薬草地獄
目を覚ますと、視界一杯に雲一つ無い青空が広がっていた。すぐさま体を起こすと辺り一面草原が広がり、視界の奥には、大きな円状の砦みたいなのが建っている。
本当に異世界に転生したんだ。と思わず呟いてしまう。凄く、胸の鼓動がドクドク速くなる。口元もにやけてしまう。今僕は、興奮とワクワクで一杯なんだ。
取り敢えず、視界に映ったあの砦を目指そう。そう思い、足を踏み入れた瞬間……。
「きゃあああああああ!!!誰か!!助けて!!!!」
後ろの森から、悲鳴と共に女の子と巨大なイノシシみたいな怪物が飛び出してきた。
咄嗟の事で思わず僕も悲鳴を上げてしまった。
その声に気づいたのか、女の子が此方に気づいた。
「すみませ――ん!!助けてくださ――い!!!」
突然、軌道を変えてこっちに向かって走って来た。いきなりこっちに来たら……。
「グルオオオオ!!!」
イノシシもこっちに向かって走って来るでしょ!!
走って来る彼女とは反対の方向に僕は走り出した。
「何で一緒に逃げるんですか―――!!?」
「無理無理無理無理無理無理、行き成り過ぎて何もしてあげられないよ!!!」
「じゃ――、この剣を――――、使ってみてください――――!!」
そういうと彼女、自分の懐の鞘に納めた何かを僕に向けて勢い良く投げた。
投げた鞘は僕の脳天に、見事にクリーンヒットし、そのまま体制を崩した。
今の所為で、かなり間合いを詰められた。もう逃げられない。
「クソ―――――!!」
こうなったらやるしかない。鞘から剣を引き抜き、イノシシに向かって走り出した。
「グルオオオ!!!」
「うおおおお!!」
そのまま剣を相手の鼻に刺す。
「グルオオオオ!!!」
突然の痛みにイノシシが暴れだす。
そしてイノシシの巨大な体が僕にタックルを噛ました。
「ぐふ!?」
そのまま大きく吹っ飛ばされ、草むらに大きく転げ落ちた。
「大丈夫ですか!?」
助けを求めていた女の子が、僕の方に歩み寄る。
「君こそ……怪我は……無い?」
「はい。すみません。今治しますから。」
治す?
もしかして、魔法で治してくれるのかな?
流石ファンタジーの世界。やっぱり魔法なんだなぁ。
「さぁ、食べてください。」
何やら草を僕に差し出してきた。それも十枚くらい。
「何それ?」
「薬草です。」
「魔法は?」
「私、魔法はからっきしで……。」
えええええええええええええええええええ。あんなイノシシ挑んで魔法使えないの!?
と心の中で叫んでしまった。まだ心の中でよかったぁ。思わず口に出してしまうところだった。
「さぁ速く。」
「ちょっと待……もご!?」
にげ―――――――――!!??
あ、でも何か少しずつ痛みが引いていく。
「ちゃんと全部飲んで下さい。じゃないと効果が完璧には出ないので。」
仕方ない。ここは無理してでも飲み込もう。
ゴックン。
飲み終えると完全に痛みが無くなった。
手足も動ける。
「死ぬかと思った。二重の意味で……。」
「すみません。本当に魔法は今使えなくて。」
彼女は頭を深く下げた。
「大丈夫だから、顔を上げて。」
「はい。」
「それより君は、あそこの砦の中の人?」
「そうですけど。貴方は?」
「あー、今はちょっと、暮らせる街を探している感じかな?」
「それなら、私の家へ来て下さい。」
「いいの?」
「はい。それに助けていただいてまだお礼もしてないし。良かったらですけど。」
「僕は、大丈夫だよ。」
「じゃあ是非!」
彼女は立ち上がり、僕の手を強く引き、一緒に走り出した。
「あのイノシシは?」
「痛みで藻搔いてるから、今なら逃げられると思います。」
こうして僕は、彼女の住む町に向かった。