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天翔るペガサス

 

 リヴァイアタンと一緒に航海したので、魔物に襲われること無く、もうすぐ目的地の港に着く。

 っていうか、リヴァイアタンの口の中に帆船が浮かんでいたので、魔物が襲ってくる事などないよな……。


 大洋から港に続く海峡に近付くと、リヴァイアタンは帆船を海面に下ろしてくれる。

 ここは以前、カリュブディスと戦い、スキュラを魔石に変えた海峡だ。


 懐かしい場所でもあるけれど、その時とは明らかに様子が違う。

 それは、リヴァイアタンをひと目見ようと大勢の人達が、海峡の両岸から驚きながら見ていることだ。


 いきなりリヴァイアタンがこの海峡に現れると、人々が恐れるといけないのでこの国に住んでいるシブ姉ちゃんに連絡した。

 シブ姉ちゃんから、彼氏でもあるこの国のアルヴィース第一王子にこの情報を伝えていたので、見物人で両岸が溢れているほど。


 ま、伝説でしか登場しなかったリヴァイアタンを見たい気持ちは分かるよな。

 それにしても、国中の人が集まっているぐらい、大勢の人達がいる気がするんだけれど……?


 クラーケンはこの海峡を通って港まで襲ってきた。

 けれど、リヴァイアタンは大き過ぎて海峡を通れないのでここでお別れだ。


 リヴァイアタンが別れ際に、超低音の声で俺に言う。


「ハゲワシ殿から私に、何かして欲しい事はないか?」


 魔王を倒すには、リヴァイアタンの力が必要だ!

 今は、西の大陸から魔物がこれ以上海を渡って来ないようにしてくれと言った。


 リヴァイアタンは快く了解して、またの再会を約束して別れる。

 もちろん、魔王の娘であるニーラとリヴァイアタンも別れを惜しんでいた。


 帆船が海峡を通って内海に入ると、絵に描いたような景色が広がっている。

 海の色は透き通る様なエメラルドグリーンで、大型の魚が時折見えた。


 時間が過ぎるのを忘れ、エイル姉ちゃんに抱かれて景色を楽しんでいると、帆船は港に入る準備に。

 たくましい海の男達がマストに登り、帆を畳み始める。


 観光気分でそれらを眺めていると、埠頭にハーリ商会の共同経営者であるスールさんの顔が見える。

 航海中に考えた新商品の試作ができたので、シブ姉ちゃんを通じてスールさんに予め連絡をしてもらっていた。


 その商品は、蜂、毒ヘビ、サソリ型の魔物などの毒が体内に入った時、真空の原理で毒素を体外に出す。

 もっとも最初は、毛穴の汚れを取る器具を作ってと、イズン姉ちゃんに言われたのがきっかけ……。


 どちらでも使える様にしたので数日悩んだ……。

 けれど、完成した試作品をエイル姉ちゃんに試してもらったら、毛穴の汚れが全て取れたと大喜び。


 ヒミン王女にも試してもらうと、いつも通りの反応で、『流石トルムル様』って言っていた。

 近くに居たウール王女が、自分も試したいと言ったら、エイル姉ちゃんとヒミン王女が大笑いしていたよな。


 だって、ウール王女の肌はきめが恐ろしく細かくて白い陶磁器の様で、毛穴の中は綺麗。

 俺がジッとウール王女の頬を見ていたから、王女は恥ずかしがって頬を染め、ヒミン王女の後ろに隠れていた。


 初めて見るウール王女の可愛い仕草に、思わず微笑んでいた俺。

 ウール王女の違う一面を見れて嬉しかった俺!


 って、そんな事を考えていたら埠頭に帆船は接岸した。

 その後、港にあるハーリ商会の建物でスールさん達と今後の話をした。


 コーヒーの店に関する資金援助を申し出てくれた、エイル姉ちゃんの彼氏でもあるスィーアル王子も一緒に。


 その晩は、スールさんの奥様のグナーさんの手料理に、再び舌鼓を打つ。

 娘さんのエルナちゃんとも再開して、懐かしい話も沢山出て、笑いに包まれた和やかな夜を過ごした。


 ◇


 城に着くと、俺とエイル姉ちゃん、リトゥル、そして王族だけでペガサスがいる馬房に行く。

 ペガサスは逃げられない様に、がんじがらめになっている。


 可哀想だけれど仕方なかった。

 でも、それも今日で終わりだ!


