36:旅の始まりです!
「準備は終わってんの?」
「私は、全部マジックバックに入っているから。」
「あー、そっか。」
「でも、ハクが帰ってこないんだよね……。」
そう、2年前のあの日、ハクが眠っているのを最後に、一度も見ていない。
「オオカミだっけ?」
「そうだよ。」
「迷子なんじゃねーの?」
「んー、それはないんじゃないかな?ハクが、契約した人の居場所は何となく感じられる、って言っていたの。」
「へー、ならあんしんだな。そのうち帰ってくるんじゃない?……ん?ハクが言ってたの?」
「? そうだよ?どうかした?」
「いやいや、おかしいから。なんで魔獣がしゃべってんのさ。」
「?? 契約したら念話できるようになるんだって、ハクが言ってたよ?」
「普通はそんなことできないから。契約したらなんとなく感情が伝わってくることもあるけど、それも珍しいんだからね?」
「そうなの!?」
「あんまり外で言うなよ?」
「う、うん。気を付ける。」
まさかふつうは会話できないなんて……。
あれ、でも、だったらなんでハクは会話できてるの?
ハク、普通のオオカミさんじゃないの?
まあ、確かに強かったし特別なのかも。
突然変異、みたいな?
この日はそれぞれ早めに寝て、翌日朝早くに出発することにした。
ライアン君と別れた後、私は武器屋に行ってみた。
その理由は、接近戦で戦えるようにするためである。
魔法はしっかりイメージすることが必要だし、近距離では向いていない。
そこで、何かあった時のために剣とか、何か使えたらいいかも、と思ったのだ。
武器屋さんはギルドの近くにある。
小さいところだが、初心者なので問題ないだろう。
”武器屋、ガーランド”
店の中に入ると、剣を中心にいろいろなものが売っていた。
メインで使わないなら、短剣とかがいいのかな?
店内を見渡していると、店主だろうか、体格の良いおじさんが出てきた。
「いらっしゃい。お使いか?」
「いえ、今日は私の使う武器を探しに来ました。」
「嬢ちゃんが使うのか?……やめておけ。」
「なぜですか?身を守るために、私も一つくらい必要だと思うのです。」
「こども、それも女がここの武器を扱えるとはおもえねぇ。せいぜいあとこんくらいはデカくならなきゃな。」
そういって、手を20センチくらい広げる。
「私も、練習すれば、できると思うのですが?」
「ああ、できるだろうよ、戦いごっこならな。相手が魔物だか人だかわかんねーが、型ができたとしても、今のお嬢ちゃんは、簡単に吹き飛ばされるだろうよ。」
「で、ですが……。」
「うちの武器使ってその日のうちに死んだ、とかシャレになんねーんだ。悪いがうちでは嬢ちゃんには売れないよ。」
「……。そうですか、ありがとうございました。」
「また大きくなったら来るといい。」
武器屋の人が意地悪しているわけじゃないのは分かる。
わたしが逆の立場だったらやっぱり断ると思うから。
何も知らない人にとっては、私は小さな子供なのだ。7歳くらいに見えるから……。
それに、あそこには大人用しかなかったから、もし買ったとしても確かに使えなかったかもしれない。
子供用のとかないかな?
王都とかだったらありそうだよね。たぶん、大きいお店があると思うから私が使えるものもあると思う。
サッバネレントに行く間にいくつかの国を通るから、どこかの王都によっていこう。
武器を得ることはできなかったが、旅の予定が一つできた。
あ、武器もつくっちゃえば?って思った人がいたら、大間違い!
あの魔法は、構造をしっかり理解していないと使えない。
私は、地球のものだったらわかるけど、この世界のは分からない。
この世界は、魔獣とかいるから、同じつくりでいいのかわからないし、作る工程とかは、鍛冶屋のところで企業秘密としてしっかり守られながら伝えていっているため、武器とかには無関係だった私には知ることは不可能だった。
それと、武器は結構複雑で、数ミリの違いで使えないものになったりするから、一度実際に創ってみてからじゃないとうまくいかない可能性が高いんだって。
95.7%無理、とソフィアナさんに言われてしまった。
その数字は、私のステータスの器用さを見てのことだった。
……地味にショックだよね。
さて、日付かわって出発の日。
朝6時ごろ宿を出て門についた。
ライアン君は先にいたようで、門番さんと話していた。
「おはよう。」
「おー、きたか。」
「門番さんと知り合いなの?」
「いや?あー、まあ、今知り合いになったとこ?」
なんと!仲よさそうに見えたのに、今知り合っただと!
