45:貴族街の御邸 ③
機嫌の悪い二人に挟まれだんだん居心地が悪くなってきた私は、馬車を降りて設計図をつくるために敷地を測ることにした。
すべてだと、100m×97.5m
その内、家を建てる部分は、80m×61.25m。
ひろい、とっても広い。
これは本当に私の住む場所なのか……。
確か、貴族の邸って、
1階(グランドフロア:社交の場)
・玄関ホール
・大広間(舞踏室)
・晩餐室
・応接室
・居間
(・女性用応接室)
・遊戯室
・書斎
・図書室
・ギャラリー
2階(ファーストフロア:プライベートの場)
・主人の寝室
・夫人の寝室
・夫人のメイクルーム
・子供の寝室
・子供用勉強部屋
・宿泊客用のゲストルーム。
こういうかんじだったと思う。
こっちの世界で同じかは置いておいて、これが作れればまずは十分だよね。
書斎と図書室は二階にもある場合が多いかな。
主人だとか夫人だとか、そういうのはないが、部屋の数は多く作れそうなので、私が住む、というよりは、貴族の家族が住む、という風に基本部分を考えることにした。
あとは、使用人さんの部屋も必要だ。
この邸にずっといることはしばらくないだろうし、あったとしても私だけで管理することはできない。誰かを雇うことになるだろう。
何人雇うかとかは決めていないので、休憩室とかを各階につくって、泊まりの希望者とかがいたら空き部屋か、使用人の寮とかをつくってもいいかもしれない。
厨房や洗濯室、お風呂などは、部屋の位置とか決めてからあてはめた方がいいかな。厨房とかは、大広間とか晩餐室に近いほうがいいだろうし。
隠し部屋とか、仕掛けは、邸ができた後に自分で作っちゃえばいい。
馬車の中に戻って、変形。テーブルのある1-4の形にした。
コンパスがなかったので二本の棒を束ねて、片方の先に細く尖らせた石をつけ、もう片方にインクをしみこませてつくる。見た目はきれいじゃないが、実用性はある。この世界にコンパスがあるかどうかは知らないので、あとできいてみようと思った。けっこう便利なのであれば欲しい。魔法陣とか描く文化があるのだから、あると思う。
コンパスと定規で設計図をかいていく。
おかしなところがあれば直してもらえばいい。とりあえず伝わればいいのだ。
30分くらいして、だいたい描き終えた。
「外装はどうすんだ? 何か考えてんの?」
「うん、いい質問だね。」
はっきり言うと、考えてない!
「考えてないんだ。」
「ぬわ!? な、なぜわかった……。」
「顔に書いてあるから。」
わたしは最近よく思う。ライアンのやつ、人の考え読めすぎだよ、と。ライアン君が私の考えを読んできたことはもう何十回とある気がする。
もう会話はいらないのではないだろうか。
あ、それじゃあ一方通行だ。私はライアン君の考えは読めないからね。
「外装考えてないって、どうすんの? 中身だけ作るわけにもいかないだろ。」
「そうなんだよね。どうしよう。」
「制限時間とかあるわけじゃないんだし、いろんなとこ見て回るか。ま、ゆっくり考えようぜ。」
それがいいね。貴族街なんだから当然貴族の家しかない。この辺りを見て回ればヒントは得られるだろう。
ライアン君が話しているときは、ハクはふてくされて黙っている。ライアン君の方が早く私の言ったことに反応するので、ハクはなかなか喋れていなかった。頑固なハクには苦笑せざるを得ない。
にこにこして――――ニヤニヤして――――ハクを見たら、少し睨まれてしまった。美形すぎてにらんでも様になっている。
馬車に乗って見てもいいが、それでは移動スピードが速すぎてゆっくりいろんな部分が見えないだろうということで、歩いていくことにした。
「あの!! あなたがエレナさん?!」
「ま、まってください~。」
馬車を降りて歩き始めた時、パタパタとドレス姿の女の子が走ってきた。その子を追いかけるように何人かの大人も走っている。
私の名前を知っている貴族の女の子。
王族だよね、きっと。ファヤイラト様の娘さんかな?
お姫様、ってことか。
「あの! お父様とお兄様から聞いたのですわ! かわいくて聡明で、魔法がすごく上手な女の子が伯爵になると! わたくし、同い年と聞いて、会いたくなったのですわ! お兄様たちだけ会うなんてずるいですもの!」
ずいぶん活発なお姫様のようだ。
「はじめまして、姫様。わたくしはエレナと申します。姫様自ら会いに来ていただけ光栄にございます。」
「あらたまらなくて結構でございますのよ? 私は、エレナさんと友達になりたいのです! お兄様とはお友達になったと聞きましたわ。わたくしではダメなのですか?」
お姫様、サト様になんて聞いたの?
確かに地竜はたおしたけどさ、お姫様の友人にと勧められるようなことしてないよね?伯爵、っていうのは、辺境伯爵を入れなくとも上から3番目。王族の友人は公爵や侯爵の御令嬢なのではないのか。
「ダメ、ではないですけど、その、いろいろ問題があるのではないですか?」
「問題なんてないわよ。わたくしがお友達になりたいって言っているのだから、反対なんてされないわ! それに、お父様とお兄様も勧めてくださっているのよ?」
……。
「で、では、お名前をうかがってもよろしいですか?」
「わたくしの名前は、アイミラーナ・クォーカライトですわ。アイラと呼んでくださいませね!それから、せっかく同い年なのです。プライベートの場くらい敬語はなしにしましょう!」
なんていうか、この国の王族って、けっこう身分の意識がないよね。いいことだけどさ。
「わかりました、アイラ様。わたしたちはこれから邸の外装を考えるために貴族街を見て回る予定なんです。アイラ様はどうしますか?」
がんばってみたよ。
いくら相手がいいって言っても、なんか、出てるオーラが緊張させてくる。
「わたしもそのお散歩について行ってもいい? あ、あと様はいらないからね!」
様なしですか。
がんばってみます、か?
「……ア、アイラ、一緒に来ていいの? そのドレスだと目立つし、お姫様だから危険じゃない?」
「大丈夫だよ! わたしには強い護衛と強い隠し武器があるから。」
強い護衛さんは、さっき姫様の走りに負けてましたよ?
「ファヤイラト様はいいって?」
「お父様は、エレナと一緒だったらどこでも行って大丈夫だって言ってたよ。」
何その信頼!?
嬉しいけど! ちょっと感動してるけど! それは大丈夫なの!?
「えっと、まあ、貴族街ちょっと歩くだけだし、あんまり遠くに行かないから大丈夫、かな? 馬車でいく?」
「ありがとう! 私は歩きでも馬車でも大丈夫だよ。」
アイラ、完全にお嬢様言葉じゃなくなってる。たぶん、このお転婆な様子を見るに、普段から貴族めんどくさいとか思ってるのかもしれない。
こうして、王族三人目の知り合いと、三人目の友達ができました。
貴族になってからの後ろ盾もばっちりです。
………。
少し遅くなってすみません。
エレナのお友達3人目。あと97人で100人。
……エレナ、がんばれ!
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