35:馬車を用意しよう!
馬車を見に行ってわかったことがあった。
――――――――馬車、めちゃくちゃ高い。
二人の手持ち金では、旅の最初の1週間の生活を考えると、一番格の低い、乗り心地の悪い1か月レンタル馬車が限界だったのだ。
アリフォニア王国の港町まで順調にいけば6週間ちょっとかかる。
しかし、それはある程度のスピードが出る馬車での話だと思う。
馬車は、同じ大陸内でならどこの馬車場でも返すことができる。だから、馬車を借りて、船に乗る前に無くしてしまおうと考えていたのだ。
今からお金を稼ぐとすると、5日ぐらい出発が延びるだろう。
わたしは構わないけれど、長い移動時間になるため、早く出発したい、とライアン君は言っている。
5日くらいたいして変わらないと思うのだけれど……。
一度精霊界に行って、ソフィアナさんにサッバネレントへ転移させてもらえば一瞬では……、というずるい考えも浮かんだが、さすがにダメだろう。
というか、ソフィアナさんが便利屋のようになってしまう。それは嫌だ。
……それなら、馬車がないのであれば作ればいいのかもしれない。
「馬車、私が作ってみようか?」
馬車の構造は、覚えている。
ソフィアナさんの特訓でマスターした魔法があれば、馬車をつくるくらいならできるかもしれない。
「は?お、おまえがつくるの?えっと、工作レベルの話じゃないんだぞ?」
「馬車くらいなら何とかなるかもしれないの。」
「馬車くらいなら、って……。それ、どのくらい時間かかる?」
「んー、やってみないと何とも言えないけど、1時間くらいあれば乗れるようにはなると思うよ?」
「1時間!?……おれんちの庭でいいか?場所。」
「うん、ありがとう。」
ライアンは、もはや突っ込むことがばからしくなっていた。
エレナって、何でもできるんじゃね?もう、エレナだから何でもアリじゃね?みたいな心境である。
さて、ライアン君の家、ホイット商会の庭にやってきた。
商会の庭とはいっても、ライアン君の家族くらいしか来ないところだという。
しかも、今はお昼過ぎくらいなので、買い物客の対応に行って、庭なんて気にする人がいない、というので遠慮なく使わせてもらうことにした。
ソフィアナさんの魔法特訓で行ったのは、だいたい4つだ。
①リーベを使いこなせるようになること
②魔力量を増やすこと。
③使う場面のありそうな魔法を覚えること
④精霊語を覚え、本家の詠唱を使えるようになること
リーベも本家の詠唱と呼ばれた精霊語での詠唱も、複雑な魔法を扱うことを可能にし、また、魔素への影響力を強め、より強い魔法になる。魔素は精霊の声や波動に反応が良いらしく、リーベや精霊語がよいのはそのためである。
他にもいろいろ効果はあるらしいのだが、詳しく話すと長いから、感覚でつかめ、というソフィアナさんの指導方法により、詳しくはよくわかっていない。
さらに、特訓でこの世のすべては教えられないし、あなたの限界まで高めることは無理だから、ある程度基礎を教えたらあとは世界で”使える魔法”を身につけてこい、というソフィアナさんの指導方針により、精霊としては不十分なようである。
いや、人間だからいいと思うんだけどね?
で、今回馬車づくりには、この詠唱を使う。
そもそも材料もないため、自分で原子とかのレベルから作っていく必要がある。
と、いうわけで!
「”ルーティセラリーエ プラフォーシャソルシオン ・ ファラサー ソーラマイヤ ジュ ヌスィーニャーナ メイソラレー アンシュエール ライヤー テイア シューヴェリーゼ ソルシオン シュピラン チュチュバエル ”」
私の周りに何色にも輝く光と、紫色に光る魔法陣が現れ、そこだけ異世界のように幻想的かつ神秘的な空間が生まれる。
そして、半透明の直方体が目の前に浮かぶ。
「”ソルシオン シェルーマ ヒラヴァイラ ジュ アンシュエール セルチラー ”」
浮かんでいる半透明のそれが、ぐにゃりとゆがんだかと思うと、少しずつ馬車のフォルムに近づいていく。
「”ライヤー チョジャレインド フォンシェルーマ ジュ フォラガイト キョジュヴォンレ ・ エントシジオーネ”」
魔法陣から霧のようなものが出、馬車の形づくられたそれに向かっていく。
そして、詠唱の終了とともに、何事もなかったかのように、すっと光が消える。
残ったのは、まごうことなき馬車である。
半透明だったそれには、着色、装飾が施され、質感も頼りない水のようなものから、金属のように変わっている。
「……す、すげー……。」
光の消えたところを見つめたまま、ライアンはつぶやく。
ここまで大規模な、そしてきれいな魔法を見たことがなかったのだ。
なかなか感動がさめない。
シーンと静まりかえった庭に、安いですよー、という声が店の方から聞こえてきた。
「馬車の本体はこれでいいかな?」
「あ、ああ。十分すぎるくらいだ。これ、馬車場のトップクラスのやつには匹敵するぜ?」
「よかった!実際に実用するものを課題以外で作ったの、初めてだったから少し、心配していたの。」
この魔法、いや、魔術は、すごいものだが、欠点がある。
創造するものの構造がはっきり理解できていなければならないのだ。
仮にこれが使えたとしても、構造がはっきり思い浮かべられなければ、詠唱終了前に消滅してしまう。
