40:サト様のお父様 ①
なぜ、なぜ私たちが国王様の御前にいるのか?
時はさかのぼること数日前。
ここ3日ですっかり馬車になじんだサト様とライアン君が仲良く話いているのを聞きながら、馬車を走らせていた。
「あ、この先の町で会う約束をしているんだ。」
「お父様と合流なさるんですよね。町の中には入りますか?」
「んー、町が近くなったら伝書石飛ばすから外で大丈夫だよ。」
伝書石?
伝書鳩みたいなものかな?魔道具版?
ライアン君も聞いたことがないのか、不思議そうな顔をしているが、その時になったらわかるだろうと思ったのかつっこまなかった。
そうして町に近づいたころ、黄色の魔石のようなものをサト様は取出した。
これが伝書石か。
「父上、あと少しで到着いたします。」
伝書石を握りしめて、サト様が短く要件を言う。
手を開くと、伝書石は町の方に行ったのか手のひらから消えた。
面白い魔道具だ。
携帯電話の代わりのようなものなのかもしれない。
魔道具のお店に行く機会があったら買ってみてもいいかもしれない。
感心していると、サト様の目の前の宙に、伝書石が現れた。
戻ってきたのだ。
「了解した。だが、あえるかわからない。護衛が残り4人。」
伝書石は男の人の声――――サト様のお父様の声だろうか――――でそう3回繰り返すところりと落ちた。
「まずい。父上は何かに襲われているかもしれない。」
サト様のお父様は少し焦ったような声だった。
魔物か、盗賊か、暗殺者か。
護衛が残り4人、と言っていた。
わたしからすれば多い数にも思うが、焦っていたのだから、ずいぶん減ってしまったのかもしれない。
「馬車、急がせますか?」
「いや、大丈夫だ。」
なんで?
お父さんが危ないんじゃないの?
早く行った方がいいんじゃないの?
「どうしてですか?お父様が危険な目に合われていらっしゃるのでしょう?」
「急ぎたい気持ちはやまやまだが、急いで向かったところでどうしようもない。父上の護衛でも無理なのだ。私たちにできることはない。それに、父上と私は一緒にたおれるわけにはいかないんだ。」
サト様の一人称が私になった。
それは、貴族の仮面をかぶった合図なのだろうか。
サト様は家を継ぐ長男なのかもしれない。
貴族として、今の判断は正しいのかもしれない。
でも、爪が食い込み、血が出るほどに手を握りしめて言われて、納得できるわけないじゃないか。
「サト様、わたくしとライアン君にお任せくださいませ。」
気がついたらそう言っていた。
反論される前に馬車のスピードを上げる。
「そんなの、できるわけないだろう。私は剣を習っている。これでも筋の良い方だといわれた。しかし、父上の護衛をしている人に勝てたことはない。その護衛がダメなのだぞ?」
「そうでございますか。サト様や、サト様のお父様の護衛の方がどれほど強いのかは存じ上げませんが、わたくしたちは、考えがございます。ですので、どうぞご安心くださいませ。サト様に戦わせるようなことも致しませんから。」
「ちがう。そうではない。二人がどれほど強いのか私は知らない。だが、こどもが、少し強いだけのこどもが、正義感で出て行って勝てるようなものではないと言っているんだ。」
「っいいかげんにしてくださいませ!家族が、自分の家族がいなくなってしまうかもしれないというのに、何のんきなことを言っているのですか!サト様には、サト様のお父様には、それぞれお立場があるとは思います。ですが、家族がいなくなってしまうという時になぜ何もしないのですか!伝書石で誰かに応援を頼むなり、かけつけて力でなくとも魔道具などを使ってお父さんから意識をそらさせたり、できることは少しでもあるのではないですか!?」
「だ、だが、そんなことを言ったって……。」
「それなら、何もせずに待っていて悔しい、苦しいと思わないのですか!?」
「……」
「おい、エレナ、おちつけ。」
……。
やってしまった。
わたし、何言ってるんだろう。
それぞれ事情があるはずなのに。
なんて迷惑な人なんだろう。
サト様がお父様のところに行きたいって思っているのは、みたらわかるじゃないか。
「エレナ、大丈夫か?とりあえず涙を拭け。」
涙?
