41:サト様のお父様 ②
静まり返り、時が止まったのかと思うような間があった。
誰のものともわからぬ疲労と安堵のまじりあった息が吐き出される。
それを境に、皆が動き出す。
生きのこった護衛は、自分のけがよりも先に、サト様のお父様であろう人の無事を確認する。
護衛の鏡だ。
「そなたたち、礼を言う。して、何者なのだ?あれを単独討伐などきいたことがない。」
サト様のお父様が、こちらに鋭い目を向けた。
私たちも警戒すべき対象のようだ。
まあ、それは分からなくもない。
身分が高い人のようだし、身元の分からない人はすべて警戒するべきとしているのだろう。
わたしたちは子供だが、目の前で自分の護衛でも倒せなかった魔物を倒してしまっている。その力が自分に向けられれば、まともに戦える護衛がいない今、死は確実だ。
敵対する意思のないことをしっかり示すべきだろう。
「はじめまして。エレナ、と申します。サト様のお父様でいらっしゃいますか?」
「ほう、息子と知り合いか?」
視線がより鋭くなる。
視線だけで人が殺せるかもしれない。
しかし、その視線を子供に、女の子に向けるのはいかがなものか……。
一応、助けてあげた気がするんだけど、気のせいだったかな?
まあ、貴族としての意識は素晴らしいし、そうでなくては簡単にだまされたりしちゃうからしょうがないかもだけどね。
そうわかっているからこそ、嫌悪せずに説明しようと思えるわけだし。
「4日ほど前に知り合いまして、共にここまで参りました。サト様とは友人関係でございます。」
少し鋭さは失われたが、信じてもらえていないご様子。
はぁ、サト様、自分でお父様に説明して頂けませんかね?
ライアン君にサト様を連れてくるように頼む。
……早く来て!なんか気まずい!!
ライアン君がサト様と一緒に戻ってきた。
「父上っ!」
「サラレアト、心配をかけた。」
さっきまでの鋭い雰囲気は、サト様の登場によって発散された。
今は感動の親子の再会の、温かくほほえましい空気に一変している。
結局は、サト様のことが大好きな一人のお父様なのである。
「エレナさん、ライアン、本当にありがとう。二人のおかげでまた父上に会うことができた。」
「よかったです、サト様――――サラレアト様。」
本当に良かった。
この光景を見て改めて思う。
あそこでサラレアト様の言うように、スピードを上げずに待っていたら、こうはならなかっただろう。
「サラトレアじゃなくていい。僕は、友人にはサトと呼んでもらいたい。」
愛称、略称は、限られた者、例えば親しい友人や家族のみが呼ぶものだ。
サラトレア様にとって、私たちは友人として認めてもらえていたらしかった。
それは、非常にうれしいこと。
この短期間に、友達が二人もできるなんて、私にとっては幸せとしか言えないことだ。
「ありがとうございます。サト様。友人と認めて頂けたこと、とてもうれしく思います。」
「あれ、エレナさんの中で、僕はまだ友人じゃなかったのかい?」
おどけたように言われて、思わずほほが緩む。
「そんなことはございませんわ!サト様にそういっていただけたことがうれしいのです。」
「そっか、それはよかった。」
「サト、父さんに今までのこと、説明してくれないか?おれらからよりも聞きやすいだろ?」
「ああ、そうだね。」
この状況で態度を変えないライアン君は、ある意味大物だけど、サト様のお父様がこわくないのかね?
サト様は、私たちと出会ってからのことを細かく話す。
報告書の読み上げでもしているんじゃないか、って思うくらい。
サト様のお父様は、息子の話に嬉しそうに耳をかたむけている。
もう、ニコニコしてる。
ホント、さっきの雰囲気、どこ行った?
サト様は、私たちに会う直前にに魔物に襲われ、護衛はとどめはぎりぎりさせたものの全滅。しばらく歩いて馬車が見えたから声をかけた。
ということだった。
サト様のお父様は、息子の成長を喜ぶような、心配するような、普通の親の顔をしていた。
「そうだったのか。息子も、私も助けてもらった。本当に感謝する。先ほどは、失礼な態度をとってしまった。――申し訳ない。」
「気になさらないでください。そうやって警戒することはご自身の身を守ることにつながります。あの対応は、正しかったのだと思います。それに、警戒しているからといって相手の主張を一蹴りしないところ、素晴らしいと思いますわ。」
「はっはっはっ、そうかそうか。」
警戒がなくなったとたんにサト様のお父様は、愉快なオジサマに変身した。
180度違うんだよ。驚きだよ。
「そなたら、あー、エレナ殿とライアン殿。息子がこのように楽しげに話す姿は初めて見た。これからも友人であってくれぬか?」
「もちろんだ。サトとはこれからも仲良くさせてもらいたいと思っている。」
「わたくしも、サト様と今後も仲良くさせて頂けたら嬉しいです。」
「ありがとう、二人とも。」
「して、エレナ殿。地竜の単独討伐、前代未聞なのだが、エレナ殿はどこの国に所属しておられるのだ?」
んー、どこだろう。
エレナ・ディベメントはシェイルイ王国だけど、今のこの状態だとよくわからないなぁ。
所属、って国民ってことだよね?
