おはようございました
頭が痛い
後頭部が重い。ずっしりとした鈍器が頭になったようだ。
何を言っているんだろう。
人間の頭部は、思っているよりも重いらしく
支えている首には負担がかかるらしい。
ジンジンと頭蓋骨が締め付けられている。
そう、僕のあたまだ。
だんだんと、意識が戻ってきた。
息苦しい。吐き気がする。
真っ暗だ。密度の濃い、吸い込みづらい空気。もったりしている。息が重い。
生暖かい。
胸焼けがしている。
霞んだ目が少しずつナニカのかたちを捉え始める。
とげとげの、白っぽい繊維。
いや、ちがう、
「うさぎ、、、?」
俺うさぎ飼ってたっけ?
そっと手を伸ばすと
ふわふわで暖かい。
いや、うさぎにしては硬い。
しっかりと骨がある。一枚板、球状の、、、。
「え?」
やたらとすべすべの肌触りに慌てて手を引っ込める。
これはなんだ?
ハダカデバネズミか?
いや、一部がふわふわのハダカデバネズミ?
そんなハダカデバネズミいるか?
視界いっぱいに広がる波打つシーツから
ふわふわの毛をのぞかせるハダカデバネズミ。
うちのベッドこんなに大きかったっけ。
寝起きの頭で考える。
いや、そんなわけあるか。
ここはどこだ?
見慣れない低い天井。
僕の部屋の天井は3メートルくらいあるので全く違う。
そもそも僕の部屋は窓も大きいし遮光カーテンがないから、こんなに暗くなるはずがない。
え、拉致監禁てやつ?
謎の特殊ハダカデバネズミと人体実験させられるところ?
これからここで死ぬまで痛めつけられる?
僕の毛という毛がハダカデバネズミに移植される?
もうされている最中?
早く死にたいとよく考えるけど、
痛めつけられてさらに強烈に死にたくなるのはふつうに嫌すぎる。
あ、でも僕なぜか全裸だから
やっぱり人体実験か。
「おはようございましたー」
「え」
「え」
「え」
AI?ボーカロイドみたいな白っぽい人が挨拶をしてきた。
僕、知らないあいだに起動スイッチ押した?
「ここどこ」
「いや、それな」
いつも慎重な僕がついサラッとツッコミを入れてしまった。
いや、待て、この斬新な感覚、デジャヴ、、、。
その瞬間ぼくの頭に走馬灯のように昨日の記憶がフラッシュバックした。
「うわっ、」
恥ずかしさに思わず頭を抱えた。
「ラブホじゃん、ごめんぼんちゃん」
あまりのショックに二日酔いも忘れ、半分顔を隠したままとなりの元一部ふかふかハダカデバネズミさんに謝罪をした。
「ハダカデバネズミかと思ったら、ぼんちゃんだった、、」
どうしてだろう、
この謎の美しい生き物を前にすると、何故か呼吸をするように失礼なことを言ってしまう。
「ふふ、ハダカデバネズミさんは、、無毛」
天使のようにふわりと笑って、ゆったりした口調で自分との差分を指摘してくれた。
気になるところ、そこだけ?
このくらい美しいと、美醜の差に怒りは湧いてこないのだろうか。
というか、知ってるのかハダカデバネズミ。
「そっか、そういえば泊まった気がしないでもない」
気怠げに力なくぼんちゃんが言う。
明らかに泊まっているからここにいるのだが、
あまりツッコミばかり入れていると会話に支障をきたす気がするのでスルーしよう。
まぁ僕も寝ぼけて状況を把握するのに時間がかかったし、何か言える立場でもない。
「おいで」
考えていることとは脈絡もなく、つい呼んでしまった。
あまりに儚く消えてしまいそうだったから、存在を確かめたかったのかもしれない。
しかし酒の勢いで会ったその日にお持ち帰りしてしまった罪深い軽薄な男に、朝からおいでとか言われても気持ち悪いのではないだろうか。
そもそもどうして僕なんかがこんなに頭がおかしくて綺麗な生き物とお泊まりしてしまったのだろう。
それ以前に人見知りの僕が会ってその日にお泊まりなんて通常であればあり得ないのだが。
そんなことを一瞬で考えている僕の気持ちをよそに、
とくに躊躇った素ぶりもなくぼんはするりと腕の中に入ってくる。
真っ白な見た目とは裏腹に、赤ちゃんのような温かさがある。
ぬくもりより熱い。
抱きしめながら、ふわふわの髪の毛を撫でる。
気持ちいい。
心地よい。
あ、これがしあわせかも。
なんか目頭がじんわりする。
ぼんのあまりに素直な反応に、僕もつられて脳死で対応してしまう。
少しの安堵に隙を見つけて本来の頭痛と吐き気が戻ってくる。
「う、お水飲んでいい? ぼんちゃんもいる?」
小さく震えるぼん。
たぶん頷いたのだろう。
あまりにか弱く、生まれたての小鳥のようなうごめき。
ぼんも二日酔いなのかもしれない。
そう考えてからやっと、
自分のこの異常な体調の悪さが二日酔いのせいだと気づく。
「いや、昨日は死ぬほど呑んだね、まじでほんとに」
どうしてあんなに、こんなになるまで、
バカみたいにバカそのものみたいに
浴びるように浴びながら呑んでしまったのか、、、。
とにかく生命維持のために水をとりにベットから抜け出す僕の背中に、頭痛を掻き消す一言が放たれる。
「ん、、、帰るね」
「え」