43:貴族街の御邸 ①
こりゃ、ひどい……。
ファヤイラト様がやめておけといった意味がよくわかる。
もとは立派な御邸だったんだろうが、今は幽霊屋敷さながらの荒れ具合。
広い庭は草ぼうぼう。
屋根はかけている部分もあるし、壁が壊れたりヒビが入っているのも見える。
火事でもあったのか、2階の一部分が焼けている。
うん、住みたくないよね。何か化けて出できそうだよ。
でも、立地条件だけはいい。
ここは、城に近いが、大通りに面していて、まっすぐ行けば、門につく。
いろいろ移動するであろう私たちにとっては、それは結構いい。
あと、周りに家が少ない。
ここの庭の敷地が広いせいでもあるとは思うが、過ごしやすいと思う。
ここの邸を取り払って立て直しちゃダメかな。
きいてみたら、もともと近々壊す予定だったから、問題ないとのこと。
じゃあ、場所はここで決まりだね。
あとは、どういうのをたてるかだね。
やっぱり、自分が住むかもしれない場所は快適な方がいい。
でも、だからといって、ここであの魔術は使えないよね。
絶対目立つし?
だから、作ってもらうわけだけど、そんなにお金がない……。
どうしよう。
「主殿、ひさしぶりだな。」
え??
邸を見ながら金欠対策を考えていたその時、幽霊屋敷から青年があらわれた。
白銀の髪に琥珀色の目。顔立ちの整った、まさに美青年。
そんな人が、『主殿』というのは、きっとファヤイラト様かサト様だと思うのだが、なぜか私の目を見てくるではないか。
いや、誰だし。
こんなきれいな人、一度会ったら覚えてるよ。
それに、私誰かの主になったことなんてないんだけど―――――――あ、一回あった。
この人、ハク?
髪の色は、毛色と同じだし、目の色も同じ。
人間になるなんてあり得るのか知らないけど、この世界ならあってもおかしくないよね?
「ハク、なの?」
「そうだ。よくわかったな。」
ありゃ?ホントにハクだったの?
「なんで人間になってるの?」
「うむ、話すと長くなるのだがな?」
「え、じゃあ、あとできくね?」
今は、邸のことを考えなくては。
「え?あ、主殿、ききたくはないのか?」
「ききたいよ?でも、今は御邸について考えているところだから、待っていてほしいの。」
「……。」
あ、ハクがちょっとしょんぼりしてる。
「えっと、あ、この後おいしいもの食べに行こうよ。王都のお店、行きたくない?」
「うむ、我も行ってみたいぞ!」
機嫌なおるの、はや!
ハクが前に人間の食べ物おいしそうに食べてたから効果あるかと思ったけど、効果ありすぎるくらいだったよ!
あと、なんかその見た目にそのしゃべり方は違和感があるよ。
なんか、アメリカ人が日本の時代劇してるみたいなかんじ。
「なあ、エレナ、こいつがお前の言ってたハクっていうオオカミか?おれには人間に見えるんだが……。」
「そうだよ。後、わたしにも人間に見えるから大丈夫、おかしくなってないよ。」
「いや、そういう話じゃなくて、なんで人間になってるのかっていうところが重要なんだけど。」
「あとできくことにしてるから。今はちょっと待ってて?」
「あー、うん、わかった……。はぁ、よくこんなにさらっと流せるな……。」
なんか、いろいろありすぎて、『もう何でもアリ』って思うことが増えまして……。
「ファヤイラト様、この場所に建築したいと思います。邸の見取り図などをつくってからもう一度相談に乗って頂けますでしょうか。」
「ああ、もちろんよいぞ。」
「ありがとうございます。」
一度王都を見回ってみたいので、といって二人を城まで送り届けて別れた。
勿論、ハクに事情を聴くためである。
なんだかいろいろ問題のありそうな内容の予感がしたので、二人に聞かせたくなかったのだ。
防音効果の付いている馬車に乗りこんで、話を聞くことにした。
「さて、ハク。どうしてこうなったのか教えてもらえる?2年前からどこに行ってたの?」
「主殿と精霊界に行った日、我は神獣でありながらその結界を越えることが大きな負担になった。回復のため眠ったはいいが、起きた時には別の場所にいたのだ。これには驚いた。まさか死んだのではあるまいかと神獣でありながら思ってしまったくらいだ。」
ちょいとまってくだされ。
神獣って、何?
オオカミじゃないの? ハク。
「ハク、神獣って?」
「ぬ?主殿は知らないのか?我は誇り高きフェンリルの一族であるぞ。4大神獣の北の一族だ。」
フェンリル?
わたしのしってるフェンリルって、もっとこう、なんて言うか、獰猛な性格をしてて怪物みたいなかんじなんだけど。
まあ、世界が違えばそういうこともあるか。
”地を揺らす者”これがフェンリルの語源だったよね。
ハクは土属性なのかな?
いろいろ聞きたいことはあるけど、まずは続きを聞かなきゃね。
「我はその場所で”中央の女神”に出会った。そして言われたのだ。『おぬしの主とするものに仕えたくば、鍛えなおせ。』とな。」
中央の女神?
「そしてその空間で我は鍛えなおされた。人化は過去に二個体しかできていない。神獣の中でも我はトップクラスとなった。もちろんそれ以外の能力も増え、結界に対する耐性もついた。」
ハクも別の場所で頑張ってたんだね。
しかも、人の姿になれるのがそんなにすごいことだったなんて。
ハク、私に使えるっていう形でいいのかな?
あ、ていうか、私に仕えたくば鍛えなおせ、ってどういうことよ。
神獣が契約してくれっていうのもきっと珍しいはずなのに、私と一緒にいるならもっと力がないとダメ、って言ってるようなものじゃない?
それっておかしいでしょ。
神獣に私の子守でもさせる気なのか、女神様?
「主殿もより力をつけたようだが、今の我ならば主殿に勝てずとも負けることはないだろう。」
きっと勝てると思いますよ?
話を聞いていたら、ハクさん、なんかすごいっぽいじゃないですか。
わたしにはほんとに、もったいないですよ?
むしろ、私が仕えるべきなのでは?
ハクが帰ってきました~。
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