 ニーラがペガサスに近付くと暴れだす。

 怒り狂った目付きで、俺達に向かって言う。


「おのれ〜〜、人間達!

 ニーラ様を捕まえて、洗脳したのか?」


 えーと、逆なんですけれど……。

 でも、ペガサスには分からないよな。


 ニーラは何も言わずにペガサスに近付いて、例の呪文を唱える。

 唱え終えると、ニーラの右手から黒い塊がペガサスめがけて解き放された。


 塊はペガサスの体内に入って行く。

 すぐにペガサスの怒り狂った様子が無くなる。


 悪夢から目覚めた様な目付きで、ペガサスはニーラを見つめる。

 理性的な口調で静かに、そしてゆっくりと話し出す。


「魔王の前に行ったことまでは覚えているのですが、それからの記憶がありません。

 魔王は、娘であるニーラ様が魔王城から逃げ出したので怒り狂った様子でした。


 私がここに居るということは、魔王の黒魔法にかかっていたのですか?

 ニーラ様に大変ご迷惑をお掛けしたみたいで、申し訳ありませんでした」


 ニーラは悲しそうにペガサスを見つめると、近寄って言う。


「ペガサスは、悪くはないのです。

 悪いのはお父様、ただ1人。


 お父様は、闇の神アーテーを召喚したのです。

 狂気を司るアーテーは、お父様に13人の子供を生贄に捧げるならば、不老不死と、神と同じ能力を与えると言ったのです。


 すでに、12人の私の兄姉きょうだいは生贄にされ、ベッドから起き上がれないくらい生気を吸い取られてしまいました。

 更に彼等は、彼等の魔法門マジックゲートから常にお父様に魔法を供給している道具と化したのです」


 ニーラは涙を流し始め、それ以上言葉を発する事ができなかった。

 エイル姉ちゃんがニーラの肩に手を置いて引き寄せ慰める。


 この国のアルヴィース第一皇子がペガサスに近付いて、縄をほどきながら言い始める。


「私はこの国のアルヴィース王子。

 元のペガサスさんに戻られて良かったです」


 王子はそう言うと、ここに居る全員の紹介をする。

 そして、話の続きを言う。


「全てはハゲワシ様の功績で、ニーラ王女が無事保護されたのも、ペガサスさんを捕まえたのも彼なのです」


 ペガサスは透き通る大きな目を、更に大きくして王子を見る。

 そして、ここに居る人達を見回すと言う。


「噂のハゲワシ様が、ニーラ様と私を魔王の手から救ってくれたのですね。

 お礼を言いたいのですが、どちらの方がハゲワシ様でしょうか?」


 アルヴィース王子は俺の方を見る。

 俺は軽く頷いて、了解の合図を送ると王子はペガサスの方に再び向き直り言う。


「驚かれるかもしれませんが、エイルさんに抱かれているトルムル様がハゲワシなのです」


 ペガサスは俺を見ると目を大きく開き、口を大きく開けた。

 え〜〜と、この場合なんて言っていいのか……。


 それに、ペガサスがだらしなく大口を開けるなんて、俺の中のペガサスのイメージが崩れる……。

 でも、それだけ驚いているんだろうな。


 縄を全て解かれたペガサスは元の理性的な顔に戻ったみたいで、俺の方に近づいて前足をひざまずいて言う。


「ハゲワシ様の前で、醜悪な顔をお見せして申し訳ありません。

 まさか、ハゲワシの正体が赤ちゃんだとは、夢にも思いませんでした。


 ニーラ様と私を助けて頂いて、本当にありがとうございました」


 ペガサスはそう言うと頭を下げる。

 俺はなるべく威厳のある声で……、で言う。


「ぺがさす、たって、ください。

 ぼくひとりでは、にーらも、ペガサスも、たすけられなかった。


 ここにいる、ひとたちと、おおぜいのひとが、きょうりょくして、できた。

 まおうをたおす、まで、ぺがさすの、きょうりょく

 ひつよう、に、なるので、よろしく、おねがいします」


 俺はそう言うと、ペガサスに頭を下げた。


 それにしても、始めて言いたい言葉が全て言えた。

 これって、超、超、超、嬉しい。


 これからは、滑らかに言えるようにしないとな。

