37:馬車の機能、2つ目のお披露目
「な、なあ、この馬車、ちょっと速い気がするんだけど?」
「や、やっぱりそう思う?」
「ちょっとじゃなくて、めちゃくちゃ速いと思う。」
「あ、あはははは。」
「わ、笑ってないで止めろよ!しばらく、っていうか、けっこーこのスピードで走ってるんだぞ?気づかなかったけど!」
「そ、そうだね。う、馬のゴーレムさん!もっとゆっくりに!」
キキィーッと急停車して、今度は普通の、一般的な、標準的なスピードで走りだす。
「これ、目撃とかされてねーか?見られたらまずいと思うんだが?」
「わ、からない……。見られているかな?」
「さあ。でも、もう2こ町とばしてるからな。見られてておかしくないだろうな。」
「……。」
「ま、まあ気を取り直して。今度こそ、普通の速さではしってるから大丈夫だろ。」
「そうだよね!」
出発してから3時間。
3日で行く道を3時間で走ってしまった。
……。
ゴホン。と、とにかく、予定より早く進めてラッキーと考えよう。そうしよう。
「あ、そういえばなんだけど、サッバネレントに着くまでにどこかの国の王都に行きたいと思っているの。」
「別にいいよ。ていうか、サッバネレントに着くまでに、いろいろ情報とか集めたいんじゃねーの?なら、情報の多い王都は、なるべく寄るべきじゃね?」
「そっか。じゃあ、なるべくいろんなところに寄って行ってもいい?」
「ん。おれはもともとそのつもりだったし。」
そのあとは他愛もない会話をして、馬車を走らせ続けた。
この辺りは確かに魔物が少なく、何度か出てきたものの馬車の結界機能によりはじかれていた。
そうしているうちに、すでに日が沈み始めた。
もう、夕方だ。
はじめのころのようにスピードを出せば、夜になる前に町につくこともできるだろうが、馬車を急がせるつもりはない。
「今日は野宿か……。どのあたりにするか?」。
そう考えるのがふつう。
でも、野宿、って不便じゃない?
わたしには策がある!!
「ふっふっふ、そう思ったあなた、この馬車にあるボタンの数々、お忘れでは?」
馬車のすごさ、お披露目だよ!
「あ、ああ、そう、だった、な……。」
わたしは黄色ボタンを押して、ボタンテーブルを出す。
「ああ、町に着く前に日が暮れる。今日は野宿か。っていうそこのあなた!心配ご無用!この、2-3ボタンがあれば!」
ちょうど道のわきに、馬車1台分くらいは止められるスペースがあったので、馬車を移動させ、停まらせる。
「スイッチ―――――――、オン!」
馬車の壁が元に戻ったかと思うと、どんどん広がっていく。
その間にも、床や壁やが変形する。
「ちょ、は、え?お、おい、これ、なんだ?」
ライアン君が何やら言っているが、その間も変形を続ける。
「じゃじゃじゃーん!夜も安心、エレナ特製馬車搭載機能その8、ビジネスホテル型!」
完成したのは、ビジネスホテルの一室のような空間だった。
広がった空間には、イス、テーブル、ベッド、鏡台、ランプがあり、壁で隔てられた先に、シャワーとトイレがある。
トイレは、もちろん水洗トイレ。
実は、この世界にシャワーはないが、ビジネスホテルをイメージしたことでこうなったのだ。
「……はぁ!?こ、これ、何!?」
「よくぞ聞いてくれました!これは部屋型体形ナンバー1、一番簡易的なものです。しかーし!そうはいっても、夜を過ごすだけならとても快適なのです!」
「あ、ああ、そうだな。……一番簡易的、って言った?」
「はい!部屋型体形は現在6つあります。また、外に出てみると分かりますが、中の空間が広がっていても、外からは一般馬車体形に見えますので、このままの移動も可能なのです!」
「む、むっつ……。こ、このまま移動できたとしても、道の横の木とかにつっかえるんじゃ?」
「はぁ、これだから素人は!いいです?よく聞いてください!この空間は、すこーし空間をゆがめて、別の空間とつなげちゃったものなのです。つ、ま、り、この世界の空間使用量は先ほどと変わっていないわけなんです!」
「……。空間をゆがめてつなげた……。」
「何不思議そうな顔してるのです?マジックバックのようなものじゃないですか。こういう風に使っている人もいるんじゃないですか?」
「いや、いねーだろ……。」
「きっといると思いますよ。だって、私が作れたんですから、魔道具専門の開発者なんかはもっとすごい活用法が思いついていると思うんです!だから、わたし、おちついたら魔道具の研究者とか、開発者の人のところでいろいろ見て、教えてもらいたいと思っているのです!」
「……お前よりすごい魔道具つくるやつはいねー。おれが保障する。」
「世界は広いんですから!」
「……。」
あ、ちょと熱くなっちゃったかな……。
これ以上語らないように、座っていたところから立ち上がって、外に出る。
ちなみに、座っていたイスはベッドになっている。イスの座面を開ければ、そこに掛布団とシーツが入っているからそれをかぶせればよいのだ。背もたれが倒れて大きくなっているから広々として問題なく眠ることができるだろう。
馬車の外に出ると、夕日に照らされ、赤く染まった道が、時折やさしく髪をなでる風が、盛り上がっていた心を静めていった。
大きく息を吐き出して、これからのことを考える。
まず、サッバネレントに行く。
その間にも悪魔素とか、あやしい女の人に関することとか、とにかく調べられることは調べる。
あと、できれば、図書館みたいなところにも行きたい。
もしかしたら、悪魔素による影響と似ていることが過去にあったかもしれないし、歴史とかからつながることがあるかもしれない。
サッバネレントに行ってからはどうするか。
もし、暗号の読み取りを間違えていてサッバネレントではなかったら、もう一度考えて、出た答えのところに行く。
あっていたら、ギルドマスターが何に関わっているのかを調べ、私の調べていることと関係があった場合、それ以外に何かないかギルドに目をつけて考えてみる。
精霊界をまわることもしたい。
今どういう状況なのかがはっきり知りたいし、向こうに手掛かりがあるかもしれない。
やること、多いな。
でも、結局大事な部分は分からないことが多い。
というか、スタートラインから全然進んでいない。
アクションを起こさなければ、やはりこの先には進めないのだ。
がんばらなくては。
「考え事、終わった?」
「ふぇ!?」
び、びっくりした……。
突然後ろから声をかけないでほしい。
と、いうか、
なぜこんなにタイミングがいいのか?