無所属だと国民権のない怪しい人になっちゃうし……。
まてよ。所属がどこかの前に、よろしくない言葉があったような?
聞きたくないような言葉だったような?
「う、あ、ええっと? 地竜ですか……。」
ジリュウトハ?
えっと、地竜、ですよね、はい。
地竜……。
地竜とは、土属性であり、魔獣と竜族の間の厄介な生き物。
通常、国が軍や高位の冒険者を何十名も派遣して討伐する。
それでも被害は大きく、町が壊れることもある。
こんなのだった気がする。
あのオオトカゲ、地竜だったの!?
竜、みたいな感じじゃないんだよ。あれは。
ほんと、オオトカゲ、って感じなの。
地竜を一人でスパッと切っちゃったわけですか……。
「所属は、一応シェイルイ王国の国民だと思いますが、今はどこかに所属、っていうような状態じゃないのです。」
「ぬ?エレナ殿は平民なのか?」
「? そうでございます。」
「なんと。公爵令嬢、もしくは王族かと思ったぞ。」
そんなこと言われても。
あれ、サト様もびっくりしてる?
「エレナ殿、クォーカライトに所属する気はないか?」
「ええと、どういうことでしょうか?」
「うむ。立ち話はなんだ。一度家に来てほしいのだが、よいだろうか?」
家……御邸、ですか?
なぜ?ここでいいのだけども。
今まで貴族だと思われていたのか。
サト様、平民だってわかったけど、まだ友人と思ってくれるかな?
「エレナさん、ライアン、ぜひきてくれないか?」
「ええと、どのくらいで着くのでしょうか?」
「そうだな、4日、いや、3日くらいか。王都にあるんだが。」
あ、そういえば、二人とも、馬車はどうするんだろう。
サト様は私たちのでここまで来たし、サト様のお父様のも、壊れて乗れる状態じゃない。
それと、護衛が大けがした二人しかいない。
……家におじゃまするかは置いといて、乗せて行ってあげた方がよい感じかな?
「でしたら、わたくしたちの馬車に乗って行かれますか?」
「よいのか? しかし、大勢で乗ると少しばかりきついのではないか。」
「ああ、父上、それに関しては大丈夫だと思いますよ。ね?エレナさん?」
サト様、馬車の機能があれだけでないと気が付いていたご様子で……。
「ええ。サト様のおっしゃる通りでございます。ご安心くださいませ。」
「? 何か仕掛けでもあるのか?」
「そのようなところでございますわ。」
護衛の方には、馬車に血を持ち込んでほしくなかったので、ハイヒールをかけてちゃちゃっとなおしておく。
倒したのが地竜だったようだし、ここで隠しても、すでに遅いだろう。
だったらぱっとやってしまった方が楽だ。
サト様のお父様を馬車に招き入れるべく歩き出す。
生きのこった護衛二人が、仲間の遺体をマジックバックに入れているのが目に入る。
家族の人に渡すからだということだった。
でも、遺体は、形がきれいに残っているものは少なく、その姿を見せずにしてあげた方がよいのではないか、と思うところもある。
淡々とマジックバックに入れていく様子が、より現実を突き付けている気がして、思わず背を向けて馬車に向かってしまった。
馬車を6人乗りになるようにひろげてから、サト様のお父様に乗ってもらった。
見た目と反する広さに驚いているお父様に、サト様が、夜にさらに驚くことになるよ、と言っていた。
これは、グレードアップしなくてはならないかも……。
護衛の方は、御者台に座ってくれるというので、何もしないで座っているだけでいい、と念を押しておいた。
へたに馬のゴーレムを動かそうとしたり、見えた魔物をやっつけようとしたりしたら、移動速度は遅くなるし、余計に危ない。
走り始めてからたびたび、「うわっ!」「ええっ!?」「はっ!?」とか言う声が御者台から聞こえた。
たぶん、魔物が出たのにはじかれたこととか、それになにも動じることなく、常に同じペースで走る馬とかに驚いた声だと思うので放っておいた。
その夜、2-5のボタンを押して、今までより豪華な部屋にしたところ、なぜかライアン君にまで驚かれた。
解せぬ……。
評価・ブクマ、ありがとうございます!




