは、あのゴブリン王を拉致して来ればいいのかな……?
もし、魔王によって意識を支配されているなら、ニーラの魔法で元に戻るはずだ。
やってみる価値はありそうだよな。
メデゥーサが、ここにいるとは思えないので。
もしいたら、俺は石にされてこの世界での人生も終わってしまう。
でも、その心配はなさそうだ。
ゴブリン王がいる近くの木に、俺は太い枝を見つけてとまる。
ゴブリン達は、俺を普通のハゲワシだと思っている。
彼らの様子を見ていると、どうやら内輪喧嘩をしているみたい……?
「ゴゴブ王、魔王の命令で今回戦うと、我々は多大な犠牲をしいられるゴブ。
ワイバーン戦では、彼らのほとんどが噂のハゲワシで全滅したと聞いているゴブゴブ。
種族の存続の為に、この戦いを回避したいと言っている、ゴブゴブ」
「魔王様の命令である、ゴブー」
「魔王は前線に出てこないで、魔城に居るだけでないか、ゴブ。
我々ゴブリンは消耗品では無い、ゴブ〜〜!」
どうやら、ゴゴブ王1人がこの戦いをしなければならないと思っているみたい。
明らかに、魔王の支配を受けている。
ここに集まっているゴブリン達は、俺が戦った数の数十倍は居る。
これだけの数が戦いで死ぬと、種族の存亡にも関わるよな。
それに、戦いになれば人間側の被害も大きくなる。
ゴゴブ王に上空に来てもらいますかね。
俺はオシャブリを吸って精神統一すると、大空に舞い上がっていく。そして、ゴゴブ王を重力魔法で一緒にペガサスまで来てもらった。
「ゴボ、ゴボ、ゴボ〜〜〜〜!!」
ゴゴブ王は俺を見て怒り狂っている。
普通だったら、こんなに高い所に連れて来ると怯えるのに、明らかに精神的におかしい。
ニーラの知っているゴブリンみたいで心配している。
すぐに彼女は呪文を唱え、魔法を発動した。
黒い塊がゴゴブ王の体内に入ってしばらくすると、王は急に怯えだした。
「ど、ど、どうして儂がここにいる。
そ、それに、ハゲワシが目の前に……」
ゴゴブ王はニーラに気が付いて言う。
「ぺ、ペガサスに乗っているのはニーラ様ではないですか、ゴブー。
どうしてゴブ、ニーラ様が、い、いるのですゴブか?」
元のゴゴブ王に戻ったので、ニーラは安堵の表情で言う。
「ゴゴブ王は、お父様に心を支配されていたのです。
お父様は闇の神アーテーを召喚し、世界征服を初めているのです。
各種族の事など、お父様はまったく考えていません。
ゴゴブ王。ゴブリン種族の為に、集まっているゴブリン達を解散させて下さい。
ハゲワシ様は私達を助けて下さり、私達の味方なのです。
どうか私を信じて、ハゲワシ様に従って下さい」
ゴゴブ王は少し考えてから言う。
「分かったでゴブ。
小さい時から知っているニーラ様がゴブ、嘘を言うはずがありません。
今ならゴブ、言えるのですが、魔王様は以前と大きく変わられましたゴブ。
その理由が闇の神を召喚したからでしたか、ゴブ〜〜」
ウール王女が突然、命力絆で緊張した声で俺に言いう。
『みぎのほう、まものとんでいる。
みたことのないまもので、かみのけが、へびのようで、メデゥーサ?』
髪の毛が蛇で、飛んでいるだって!
もしかしたら、メデゥーサの姉であるゴルゴーン姉妹のユウリュアレーなのか?
確かユウリュアレーは空を飛べて、髪の毛は妹のメドゥーサと同じ蛇。
右の方を見ると、はるか彼方の空を飛んでいるのが確認できた。
ニーラに魔物の特徴を言う。
「ハゲワシ様、捕まえてくれないでしょうか?
ユウリュアレー叔母で、ゴゴブ王と同じようにお父様に心を支配されているのです」
あ、ヤッパリ。
オレはゴゴブ王を地上に下ろして、ペガサスに上空から近づくように指示する。
雲の中を上昇して飛んでいくと、下の方から魔物の気配がした。
間違いなくユウリュアレーで、こちらにまだ気がついていないみたいだ。
奇襲するにはもってこいで、俺はオシャブリを吸って戦いの前の精神統一をする。
降下を開始して、ユウリュアレーの後ろから間合いを詰めるように飛んでいく。
後ろから攻撃されると思わないみたいで、ユウリュアレーは無防備で偵察をしている。
俺は右手の中で痺れの魔法、左手の中で風の魔法をイメージする。
イメージができたので、痺れと風の魔法を同時に発動する。
痺れの毒をタップリと含んだ突風がユウリュアレーに襲いかかった。
ユウリュアレーは痺れの毒で急降下していく。
なんか、呆気なく捕まえれそうなので一安心。
重力魔法でユウリュアレーを引き寄せる。
狂った様に俺を見ているけれど、痺れて何も言えない。
俺達はペガサスの所に行くと、ニーラは喜んでいたけれど、ウール王女は怖がっている。
ウール王女が怖がるのは仕方ないかもしれない。
髪の毛が蛇なんて、見ただけで恐ろしい。
それに、顔が超怒っているので尚更だ!
ニーラはゴゴブ王と同じ様に魔法でユウリュアレーを元に戻した。
ユウリュアレーは、突然夢から目覚めた様な顔になる。
俺は痺れの解毒魔法をユウリュアレーに発動すると、体が動けるようになったみたいだ。
「ユウリュアレー叔母様。大丈夫ですか?
叔母様は、お父様に心を支配されていたのです」
「わ、私が魔王に支配されていた……?
では、あの時に……」
「もう安心です。
ハゲワシ様が叔母様を救って下さったのです」
ユウリュアレーは俺をジッと見ると、思い出すように言う。
「夢の中で……、ハゲワシが我々の仲間を殺していた。
実は夢でなく、それは真実で、魔王が私を支配していた……。
なんとう言う事!
私達姉妹は、人間との共存を望んでいたのに……」
ユウリュアレーの言う事と、ニーラが言っていた事と同じなのでひとまず安心。
人との共存を望んでいるのならば、今度の会議に出てもらった方がいいかな?
でお、この姿のユウリュアレーを連れて戻ると、城中がパニックになりそう。
妹のメドゥーサと外見が似ているので……。
でも、連れて帰って敵方の情報を詳しく得ないと。
俺はエイル姉ちゃんとヒミン王女に、命力絆を使ってユウリュアレーを連れて帰る事を連絡した。
2人はしばらく言葉を失う程驚いていた。
けれど、最後には納得して迎え入れる準備をしてくれると言ってくれた。
俺達は夕焼けを背にして、帰路に着いた。