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エイル姉ちゃんの驚き

 空腹で目が覚めた。


 ベッドに寝かさていた俺は、父ちゃんの方を見た。

 仕事中で、何やら防具を机の上に置いて作業をしている。


 早く大きくなりたい俺は、声を出して父ちゃんを呼ぶことにした。


「バブブブーーー!」


 父ちゃんは、俺が大きな声を出したので仕事を中断した。

 俺を抱き上げて、椅子に座らせてくれる。


 親指をオシャブリのように、俺は口に入れた。


「トルムルはお腹が空いたんだね。

 ミルクを持って来るから、ちょっと待ってくれよー」


 そう言って父ちゃんは、足早に台所の方に行った。

 俺はミルクができるまで、本の続きを読むことにした。


 ……あ……?


 しおりが無いので、どこまで読んだのか判らなくなっていた。

 睡魔が突然襲ってくるので、しおりが必要だと感じた。


 それに、この世界の本は、元いた世界の本とは随分と違っている。

 紙からできているのだけれども、厚く荒い。

 和紙の方が、遥かに薄くて滑らかだ。


 滑らかな紙に慣れていた俺は、この世界の製本技術の低さに驚いている。

 魔法が使えるのなら、滑らかな本が出来るはずと思う。


 荒い紙に書かれているので読みにくい。

 手書きなので、更に読みにくかった。


 読んでいた箇所をやっと見つけて、読書を再開した。


 少し経って、父ちゃんがミルクを持って来てくれた。


 最近、手で哺乳瓶を持てるようになったので一人で飲む。

 これも、筋トレの成果ではないかと思っている。


 飲み終えると、父ちゃんが抱っこしてゲップをさせてくれた。

 ゲップが終わったので、読書を再開する。


 《魔石にスキルを付与した場合、その魔法によって一度はスキルが発動される。

 しかし、そのスキルを使うと、魔石の中の魔法が無くなるので2度目は発動されない》


 《魔法を使った後、魔石を持っている人がその魔法を上回る魔法の残量を持っている場合、再び魔石のスキルを発動出来る》


 《その場合、本人から魔法が魔石に移る》


 魔石にスキルを付与するのに、これらを考慮に入れないといけないんだなと思った。

 強力なスキルは、魔石で発動出来る。


 けれど、持っている本人の魔法が足らなければ、再び魔法は発動されない。

 しかも、発動できたとしても、そのあと魔法が殆ど残っていなかったら、とんでもないことになる。


 再攻撃ができないので、とても危険になるなと思った。


 しばらくして、エイル姉ちゃんが学園から帰って来た。


「ただいまぁー」


「お帰りエイル」


「バブブー」


 エイル姉ちゃんは一直線に俺の所に来ると、抱き上げて頬にキスをしてくれた。

 やはり、おばさんに抱かれるよりは、はるかに嬉しかった。


「トルムルは元気にしていたの?」


「バブブブー」


 俺は、元気にしていたよって言って、手足を軽くバタバタさせた。


「トルムルは、元気にしていたみたいね」


 エイル姉ちゃんはもしかして、本に挟むしおりを持っていないかを聞いてみる事にした。けれど……?


「トルムル……?

 お姉ちゃんの顔に……、何か付いているの?」


 しおりを持っていないかを聞こうとして、俺はエイル姉ちゃんジッーーと見ていた。

 言葉では通じないのは分かっている。


 そうだ!

 いい事を思い付いた。


 俺は両方の手の指を真っ直ぐにして、手のひらが90度の角度になるように傾けた。

 そして、小指の所を近づけた。


 こうすると、本に見える。

 更に、手を閉じて、また90度の角度で開いた。


「……?

 それって……、もしかして本?」


「バブゥ」


 そう言って、俺は右手を上げた。


「……え?

 本当に本なの?」


「バブゥ」


 俺は、もう一度右手を上げた。


「信じられないけれど、手で、本って言っているんだよね」


「バブゥ」


 今度は同じ動作を繰り返し、右手だけ動かした。

 そして、しおりに見えるように上から真下に下ろした。


 左手に接触したら、右手を止めた。


「もしかして、本を切る?」


「ぶーー」


 口を尖らして、違うよって意思表示した。


「分かったわトルムル。切るではないのね」


「バブゥ」


「本に何か入れるの?」


 さすがエイル姉ちゃん。

 この調子でいくと、もう少しでしおりの単語がでる。


 今度は右手で上から下に動かして、エイル姉ちゃんの持っているカバンを指差した。


「お姉ちゃんの持っている本に、何かあるの?」


「バブゥ」


「よく分からないけれど、本を見せるね」


 エイル姉ちゃんは俺を椅子に降ろすと、カバンから本を一冊机に置いた。

 几帳面なエイル姉ちゃんは、予想通りしおりを本に挟んでいた。


 俺はしおりを指差した。


「……?