わたしは、馬車の構造も、作られている物質の化学式も、すべてはっきり思い浮かべられたために、ここまでちゃんとしたものができたのだ。
図書館1個分の知識量は今世でも大いに役立っている。
これが、魔法、じゃなくて、魔術、というのは、古代のものだからだ。
魔法は、昔、魔術と言われ、今よりも効率的で実用的に使われていたという。
魔術、と今も精霊が呼ぶものは、魔法よりも神聖視されている、特別なものだけだ。
「馬車本体は、これでいいとして、馬車をひくものが必要なのと、中の空間を快適にしないといけないの。これもつくっちゃう?」
「え、っと、つくれるものなの?」
「本物の生き物じゃないけどね。」
「??」
「一回やってみるから、みて判断して。」
さっきと同じように詠唱する。
そうしてできたのは、本物そっくりの馬のゴーレムだ。
本来ゴーレムは失われた古代技術とされているのだが、そんなことは知らないエレナは、機械、ロボットをつくる要領で作ってしまったのである。
体の仕組みなんかもわかっているため、動きもスムーズ。
魔力で動くので、食費もかからない。
「……す、すげー……。」
「これだったら、安定して進めるし、馬のコンディションとかに関係ないから楽だと思うよ。それに、生きていないから馬車と一緒にマジックバックに入れて持っていけるし。」
「マジックバックの容量、大丈夫なのか?」
「へ?容量?」
「知らねーの?マジックバックにだってしまえる限度があるに決まってるだろ?手を入れてしばらくそのままにしておけばわかるって、誰か言ってたぜ?ためしてみれば?」
「うん。―――――――あ、えっと、町2個分、だって。」
「へえ、それなら馬車も大丈夫だな……って、町2個分!?」
うん、ふつうどのくらいかわからないけど、さすがに大きいと思うよ、私も。
何そんなに入れるの?って感じだよね。
「ま、まあ、とにかく大丈夫でしょう?」
「あ、ああ、そう、だな。」
「で、でね、中なんだけど、開けてみて。」
「―――――――――おお!いいじゃん!2人だからまあまあ広々できるな。イスもおれの知ってるやつの何倍も座りやすい!」
「それで、対面してるイスの、御者側の席の右横の真ん中に小さく正方形に線が入っているでしょう?」
「ん?――――あ、あった。」
「そこ、開くから開けてみて。」
「開けたけど、これ、何?」
そこにあるのは、赤、青、黄色の3つのボタンだ。
「快適に過ごすための機能だよ。押せばわかるけど、お楽しみにとっておこう!」
そういって、私はマジックバックにひょい、と馬車を吸い込ませた。
「は!?そこまで見せといて、機能は見れないの!?」
「お楽しみ、だよ!」
馬ゴーレムも中に入れておく。
まだ魔力を流していないため、動いてはいないが、詠唱終了までに消えなかった時点で想像した通りのものはできているため、調べなくとも大丈夫だろう。
こうして、ほとんど準備が整った。
今日の精霊語詠唱 解説
<単語>
魔法
マジーアソルシオン
魔術
プラフォーシャソルシオン
粒子、分子(魔素)
ソルシオン
精霊
ソーラマイヤ
空間
テイア
エネルギー、パワー、力
アンシュエール
創造
メイソラーレ
集まる
シュピラン
本当の、真実
フォン
私
ジュ
展開
ライヤー
手
セルチラー
お願い、~してください
ファラサー
出力、入力、詠唱の始まり
ルーティセラリーエ
決定、詠唱の終り
エントシジオーネ
与える
ヌスィーニャ
形、形状、姿
シェルーマ
変化
ヒラヴァイラ
望み
キョジュヴォンレ
大きく、広がる、
チョジャレインド
考え、思う、~のままに
フォラガイト
<詠唱構成>
呪文の始まりを表す、ルーティセラリーエ の後、魔術であることを示す、プラフォーシャソルシオンを唱えることで、魔術の発動の準備が行われる。これらは、「今から魔術を使います。」という宣言のようなものだ。
次に、力をつかさどる存在に呼び掛ける。ファラサー、はお願いを表すので、命令にならず、丁寧になる。命令にする場合は、動詞の末尾に”ナ(もしくは、ナー、-ナ)”をつける。例えば、シュピラン、で集まる、シュピランナで集まれ。
並びは、英語に似ているが、実際には細かい決まりはない。一つ一つの言葉に意味があり、力が宿っているためである。
詠唱の最後に、エントシジオーネ とつけ、終わりを宣言する。
<詠唱中の様子>
詠唱初同時に光が現れ、また空気の流れができるのは、詠唱の言葉により空気中の魔素が反応し、秘めている力を解放するため。
魔法陣は、術者の思考、今回の場合、馬車の構造を読み取り、正確に実物化するために現れる。償還魔術などでは、異界につながっている場合もある。空間、時間などの隔たりをなくし、つなげるためにに使われる
詠唱中は、術者の魔力量、レベルに応じた簡易バリアも展開される。
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解説コーナーは、精霊語、詠唱の登場次第つくっていきます。
ちなみに、エレナは、詠唱を必要とするものは戦う時などには不便という理由で、こういう落ち着いた時にしか使いません。
評価・ブクマ、ありがとうございます!!




