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ペガサス

 ハゲワシに変身した俺は、気配を頼りに上空に舞い上がる。

 けれど、遠くの山にいるネズミが見えるくらい魔法で視力を上げているにも関わらず、どこにも魔物は見えない。


 もしかして、雲の中に潜んでいるんだろうか……?


『トルムル、風の魔法で雲を蹴散らしたらどうかしら?

 魔物は私達に気が付いていなので、隙を突くにはいいと思うのだけれど?』


 シズ姉ちゃん、良いアイデア。

 早速俺は風の魔法を発動する。


 ゴォァァァ〜〜〜〜〜〜!


 突風が吹いて、気配のする方向の雲を全て吹き飛ばした。

 その中から、真白い魔物が現れる。


 大きな白い翼を持っており、胴体は……?

 え、まさか……、馬……?


『ペガサスだわ、トルムル。

 まさか、伝説のペガサスがいるなんて!


 伝説では、ペガサスが空を翔けめぐる速さは誰にも負けないと言われている。

 早く地上に落とさないと逃げられてしまう!』


 あれがペガサスなんだ。

 こちらに気が付いたみたいで、西の空に向かって空を翔ていく。


 まるで、地上を疾走している馬のよう。

 空中で地上のように走るなんて、蹄が空気を蹴って進んでいるみたいだ!


 ウール王女が空を飛ぶ速さよりも、はるかにペガサスの方が早い。

 俺が一生懸命追いかけて飛んでも、距離を引き離されている。


 どうする俺!

 このままだと、ペガサスに逃げられてしまう。


 それに魔法を使っても、すでに遠くにいるので当たる確率は殆どない。

 イズン姉ちゃんの体を借りて、せっかくここまで来たのに……。


『トルムル、早く何とかしないと逃げられちゃうわ。

 真空弓バキュイティーボーがあれば、ペガサスを撃ち落とせるのに!』


 イズン姉ちゃんの焦る気持ちが伝わって来る。

 ペガサスを捕まえるのは、すでに不可能なのか……?


 まてよ……。

 そうだ!


 イズン姉ちゃん、真空弓バキュイティーボーって言ったよね。

 ここに真空弓バキュイティーボーは無いけれど、真空魔法を使ってペガサスに追いつけるかもしれない。


 俺達の前に、常に真空を作り続ければ理論的には早く飛べるはずだ!

 でも、俺の前が真空になると……、息ができなくなる……?


 それに、生身の人間が真空状態に耐えられるか分からない……。

 しかも、イズン姉ちゃんの体だし……。


 アトラ姉ちゃんの体だったら大丈夫な気がするんだけれど……。

 イズン姉ちゃんはアトラ姉ちゃんに比べると、魔法使いなので体力的に劣っている。


 アトラ姉ちゃんは魔法剣士なので、胸の弾力だけでゴブリンを殺せるほどだし。

 ……、アトラ姉ちゃんの胸?


 そうだ!

 盾を魔法で作り出せば、真空でも耐えられるよな。


 俺の盾はアトラ姉ちゃんの胸をイメージしているから、弾力があってとても丈夫。

 何度もこの盾で俺の命を救ってくれた。


 これで作戦は決まりだね。

 俺はいつも通り、オシャブリを……。


 な、無い!

 俺の大事なオシャブリが無い!


 イズン姉ちゃんの体に心だけ移動したので、オシャブリを持って来れなかった。

 オシャブリが無いと、精神統一が上手くいかない……。


 せっかく作戦が決まって、ペガサスを捕まえられそうなのに……。

 どうする俺……?


 チュバチュバ、チュバチュバ。


 ん?

 何か俺、吸っていないか?


 変な味がする……?


 アァァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!


 イズン姉ちゃんの指を、無意識の内に吸っていたんだ。

 この味は……、もしかして……、イズン姉ちゃんの……、指の爪に……、塗っていた……、あのカラフルな……、化粧品……?


 こ、この際しかたない、よな……。

 俺はイズン姉ちゃんの指を……、念入りに吸う。


 ま……、不味まずいけれど……。


 そ、それなりに……、精神統一ができたので右手の中で真空、左手のなかでは盾のイメージをする。

 イメージが出来たので、真空の魔法を発動。


 ビューーーーーーーーー!


 いきなり加速されていき、このまま加速していけばすぐにペガサスに追いつく。

 けれど、前が真空なので皮膚が引っ張られ、目の玉が飛び出そうでやばい!

 すぐに盾の魔法を発動し、イズン姉ちゃんの体を守った。


 ま、間に合った〜〜。

 少しでも遅かったら、イズン姉ちゃんの体がどうなっていたか……。




 ドスン!


 突然の強い衝撃。

 盾は霧散して、目の前にいるのはペガサスだ!