 ウール王女のように。


 ペガサスは俺の言葉で前足を立ち上がって言う。


「ありがとうございますトルムル様。

 魔王を倒すその日までこのペガサス、トルムル様

 に忠誠の儀式をしたいと思います。


 何卒、私の願いを聞いてくださるよう、切に願います」


 そう言ったペガサスは、もう一度頭を下げる。


 リヴァタリアタンは俺と友達になった。

 今度、ペガサスが俺に忠誠を誓うだって!


 そう言えば、ヒミン王女も俺に忠誠を誓っている。

 でも、俺が姉ちゃん達と温泉に入るのを拒むと

 、王女は姉ちゃん達の意見が正しいと言って、皆んなで俺を無理やり女湯に入れた。


 王女が言うには、忠誠を誓ったけれど俺が間違った判断をすると、それには従わないと。

 忠誠をする意味が無い気がするんですが……。


 でも、それ以外の俺が下した判断には、王女はすぐに反応して動いてくれた。

 ペガサスが俺に忠誠を誓うって、たぶんヒミン王女と同じ感じになるんだろうな……。


 客観的に考えればペガサスの忠誠はありがたい。ヒミン王女のように、女湯に入らなければいけないよと、ペガサスが賛同しても……。


 俺は多少のリスクを負うかもしれない。

 けれど、忠誠の儀式を俺は承諾する。


 儀式が終わると、ペガサスと心で会話できるようになった。

 これって、リヴァタリアタンとの友達関係と近いよな。


「早速ですが、私に何かする事はないでしょうか?」


 ペガサスの能力を最大限に生かせるのは空からの見張り……。


 そうだ!

 3つの国から魔物がこちらに向かっているので、空から直接それらを見たい。


 ウール王女とニーラも連れて行こう。

 魔物との戦いになると、ウール王女は見張り役として活躍してくれる。


 ニーラはペガサスに乗ってもらって、魔王に支配された魔物のリーダを正常に戻してもらう。

 どうやら、リーダ格だけが魔王の支配を受けて、部下に命令を出している。


 予め地形を頭に入れておくと、今後有利に戦いを進められる。

 ペガサスに乗って、偵察をしたいと俺は言い、3人乗っても大丈夫だろうかと聞く。


「ニーラ様とウール王女、そしてトルムル様の3人でしたら全然問題ありません。

 3人とも軽いですから」


 ……

 ま、子供1人と、赤ちゃん2人だけだからな。


 王子がペガサスに鞍を付けてくれる。

 馬房の外に出て、俺たちはペガサスに騎乗する。


 ニーラが後ろで、その前にウール王女。

 そして俺は一番前に。


 城では再び大騒ぎになってゆく。

 なぜなら、俺とイズン姉ちゃん以外に、ペガサスが空を飛んでいるのを見た事がないからだ!


 準備が整うとペガサスは中庭に移動する。

 ペガサスは白くて美しい翼を広げ羽ばたき始め

 助走を始める。


 丘を馬で駆け上る様な振動があり、俺たちは冬の大空に向かって駆け上っていく。

 下を見ると、多くの人達が驚愕の目でペガサスを追っている。


 空を駆け上がる速度が益々速くなり、城が小さく眼下に見えるだけになる。

 背後にいるウール王女からは、歓喜の感情が伝わってくる。


 あまりの早さに俺は歓喜の感情が抑えられず、両手を広げていた。


読んでくれて、ありがとうございます。


次話 仮「一才の誕生日」で、新章の始まりです。

いよいよトルムルは一才の誕生日を迎え、後継者会議が開かれますが……。


ブックマーク、評価、感想、レビュー本当にありがとうございます。

誤字脱字報告も、本当にありがとうございます。


作者を餌付したい方は是非

ブックマーク、評価、感想、レビューをお願いします。


作者は尻尾を振って、無茶苦茶喜びます。

異世界人、読書好き人、古代人、そして、なろう人と仲良くなりたいです。


宜しくおねがいしま〜〜す。


パワーを下さい。


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