我が子
ある所に、とても仲のいい夫婦がいました。
2人の出会いは妻が旅先で休憩していたところ、たまたま近くにいた夫が話しかけたことがきっかけです。
話すうちに、
妻は夫が誠実な人だとわかりました。
夫は妻がしっかり者だということがわかりました。
お互い性格に惹かれたのがきっかけで結婚をしました。
妻はおっとりしていて綺麗というより可愛い容姿をしていました。
夫の方はしっかり者でよく働き頭のいい青年でした。
お互い周りからの信頼も厚く、お似合いの2人だと言われていました。
2人は幸せでした。
ですがひとつだけ夫婦がずっと悩んでることがありました。
子供です。
完璧な2人のことです。
周りはすぐに子供をもうけるのだろうと思っていました。
もちろんそれは夫婦もおもっていたことです。
ですがすぐと思っていたのに1年経ってもその気配がありませんでした。
知り合いにも相談しながら2人は子供を待ち望んでいました。
さらに半年知り合いのツテを使い医者からの治療を受けました。
そこから1年が過ぎ…
やっと妻の妊娠がわかりました。
夫婦は喜びました。
相談を聞いてくれた友人や医者に報告しました。
周りも2人へ沢山の祝福を贈りました。
夫は妻がゆったりと子育てができるように、家族のための家を作りました。
他にも夫は妻を労り、食事や掃除全てを代わりにしてくれました。
妻はそんな夫をみて心の底から幸せでした。
ある日のことです。
夫は食事の用意のために少し遠い所まで出かけていました。
妻は家で待っていたのですがふと気分転換に散歩に出てみたくなりました。
夫がしばらく帰って来ないというのはわかっていたので、すぐ帰るつもりで散歩へ行きました。
久しぶりの爽やかな風の感覚に夢中になっていた妻は、予定より少し長めに散歩を楽しんでいました。
ふと夫がそろそろ帰ってきてしまうかもしれないと思い出し、妻は急いでわが子の待つ家へ帰りました。
帰ると…
家は荒らされ、愛しい我が子の姿はなく、[ナニ]かがはったような跡だけが残されていました。
そこに夫が帰ってきました。
夫は妻から状況をきいて激怒しました。
これまで妻が育児に専念出来るようにとなんでも引き受けてきたのに、
まさか子供をさらわれるとは…
今までにないくらいに妻を罵り、殴りつけ溢れ出る怒りをぶつけました。
妻はそんな夫に抵抗はしませんでした。
ただただ自身を責め続けました。
妻の頭の中は我が子への自責の念で一杯でした。
しばらくすると夫は怒るのも、罵るのも、暴力も辞めて荒らされた家の中を観察しはじめました。
「あの子が壊されたあとはない。だが…」
「このはったようなカーブの跡は、、、」
「蛇だ…」
その言葉を聞いて妻は絶望しました。
妻だってこの跡を見れば愛しい我が子が、[ナニ]に襲われたかのかくらい分かっていました。
ですが、友人達からも聞かされていたヤツの恐ろしさを考えると、頭では分かっていても信じることが出来なかったのです。
注意はしていました。
ですがそれなのに、分かっていたのに…
[妻は家を離れてしまいました]
夫はまだ言葉を紡いでいます。
「やつがきたすぐ後ならまだ何が出来ることもあったろうけど…
もう時間が経ちすぎている。」
「うちの子はもう戻ってこない…」
夫は涙を流しながら家から出ていきました。
妻は呆然と夫の飛んでいった先を眺めていました。
しばらくするとハッとした様子で目を見開き、妻も家をあとにしていきました。
夜になって夫が家へ帰ってきました。
目の前には妻の背中があります。
酷い言葉をかけた手前、妻の事をしっかりと見る事が出来ず、少し目を伏せながらその背中へ言葉を投げかけました。
「すまない…。君だけに非があるわけじゃないのにあんな言い方をしてしまって…」
妻は答えました
「あなた、もう大丈夫ですよ。」
妻の声色はとても優しげです。
何がなんだかわからない夫は謝罪を続けました。
今度はしっかりと妻を見つめて勢い良く言いました。
「本当にすまない…
もう一度2人でやり直そう!そうすれば…!!!」
夫は最後まで言葉を繋げることはできませんでした。
こちらを振り向いた妻の腕には愛しいわが子がいたのです。
ですが…
彼が言葉を出せなくなった理由はそれだけではありません。
白くふんわりと柔らかかった妻の羽根は、ドロリとした鉄臭い液体でそのカラダを真紅へと染め上げられていました。
妻が口を開きました。
「大変だったのよ…。
あいつをしとめるのにも時間がかかったし…でも…
この子をはやくあいつの中から出してあげたくて…。
口を使いながらなんとかお腹を裂いてだしたわ!!
あいつの汚い血が口の中に溢れて吐きそうになったけど…
この子のためだもの…」
そう言いながら妻はわが子を撫でました。
その時、辺りにナニかに亀裂が走る音が響きました。
私は今でも忘れません。
生まれて初めて見る両親の顔を、
父は恐怖に怯え、
母は血まみれになったくちばしで歪に笑っていました。