 強い衝撃でペガサスは気絶したみたいで、無重力落下している。


『トルムルってば凄いわ。

 ペガサスよりも早く空を飛ベルなんて!』


 飛んだというよりは、引っ張られたと表現した方が正確だよな……。

 それよりも、ペガサスを捕まえないと、このままだと地上に激突して魔石になってしまう。


 俺は重力魔法でペガサスを捕まえる。

 そのまま城に向かって移動を開始。


『やったわね、トルムル。

 このまま城に行って、城の東側の広場にペガサスを下ろして。


 近くに馬房があるから、そこでペガサスを軟禁するわ。

 城のみんなは驚くかもしれないけれど、噂のハゲワシがペガサスを運んでいるのを見ると、私達を攻撃をしないから安心して』


 そっか。

 ハゲワシの姿だと城の人達は安心するんだ。


 城に近付くと、見張りの人達が大騒ぎを始める。

 城では鐘が鳴り響き、大勢の人達が見張り台に集まりだした。


 イズン姉ちゃんの言った、城の東側に移動すると既に広場は人で一杯だ!

 ゆっくりとペガサスを広場に下ろしていくと、後継者会議で見慣れた人が居る。


 イズン姉ちゃんの彼氏で、この国の第一王子グレンディルだ!

 王子は細かな指示を出していた。


 ペガサスを地上に下ろすと、近くに居た人達は太い縄を持っており、ペガサスが逃げないようにしている。

 近くで指示をしている王子が俺達に手を振っている。


 人々の大きな歓声が聞こえ、まるでお祭り騒ぎだ!


「流石、噂のハゲワシだぜ。

 まさか、ペガサスを捕まえてくるなんて!」


「ペガサスって初めて見たわ。

 全身真っ白で、とても綺麗」


「凄いよな、ハゲワシって!

 ペガサスだぜ、ペガサス!」


 俺を賛辞している人達もいれば、ペガサスの美しさに魅了されている人達もいる。

 でも、本当にペガサスは美しい。


『トルムル、お疲れ様。

 そろそろ部屋に戻りましょう』


 イズン姉ちゃんの、お疲れ様の言葉に安堵する俺。

 これで任務が果たせたと、やっと緊張感がほぐれる。


 俺達は再び大空に舞い上がり森の方に移動する。

 そして、低空飛行でイズン姉ちゃんの部屋に舞い戻った。


 部屋に戻って鏡の前を通りすぎようとしたら、イズン姉ちゃんが言う。


『トルムル、ちょっと待って!

 鏡の前に座ってくれないかしら?』


 え……、何で?

 元の体に帰りたいんだけれど……。


 でも、急いで帰る理由もないので、姉ちゃんの言う通り鏡の前に座る。


『トルムル、顔を左右に動かしてくれる』


 イズン姉ちゃんの言う通り顔を左右に動かす。

 でも、何でこんなことするの?

 俺の心が姉ちゃんの体から抜けた後に、化粧直しをすればいいのに……?


『これは驚いたわ!

 毛穴の汚れがキレイに無くなっている?』


 ……。

 毛穴の汚れ……?


 え〜〜と、よく分からないんですけれど。

 あ、でも、毛穴の汚れってもしかしてあれ?


『トルムルが来る前、毛穴の中には小さな黒っぽい汚れがあったのに、今は綺麗に無くなっているのよ。


 どうしてなの、トルムル?』


 どうしてって言われても……。


 あ……、もしかして真空魔法の効果?

 姉ちゃんの顔が少しの間、真空状態になったから毛穴の汚れが引っ張りだされたんだ。


 毛穴の汚れが取れた理由を姉ちゃんに説明すると、姉ちゃんは大喜びで俺に言う


『トルムルってば凄いわ!

 その原理で、毛穴汚れ取り器具を作ってくれないかしら?


 それに、虫に刺された時に、毒素を取るのにも応用できると思うのよ。

 ハーリ商会で売れば、人気商品になるのは間違いないわ』


 え、それって……。

 毛穴はよく分からないけれど、それを作れば虫刺されの時に毒を取るのに役にたつよな。


 毒ヘビや蜂、あるいは魔物の毒などによって多くの人達が命を落としている。

 これを作って売れば、多くの人達の命が救われる。


 大賢者を目指す俺にとって、これは是非ともやらなければならない事。

 ペガサスを捕まえる事ができたし、人々の役に立つ商品もできる。


 今回は大収穫だった。

 イズン姉ちゃんに商品の開発を約束して、俺は元の体に移動する。


 俺の体に心が戻ると、周りで心配している人達の顔が笑顔になる。

 そしてエイル姉ちゃんが言う。


「イズン姉さんから聞いたんだけれど、毛穴の汚れを取る器具をトルムルが作るって本当なの?」


 え……。

 もう話が伝わっている。


 エイル姉ちゃんの顔をよく見ると、ほんのすこしだけ、毛穴の中に黒い汚れを見つける。

 エイル姉ちゃんの顔の毛穴をジッと見ていたのに気が付いて、無理やり俺の顔を掴んで姉ちゃんは横に向けた。


 エイル姉ちゃんは怒って言う。


「年頃の女の子の顔を、ジッと見てはダメでしょー!!」


 ……。

 俺は1つ、利口になった……。

 

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