なぜ今まで気付けなかったのか?
……あ、あれ?
この人、誰?
え、知らないんだけど。
「あ、あの、私たち、知り合いでございましたか?」
恐る恐る振り返りながら尋ねる。
「んーん?知り合いじゃないよ。今知り合ったかな。」
「えっと、どちらさまでございますか?」
うんうん、名乗ってね。
自分から名乗るのが礼儀?
知るか、あやしい人に名乗るわけないじゃないの!
「ああ、これは失礼。わたくし――――僕は、サト。」
サト、ねぇ?
フルネームじゃないな。
略称? 愛称?
身なりからしても、雰囲気からしても、たぶん貴族だと思う。
なんか、オーラが一般人じゃないんだよね。
「私は、エレナと申します。」
一応、無礼があって処刑とか困るから礼をしておく。
あ、お辞儀じゃないよ。
淑女の礼、カーテシー。
貴族出身な母に教えて頂きました。
これ、長い間やってると足がプルプルしてくる。
社交界とか関係ないところに生まれてよかった、ってこれやってあらためて思ったよ。
「おや、かしこまらなくて大丈夫だよ?わた――――僕は、そんな身分じゃないからね~。」
う、そ、だ!
まあ、お忍びなんですかね?
「そうでしたか。高貴なお生まれなのかと思ってしまいましたわ。」
一応、これまた母直伝の貴族子女の話し方を使って話すことにはしたが。
「そうかい?」
「ええ、身にまとうそのオーラ、一般人には出せませんわ。」
「お世辞はいいよ。」
あら?お世辞じゃありませんことよ?
だって、なんか、わかるんだよ。
貴族とか見たことないけど、こんな感じなんだろうなあ、って思うよ。
「サト様は、なぜこのようなところに?」
「実は、護衛――――――あー、仲間とはぐれてしまってね。もし野宿するのであればご一緒願えないだろうか。」
護衛って言ってますよ?
もう、お貴族様確定でございますね。
はぐれたのか、撒いてきたのかわからないけど、どうするかね。
知らない人をあの馬車に入れるのは嫌なんだよね。
しかも、お貴族様でしょ?
面倒くさいこと舞い込んできちゃった、ってことになりそうな予感。
「え、ええっと、ですね。しばらくお待ちいただいてもよろしいでしょうか?共に旅をしているものと相談させていただきたく思います。」
「あ、そうだよね。えっと、お母さんとか、お父さんとか?」
「いえ、友人でございます。勘違いなされているかもしれませんが、私は10歳でございます。」
「おっと、これはすまない。しかし、お忍びにしても護衛をつけていないのかい?令嬢二人では旅の道は危険だろう?」
「令嬢ではございません、ただの小娘です。そして、共に旅をしている方は、おとこのこですので。また、こう見えて、私も自衛できる程度には強いので。」
サトはおもった。
嘘だろう、と。
こんな豪華な馬車、貴族でも子爵、もしくは伯爵くらいからしか手に入れられないだろう。
きれいなカーテシーと言葉づかい、貴族の令嬢のようではないか。
身なりもきれいだし、派手ではないものの、貴族のお忍びで使うくらいの服ではある。
何より、可愛い。
7歳くらいかとは思ったが。
7歳ならお披露目もまだだし、知られていないのも当たり前。
10歳でも、お披露目パーティーがまだの場合もある。
そして、こんなはかない見た目の令嬢が自衛できるくらいには強いとは、さすがにないだろう。
しかし、お忍びなのならばあまりにつっこむのもかわいそうか、そう思って追求しなかったまでである。
「相談してきてもよろしいでしょうか?」
「ああ。」
さて、ライアン君になんて言うかな……。
高位の貴族っぽい子が一緒に泊めてって言ってるんだけど、断った方がいいよね?
とか?
んー、どうしよ。
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