27:逃走と出会い
ソフィアナさんが転移させてくれたのは、私が精霊界に行く前にいた町だった。
ソフィアナさんがわざわざそこに転移座標を合わせてくれていたのだ。
実は私、エレナは2年過ごしたと感じていなかったように、2年前と容姿がまるで変わっていない。
身長125センチメートル、髪は、明るい銀髪のような色で胸の下あたりまで伸びている。他が変わっていないように顔ももちろん変わっていない。両目とも黄色っぽい黄緑で、母親譲りのまつ毛の長い二重のぱっちりおめめだ。
全体的にもともと色素は薄いのだけど、あんなに日の当たる荒野で特訓していたのに日焼けする気配も見られない。
自分では、少し不気味だな、と思う。
容姿が変わっていないと気付いて不思議に感じたのはソフィアナさんから2年たったと聞かされた時なので、不思議ではあっても違和感はない。
ただ、知り合いと会った時に何か言われそうだなぁ、とは思う。
門で並び、順番を待つ。
7分くらいで私の番が回ってきた。
冒険者カードはもう使えないと思うので、身分証はない、と言って入場料を支払う。
銀貨1枚だった。
前に依頼を受けた時の報酬は残っているので問題はない。
ちなみに、身分証があると半額になる。
2年では町の様子が変わったことはとくにはないようだが、少し人が多いようにも見える。
商店街横の広場では、何やら大きい作業台が並べられていたりするし、スパイスの類が売買される様子を目にすることが多い。そして、決まってその人たちはうかれ、さらに闘志を燃やしている。
そんな不思議な街の様子を横目にギルドの方へ歩いていく。
その時だった。
――――私、誰かにつけられてる?
さっきからずっと同じ距離を誰かが歩いている。
それだけなら問題ない。
しかし、その人は私が早足になれば早足になるし、ゆっくりにしたらゆっくりになる。
ソフィアナさんの特訓で、私の気配探知は高性能になっている。
だからわかったのだ。
ギルドに行くためには、門からだと一度人通りの少ない道を通ることになる。
何が目的なのかはわからないけれど、いやな予感しかしない。
あと少しでその道だ。
走る?
でも、相手は大人の人っぽいから追いつかれちゃうかな。
私、HPが全然増えてくれなかったせいですぐばてちゃうし……。
あ、光化学迷彩を使えば!
よし、
こうかがくめ―――――――――――
魔法を使おうとした瞬間、後ろの気配が急に走り出した。
もともとそこまで離れていなかったため、すぐにどんどん差が縮まっていく。
気配探知で過剰に気配を感じていたからか、恐怖も倍増だ。
姿を消す前に思わず走り出してしまった。
夢中で走っているのだけれど、私は足が速いわけじゃないのに、相手は足がめちゃくちゃ速い。
もうあと10mくらい走ったら追いつかれているに違いない。
ど、どうしよう!
魔法は、落ち着いてイメージしたり、魔力を操作したりしないといけないために走りながらでは扱うのが難しい。
あ、まがりかどがある!
細い路地に入る道を見つけた。
この町は裏路地が複雑に入り組んでる、と前に誰かが言っていた。
もしかしたら撒けるかもしれない。
スピードを最大限に上げて路地に飛び込む。
ここの道に入ったことがないから道には迷いそうだけど、そんなことは気にしていられない。
くねくねと曲がり角をまがっていく。
曲がり角のおかげでさっきよりほんの少し離れることができたけれど、まだまだ近い。
――――――――――やば、体力が……
「おい、大丈夫か?」
「だ、じょぶ、じゃ、な、い。」
こんなところに人がいるとは思わなかった。
12,3歳くらいの男の子。
だれかわかんないけど、逃げた方がいいよー、と言いたかったのだが体力の限界が来てしまった。
つかまちゃう……
「逃げてんの?よくわからないけど、逃げ切りたいんだな?」
そういうが早いか、男の子は私を担ぎ上げて走り出した。
「ふぇ?」
思わず間抜けな声がこぼれてしまったのは仕方ないと思う。
男の子は、異常に足が速かった。
そう、追いかけてくる人なんて目じゃないくらいに。
わたしのこともかついでいるというのに。
目を丸くしているうちに、あっという間に追っては引き離されていく。
気配探知で追手の勢いがなくなったことがわかった。
さすがに800m引き離されても追いかけるようなことはしないらしい。
「あの、ありがとうございます!」
「ん?べつに、たまたま同じ方向に進んでたからついで。もう走らなくて平気?」
「はい、もう追いかけることをやめたみたいです。」
「そっか、よかったな。」
「本当にありがとうございます。」
「おれは、ライアン・カイル・ホイット。なまえは?」
「あ、えっと、エレナです。」
苗字がある、ってことはどこかの商会か貴族の子なのか。
ミドルネームまであるなんて―――――――――
……ん?