 もしかして、しおり?」


「バブゥ」


 やったね。

 これで、しおりが手に入る。


「トルムルはしおりが欲しいの?」


「バブゥ」


 そう言って、俺は右手を上げた。


「しおりが欲しいのは分かるのだけれど……?

 何にに使うのトルムルは?」


 さっきまで読んでいた本を、俺は右手で指し示した


「……?


 え、まさか……?

 トルムルは、本を読んでいたの?」


「バブゥ」


「嘘でしょう?


 その本は確か、おとうさんが持っている専門書。

 トルムルは字も読めないんだから、それは難しすぎるわよ」


 えーと、どうやって説明をしようか?


 エイル姉ちゃんと、俺のやり取りを聞いていた父ちゃんが言う。


「エイル、……そのう。

 こっちに来てくれるかい」


「なぁ〜に、お父さん」


 エイル姉ちゃんは父ちゃんの所に行くと、父ちゃんが書いた字を見た。


「これは……?


 えーと?

 もしかして、トルムルは字が読める……?」


「信じられないだろうけれど、父さんが書いた字を読んで指で鼻をさした」


「それはおかしいわ。

 だって、トルムルは字をまだ習ってないのに」


「お母さんが、お腹の上から色々とトルムルに話していたのは覚えているよね」


「覚えているわ。

 ……、もしかして、それで字を覚えたの?」


「実はそうみたいなんだよ。

 しかも、かなり高度な言葉もトルムルは理解できるんだよ」


「本当に?

 それって……、お母さんが起こした奇跡……?」


「私はそう理解している。

 でも、これは他の人には知られたくない。理由は分かるね」


「ええ、もちろん分かるわ。

 間違いなく、上の人達がトルムルを欲しがるわ。


 お母さんの火葬の時の火炎魔法は間違いなく、最大火炎魔法ウルティメイトファイア

 これからトルムルはどうなってしまうの?」


「それは父さんにも分からない。

 しかし、1つだけ言える事はある。


 トルムルは間違いなく私達家族の一員だ、という事だ。

 だから、今まで通り愛情を持ってトルムルに接して欲しい」


 エイル姉ちゃんは、しばらく考えていた。


 それはそうだろうと、俺は思う。


 ハッキリ言って、気味の悪い存在に俺は十分なっている。

 そんな俺を理解するのは難しいと思う。


 生まれたばかりの時、最大魔法を使った。

 そして、まだ習っていない字を読める。


 常識で考えたら、あり得ないことを俺はしている。

 エイル姉ちゃんが、気味悪く思うのは当たり前だと思う。


 ごめんね、エイル姉ちゃん。

 俺は……、エイル姉ちゃんに……、嫌われるのが怖くなってきた。




「分かったわ、お父さん。

 これからもトルムルを家族の一員として、愛情を持って接する。


 そして、まだ赤ちゃんのトルムルを守るわ!」


 それを聞いた俺は涙が出てきた。

 どうして俺の家族は、こんなにも優しんだろう。


 エイル姉ちゃんが再び俺の所にきた。


「トルムル……?

 もしかして、さっきの会話を聞いていて泣いているの?」


「オギャー、オギャー」


 俺はそうだよと言おうとしたけれど、泣くのを止められなかった。



 それを見たエイル姉ちゃんも、涙を流しながら俺を抱き上げた。

 いつもよりは強めに抱いてくれて、お姉ちゃんの愛情を感じる。



 ブリィ。ブリィリィーー。


 あ……、ウンコ出た。

 エイル姉ちゃんに強めに抱かれたので、腹圧が上がって、そのう……。


 ごめんね、エイル姉ちゃん。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 本作品では,火の魔法のような現象としての「魔法」と,その現象を引き起こすためのエレルギーである「魔法」とが,同じ「魔法」として書かれている. 世間一般では,現象としての「魔法」と,そ…
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