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休みの日のチャイムは出たくない人

 

 次の日の朝、俺は暫くは聞くことのなかったはずのスマホが奏でる音に起こされた。


 寝ぼけ眼で枕元に置いてあるスマホを手に取り、いつもの癖で画面をスライドして止めさせる。昨日は家に帰ってすぐに寝てしまったから後でアラームの設定を長期休み用に変えないといけないな。


 とりあえず二度寝をしよう。


 俺は静まったスマホをベッドボードに置き、再びまどろみの世界へ旅立とうとする。


 少しの間現実と夢の狭間を揺蕩う。


 するとそれを阻止するかのように今度はチャイムが鳴った。


 宅急便を頼んだ覚えはないが、一人暮らしをしているため、俺以外にそのチャイムに対応する人はいない。


 仕方なくベッドから降りスリッパを履いてテレビドアホンを確認する。



 天星がいた。



「~~~~っっ!!!?」


 俺は驚き、急激に覚醒した頭で天星がここにいる理由を考えた。


 ……考えたが見当もつかない。


 いや待て本当になんで天星がここにいるんだ?


 諸々考えた結果。まだ寝ぼけているのではないかという一縷の望みに全てを託しベッドに戻ろうか迷ったが、もう一度確認する。


 天星がいた。


 数秒間思考が停止し、それに伴い身体も身動き一つ取らず、ただただモニターに映る天星を見ていた。


 彼女は昨日と同じ困ったような表情を浮かべ、一点を角度を変えながら見つめている。おそらく何の応答もしないインターホンをジッと見ているのだろう。


 流石にこのまま放置というわけにもいかず、何とか身体を動かして俺は緊張で震える手で応答ボタンを押した。


 ピッと静かな部屋に音が響く。そして、震えているだろう声でマイクに向けて話しかけた。


「は、はい。河奈ですけど」

「あっ河奈さん。おはようございます。すみません、お休み中に突然」

「あ、いや大丈夫だが……どうした?」


 我ながら不愛想だと思うが、こんな調子でなければまともに話せる気がしない。

 残念ながら俺はやつのように社交的ではないのだ。モニターに映る彼女を見ながら一人で言い訳をする。


「はい、えっと。昨日駅でお別れした際に生徒手帳を落とされましたよね……? それを届けに来ました。学校ももう暫くお休みですし、身分確認された際に不便かな、と……すみません」


 そういいながらインターホンのカメラに手帳を開き、見せる。そこには確かに俺が写っている証明写真と住所の書かれたページが映っていた。


「はあぁああぁあぁあ…………」

「えっあっ、だ、大丈夫ですか? やっぱりご迷惑でしたよね、すみません。けどこれが一番手早いかな、と……すみません」


 狼狽えながら俺の生徒手帳を手に持ち、ペコペコと頭を下げる彼女を見て、悪いと思いつつ少し笑ってしまった。


「ああ、いや悪い。俺今さっき起きたばっかだからちょっと待っててくれないか。すぐに出る」

「あ、は、はい。わかりました。すみません、ごゆっくり」


 口癖なのだろうか、と思うほどすみませんを口にする彼女に苦笑しながらその場を離れた。

 寝巻きから部屋でハンガーにかけっぱなしの七分袖のシャツとジーンズに着替えて、洗面所で歯磨きと洗顔を手早く済ませ玄関のドアを開けた。


「ごめん待たせた」

「とんでもないです。あ、これお返ししますね」


 玄関を開けると、当然だが正しく昨日の同級生がいた。昨日と違うのは制服を着ておらず、シンプルな白いワンピースに薄手のグリーンのカーディガンという私服を着ていることだ。いいとこのお嬢様みたいだな、と思いながら生徒手帳を受け取る。


「ああ、ありがとう。落としてたんだな、気づかなかった」

「ふふ、落としてました。気がついたのがもう河奈さんが帰られた後だったのでお渡しすることができなくて……すみません、手帳に書いてある住所を調べて来ちゃいました」

「それは手間をかけさせてしまったな……というか、あの、昨日は本当に悪かった」


 正直生徒手帳を届けてくれたのは非常に助かる。先生に届けられてたら呼び出されてたかもしれないしな。それよりも昨日のことをもう一度だけ改めて謝罪したかった。


「……えっと、私の肩で寝られたことですか?」

「……改めて言われると恥ずかしいな。そうだな、その事だ。あと、逃げるように帰ってしまったことも、だ。失礼なことをした。申し訳ない」


 謝罪をすると、昨日のことを振り返っているのか左上を見ながら俺の行いを語った。


 改めて語られると恥ずかしく、心理的にダメージを負いながら昨日のことについて謝罪を続ける。すると彼女はクスッと笑った。


「ふふ、律儀なんですね、河奈さん。いいですよ。昨日も言いましたけど、気にしてませんっ。どうしても気が済まないと言うのなら……」

「言うのなら?」


 天星は両手を胸の前でパチンと合わせ、にっこりと微笑んである提案をした。


「今から一緒にお出かけしてくれたらチャラにしましょう! ああ、もちろん予定がなければ、ですけど」


「……おでかけ?」


 きっと、この時の俺は大変間抜けな顔をしていたと思う。


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