ライアン君、すごい。
「じゃあ、二人とも、気を付けるんだよ。この辺りの道は魔物が少ないが、しばらく先にいると魔物が多いところもある。お金があるなら、次の町から護衛の冒険者を雇うことをお薦めするよ。」
「わかった。ありがとう。行ってくる。」
「行ってきます。」
門番さんに挨拶をして門をくぐった。
「馬車は、少し歩いて、門番さんから見えなくなったら出そう。」
「ああ、それがいいな。」
幸い、門から出てすぐにカーブがあったので、死角になるところを探し、マジックバックから昨日つくった馬車と馬のゴーレムを取出した。
「やっぱ、改めて見てもすごいな。」
「特訓の成果だよ。役立ってよかった!」
うん、本当にそう思う。
あの特訓で生活レベルの向上が図れたよ。
すべてのものとられても大丈夫かも。
強くなっても、便利だしメリットもあってよかった。
馬のゴーレムは、まだ魔力を流していないので、動かない。
体に手を当て、魔力を流す。
2分ほどで魔力満タンになったようだ。
馬のゴーレムと馬車をつなぐ。
ゴーレムだから、魔力登録をした人と、作った人、登録車に認められた人の命令に忠実だ。
普通の馬で行くよりはるかに楽な旅ができるだろう。
「じゃあ、乗ろうか。」
馬車に乗りこんで馬のゴーレムに道に沿って進め、と指示を出す。
「なあ、これさ、外からみたら御者台に誰もいないのにしっかり進んでるおかしい馬車じゃね?」
「あ、たしかに。でも、何もしなくていいのにひとりで座ってるのも退屈でしょ?」
「そりゃそうだけどさ……。」
「自動走行の馬車に二人で乗ったら御者がいない、そんなときに活躍するのがこれ!青ボタン!」
「急に何?」
「ふっふっふ。このボタンの正体、気にならない?」
「あ、ああ、気になるけど、なんか、テンション?がおかしい気がするんだけど?」
「気になるのですね!そこまでいうのなら、お見せしましょう!」
「いや、そこまっでって、いやなんて言うか、まあ、ああ、えっと、……。」
「スイッチ―――――、オン!」
ボタンを押すと馬車の屋根と、馬側の壁が開いて、外が見えるようになった。
そのまま前の椅子が回転。
壁の代わりに透明な膜のようなもので全体がおおわれる。
御者台部分は、馬車の下に折りたたまれて収納。
「これで、どう!?」
「……。」
「あ、あれ?ダメ?」
「あ、いや、ダメじゃない、と思う。なんか、すごい。こんな馬車見たことない。」
「でしょ!この馬車だけで生活できる機能が満載なの!快適な旅ができるよ!」
「お、おお。」
「さらに!結界がついていて、解除しない限り、魔物が来てもはじかれます!」
「え!?」
「そして!この体形1では屋根と壁がないかわりに、防水防風防音機能の付いた、透明フィルターがついているのです!」
「……。」
「体形は、10種類あって、それぞれ特徴があるので、どんなシーンでもこれ1台!一家に一台エレナ特製馬車を!」
「……。」
「はっ!すみません。ついつい盛り上がってしまいました。」
「……。あ、いや、大丈夫だ。この馬車、すごいな。」
「そうでしょ!」
「なあ、今思ったんだけど、ボタン、3つしかないよね?」
「ああ、それはですね……。黄色ボタン、スイッチ―――――、オン!」
「え?また!?」
向かい合っているイスの間のスペースの床から、小さなテーブルのようなものが出てきた。
テーブルの天板部分を開けると、5×5に並んだボタンがある。
それぞれ1-1~5-5までの番号が振られており、ボタンが並んでいるところの横の隙間には、小さな冊子が入っている。
「こ、これは?」
「これは、ですね……、詳しくはこの冊子をお読みください!」
「は!?説明してくれねーの!?」
「私が話し始めると終わるころには日が暮れてしまう気がするのです。これらは、本当に便利なのですよ!例えば、これ、3-4は、」
「わ、わかった、読むよ。日が暮れるまでこのまま話されるのはなんというか、ね。」
「そうですか。少し残念ですが、どうぞ。」
「……これ、よめねーんだけど。」
「え?そんなことあります?」
「よめねーっていうか、白紙?」
「え??――――ちょっとかして?」
「ん。」
「……ちゃんと書いてあるけど?白紙には見えないよ?むしろ、文字ばっかり。」
「いや、書いてないけど。」
「?おっかしいなー。私には見えるのにライアン君には見えないの?そんなことあるかな?」
「んー、お前が作ったから、作った人にだけ見えるようになっているとか?」
「そうなのかな?」
「わかんないけど。まあ、機能は使う時に説明してくれればいいから。」
「わかった。」
改良が必要かな?
ふー、しかし危なかった。
ついつい説明したくなっちゃうんだよね、自分で、発明したり、改良したり、発見したりしたことって。
昔からの悪い癖……。
まあ、研究者としては悪くないけど、一般人としては付き合う人が疲れちゃうよね。
そうしている間にも馬車は進んでいく。
とても速い速さで。
話が盛り上がったのと、防風なのとでどちらも気づいてはいなかったが、途中に抜かした馬車の御者は、驚いて二度見して、そのままぼけーっと後姿を見ていたら、事故を起こしてくびになったとかならなかったとか。
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