クラスメイトと自己紹介
「では、教室に案内しよう。ついておいで」
教室への道すがら教えてもらったところによると、今回の新入生はわたしを含めて5匹。これでも多いほうだという。まったく入らない時も多いそうだ。また、個々の能力に差があるため、課題がクリアできれば次に進む方式らしい。
なので、年度ごとのクラスではなく、習熟度に合わせた級による授業とのこと。
つまり、能力さえあれば飛び級し放題。努力次第でかなり時間短縮ができそうだ。
学校的なところと聞き、かなりの期間拘束されることを予想していたので、これはうれしい話だった。
まあ、逆にできなければ何年でも同じところにいることになるわけだが。
「さあ、ここだ」
入り口は下半分がくぐり戸になった引き戸だった。確かに、重たい引き戸はネコの姿で開けるには難しい。ネコ型の時は下を使うということだろう。
オショーさんに続き部屋に入ると、4匹のネコが思い思いの姿でくつろいでいた。
「さてと、君が最後だからな、みなで自己紹介をするとしよう。まずはわしから。えー、門で会ったものもおるが、ここの代表を務めておるチクワという。オショーと呼んでくれて構わんよ。君らの担任にもなる。わからないことは何でも聞いておくれ」
「はい、オショーさん!」
力強く尻尾を挙げたのは部屋の真ん中で寝そべっていた灰色のネコだった。
「オショーさんの命はいくつ目ですか!」
「わしは七つ目だの。三つ目の時からここで教えておる。これでいいかの?」
「はい!ありがとうございます!」
この世界のネコは本当に命がいくつもあるのか。すごいな。
「よし、では次は君の番だ」
「はい!僕はグレー、川のそばから来ました。好きなものは運動、嫌いなものは勉強。よろしくお願いします!」
「うむ、元気でよろしい。では次は・・・そこの窓際の君」
オショーさんに指名されて、窓の外を眺めていたネコがゆっくりとこっちを向く。
全身まっ黒で足の先だけが白い。
「クツシタです。寝るのが好きです。うるさいのは嫌いです」
それだけ言うと、また窓のほうを向いてしまう。
「これまたネコらしいの。よろしくな。よし、次」
今度はわたしが指された。
「シロです。勉強は得意ではないですが、はやく立派な猫又になりたいのでがんばります」
「やる気があるのはいいことだの。さて」
「ぼく、チャトラだよ。食べるのが大好き。人間はいろんな料理が作れるからその勉強をしたいんだ」
ぽっちゃりしたしっぽの短いトラネコ。
「そうかそうか、はっきりした目標もまた大切だからの」
「最後はわたくしが」
と、ノルウェージャンっぽい茶色のネコが優雅に立ち上がった。長毛なので一段と迫力がある。
「わたくしはクリームですわ。お父様もお母様も猫又ですの。仲良くしてさしあげてもよくってよ」
キラキラキラっと効果音が聞こえてきそうな、それはまさに
「・・・お嬢だ」
「オジョーってなに?」
あ、しまった。声に出てた。
「えっと、輝いてる女の子っていう意味、かな」
「へぇ、シロは物知りだな❗ 確かにピカピカだ❗」
あぶないあぶない。この世界にある言葉かわからないから聞いたことのない言葉はできるだけ使わないようにしてるのに。
幸い、グレーはあんまり賢くなさそうだからばれないと思うけど。
「なあクリーム、お前のことオジョーって呼んでいいか?」
ひろめだした!?
「まあ、それはどういう意味ですの?」
「ピカピカ女子のことらしいぞ。ぴったりだろ?」
「それは誉めているのかしら」
「もちろんだろ。なぁ、シロ」
「う、うん。でも言われるほうが嫌ならやめたほうがいいんじゃないかな、そんなに使われる言葉でもないみたいだし」
「あら、それってすごく特別だってことじゃない。グレーさん、よろしくてよ」
抵抗むなしくオジョーは認定されてしまった。ま、まあ子供のなかだけのことなら、
「そうそう、君らには人間の姿で使う名前を考えておいてもらう。わしらのように色ではあまりつけんからのう」
「ではわたくしはオジョーで」
どうしよう、すごく気に入っているみたいだ。あ、でもおかしければオショーさんがとめてくれるはず・・・
「ふむ、聞いたことのない言葉だが・・・人間は個性というのを大事にするからの。よかろうて」
ダメだった。いや、そもそもこの人からしてチクワだった。
「では、他の子らも考えておくように。練習のため明日の授業から使っていくからの」
そういうとオショーさんは教室を出て行ってしまった。
これ、大丈夫だよね?