天井知らずの
胸を打つときめき。
鼓動が全身を支配しているみたい。
息の仕方さえ忘れた。
顔が熱い気がする。わたし、赤面症だから、恥ずかしい。
意識の中でさえカタコトになってしまう。
どうしよう。
憧れの先輩と会える…!
2人きりじゃないけれど、こんなに少ない人数で会うのは初めてだ。
何を話せば良いんだろう?
脳内でシミュレーションしてみる。
先輩、ほんとかっこいいですよね。
いつも男女問わずみんなに囲まれてて、明るくて元気で人たらしなところ、大好きです!
だめだ。これじゃ告白だ。
いきなりこんなこと言ったら引かれちゃう。私なら引く。え、きもってなる。
シミュレーションが失敗しただけなのに、目の前が真っ暗になる。まるでこの世界が終わったみたい。
一瞬で終わるじゃん。怖。
テンション上がりすぎてどうしたらいいかわかんないよ。
無難な話、無難な話?ぶなんってなんだっけ?
天気、は晴れ…。
晴れてよかったですねー!
ピクニックかよ。室内だわ。
共通の友人、そっか。それだ。
最近美月先輩とお茶しましたよ!メガバン勤めててかっこいいですよね!大変そうですけど、昔から愛想良いし、頭もキレるし美月先輩ならうまくやってけそーですよねー!
あ、先輩って美月先輩と付き合ってたんですかー?
ってそんな話題どうなんだろ。
あーでも恋愛の話すると近づきやすいって言うし、あ、でも最初にこんな話題は振りづらいから、ちょっと酔ってから…
最近あったこと…?趣味?え、お見合い?
あ、え、…ここどこ?
ん?なんか渋谷とか久しぶりに来るし、道とかよくわかんないし、人多いし、先輩のこと考えてテンション上がって店調べるの忘れてたし、え?迷子?
この歳になって、迷子?
やべー。とりあえず幹事に電話しよ。
「あ、もしもしー。着いたー?」
骨を優しく撫でるような低い心地よい声にハッとする。
幹事って先輩じゃん。道に迷ったショックで脊髄反射で電話しちゃったー!
「あ、あの、先輩!?え、と…、お店が見つからなくて…」
「ははは!椿ちゃんらしいねー!」
私らしいって何!?私天然じゃないし方向音痴でもありませんけど? まぁ、先輩が笑ってくれてるから、いっか。
「今、何が見える?」
「えーと、渋谷詳しくなくて、…あ、犬の像と、一緒にハイテンションで記念撮影してる観光客…ですかね」
「え、まだめっちゃ駅前じゃん!じゃ迎えに行くよ!待ってて!」
ラッキー!先輩とふたりっきりになれる!
って待て待て待て。駅前?まだ駅前?あんなに歩いたのになんで?かわいいヒールの可愛くない固さで地味に足がもう痛い…。何なの?都会怖い…。
たくさん歩いて、たくさんエスカレーター登って、出口多すぎて意味わかんないから取り敢えず外に出てみたけど、やっぱりわかんないし。
道路が上の方にあるし、モアイ像みたいのいるし、緑のバスあるし、犬の像はさすがに有名だから知ってたけど…ここって駅前だっけ?
よくわかんないけど先輩が来てくれるならいっか!
今日はなんて良い日なんだろう。
待ち合わせ時間まで、まだあと20分。
はー、わたしって、今日もかんぺき。