あ、本当だ……。
何やってるのか、私は。
「ごめんなさい、サト様……。」
「いや、エレナさんの言っていることは分かっているんだ。謝る必要はない。」
「あの、あと1分としないうちに町につきます。一度わたくしを信じて任せてはもらえませんでしょうか?」
「勝算があるっていうのかい?」
「ええ。そうでなければ申し上げませんわ。」
「おれも勝算はあると思う。サト、おれらに一回任せろ。」
「本当なんだね?……それなら僕もいくよ。僕だってできることなら助けたいんだ。」
「わかりました。では、見つけ次第、隙を見てお父様をこの馬車に乗せてください。ここにいれば安全ですから。サト様もそのあとはここに入っていてください。」
「二人はどうするの?」
「私たちはサト様のお父様を襲っているものを排除いたします。」
「この馬車が安全なのは道中魔物がはじかれたことで分かっている。父上がこの中に入った後は、無理に戦わずともよい。二人も危険になる前に戻ってきてほしい。」
「危険になる前には戻ります。」
町の門が見えてきたので馬車を通常のスピードに戻す。
門の少し離れたところに土煙がたっているのが見えた。
そこにいるのかもしれない。
馬車をライアン君と二人で降りて、様子を見に行った。
土煙のかかるその先にあったのは、壊れてひっくり返った馬車と、血を流して倒れている何人もの人。
少し離れたところには、立っているのもやっとというくらいの大けがをした人が二人、誰かを背後に隠して守るようにしていた。
あれがサト様のお父様か。
護衛の人が睨みつける先にいたのは、大きなトカゲのような魔物だった。
それはもう、本当に大きい。
見上げたら首が痛くなる。
トカゲは、まだ残っている護衛とサト様のお父様に攻撃をしようとしていた。
ただ、体が大きい分、素早く動くことはできないようで、攻撃する前動作が長い。
「あのオオトカゲのような魔物に魔法ぶつけるから、サト様のお父様のところに行ってもらえる?」
「いってなにすりゃいいの?」
「攻撃が流れてきたら防いでくれればいいよ。」
「わかった。お前があぶなそーになったら、交代な?」
「うん、お願いね。」
ライアン君は、サト様のお父様のところにかけだす。
わたしは魔力を集める。
何の魔法がきくかはわからないため、いくつかの魔法をはなつ。
「”ファイヤーボルト”!」
「”ウィンドバレット”!」
「”リーフアロー”!」
「”アイスストーム”ッ!」
最初の二つはあまり効果がなかったようで、ファイヤーボルトに関しては吸収されたのか、大きく見えた炎はすぐに消え、ウィンドバレットはバン、ボン、と派手な音がしたもののはじかれた。
どうやら、体は固いようだ。
しかし、精霊よりだからなのか、私のアロー系魔法は、補正がきいていて、狙いが外れても、うまいところにとどいてくれる。
リーフアローは、オオトカゲの首と背中の境目のところに刺さった。弱点なのか、オオトカゲは暴れ始めた。
最後のアイスストームは、最初と同様にはじかれた。
地を這うようなオオトカゲのうなり声が聞こえる。
その声は、凶器にもなりオオトカゲを中心に、波紋のように広がって、地面の土が盛り上がったりへこんだり、あたりの地形が変えられていく。
数秒遅れで大風が来た。
立っているのもやっと、気を抜けば吹き飛ばされそうな風を、唸り声ひとつで生み出してしまった。
あのオオトカゲは、手ごわい。
長期戦では不利になる。
でも、今ので大分オオトカゲの弱点がわかった。
たぶん、オオトカゲは、私たちの体の関節にあたる部分が弱いんだと思う。
それ以外は体が硬く、はじかれてしまうが、関節のところだけは固くないのかもしれない。
そうとわかればこっちのものだ。
「”エアカッター”!」
魔力を多くこめて刃を大きくする。
現れた2枚の刃は、オオトカゲの首へ向かって回転しながらとんでいく。
一瞬あたりが静まり返った。
次の瞬間には、ドサッという、大きな音がたち、地面が振動する。
オオトカゲが首を失い、ゆっくりと体が傾いていくのが見えた。
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