ああぁぁぁ!
この世界では10歳になったらミドルネームをつけるのが一般的なんだっけ!?
わたし、自分で考えなきゃいけないんだ。
どうしようかなぁ。
「あのさ、この町に住んでるの?」
「え?あ、ううん、違います。今日、というかさっき来たばかりです。前にも一度来たことはありますが。」
「そっか。あ、敬語じゃなくていいんだけど?」
考え事しないようにしなきゃ。
ホイットさんいるの忘れてた……。
敬語、いいのかな?
どこかのいい家の子とかだったら失礼になるんじゃ?
まあ、いいって言ってるんだからいいのかな?
けど、敬語以外で話す機会がこっちの世界に生まれてからあんまりなかったから、なんだか敬語が口から出てしまう。
前世でもそんなに誰かと気軽に話してないしなぁ……。
「あの、ここ、どこです?」
そう、さっきから気になっていたのだけど、ここ、どこ?
走るのやめてからも歩き続けてるし―――――――――――
って、まだかつがれてる!?
すっかり忘れてったっていうか、慣れてしまった、っていうか……。
「お、おろしてくださいっ!」
「ん?あぁ、そっか。」
ホイットさんも忘れてたのか……。
気づきそうだけどなぁ。
もしかして、疲れてると思ってずっとかついでくれてたのかな?
「ここは、俺の家の方に向かう道、だな。」
「私、冒険者ギルドに行こうとしていたんですけど、どっちに向かえばつくんですか?」
「ええぇ!?冒険者ギルドに行くの!?」
「はい、そうですけど……?」
「一人で行くの?誰かを迎えに行くの?」
「いいえ?あー、一人で行きますけど、誰かに会う予定はないですよ?」
「登録しに行くってこと?」
「半分正解です。」
「はんぶん?」
「前に登録してたんですけど、ちょっとした事情で2年ほど依頼が受けられなくなってしまって、再発行する必要があるんです。」
「2年前にとうろくしてたの!?」
「はい、そうですよ?」
「え、えっと、失礼かもしれないけど、今、何歳?」
「私は、9歳で、あと3か月で10歳です。」
「お、同い年だったのか……。」
「?」
「おれも10歳なんだ。」
「えぇ!?もっと年上かと思ってました。13歳くらいかなぁ、と。」
「そうか?あんま、年上にみられたことないけど。」
「そうなんですか?ホイットさんは、私のこと、何歳くらいに思ってました?」
「んー、7歳くらい?てか、ホイットさん、ってなんだよ。初めてそんな風に呼ばれたわ。」
「ではなんとお呼びすればよかったのです?」
「ふつーに、ライアンでいいよ。あとさ、同い年だったんだからいいかげん敬語やめろって。」
「で、でも、ライアン君はいいところの子ではないのですか?」
「おれが?そんなんじゃないよ。ホイット商会の3男だ。姉貴もいるから5人兄弟の末っ子だけど。」
「ホイット商会?」
「ん?知らねーの?そこそこ有名だとは思ってたんだけど。」
「そ、そのあまり外に出る機会がなかったもので……。」
「おまえのほうがいいとこの子じゃないのか?」
「いいえ、まったくそんな!」
「そ、そうか。あ、なら、来てみる?」
「??」
「おれんちは、ホイット商会本店の上だからさ、店、見に来いよ。――――――あー、でも冒険者ギルド行くんだっけ?」
「ギルドは明日でも大丈夫です。あの、行ってもいいですか?」
「もちろんだ。」
商会は、自分のとこ――――ディベメント商会――――しか知らないから、ほかのところがどんなふうなのかは気になる。
お金は何日分かはあるし、ギルドはまあ明日でもいいけど、案内付きでお店を見るなんてことは今日しかできない!
「じゃ、いこーぜ。」
「あ、お前おせーから――――――」
そういうと、ヒョイ、っとまたかつがれた。
「ええぇ!?なんで!?」
「だから、お前おせーの。さっさとついた方が長くみられるだろ?」
ふんぬー……
ちっちゃいからか、ちっちゃいからおそいのか!?
成長、2年分の成長、ど・こ・いっ・たーーーー!
今まで成長してない、とわかっても全く気にしてなかったけど、やっぱり2年分の成長は大事だったよ。
かつがれていくのはなんか恥ずかしいー!
10歳、って、男女の身長差少ないときじゃなかったの!?
これじゃ、6歳差くらいには見えるよぉ……。
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