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図書室の主

 王宮で働くメイドの一人に案内してもらい図書室へと向かう。


「こちらが図書室です」


 そう言って扉に手をかけたメイドは、しかしその手に力を入れることなくわたしのほうを見て言った。


「あの、本当にこの部屋に入られますか?」


「え? えぇ、王様からの許可も頂きましたし、そのためにここまで来たので」


「でしたら、ひとつお伝えしておくことがあります。オーグ様を、決して怒らせないでください」


「オーグ様?」


「図書室の管理を任されている方なのですが、少しかわっておられて。何か質問された場合は、嘘やごまかしなく、わからないことはわからないと正直にお答えください」


「わかりました。まぁ、おそらくこちらから尋ねることはあっても聞かれることなんてないと思いますが」


「とにかくお気を付けください。では、どうぞ」


 今度こそメイドは扉を開け、わたしは促されて図書室へと足を踏みいれた。


「これは・・・凄い‼」


 その光景は、まさに圧巻だった。

 高い天井まで届く本棚がぎっしりと並び、そこは数えきれないほどの本で埋まっていた。試しに一冊手に取ってみる。引き抜いた本はこの国の歴史に関するものだった。それを返す際ふと隣の本を見ると


(辞書?)


 その隣は料理の本、次は童話。どうやらここの本は、サイズと色、名前順で並んでいるようだった。


「誰だ? 私の城に勝手に入っている奴は」


 本棚の並びに気を取られていると、不意に上のほうから声がかかった。


「見ない顔だな、本当に誰だ?」


 話しながらゴンドラのようなものに乗っておりてきたのは、真っ白な髪と透き通るような肌、そして赤い目をした人物だった。


「あぁ、あなたがオーグさんですか? わたしはムツキと言います。蘇生魔法の本を見せていただきたくて。あ、王様から許可は頂いています」


「蘇生魔法? あれは禁忌に近いものなのによく許可が出たな」


「王子の足を治したら快諾してくれましたよ」


「王子の足を? 馬鹿な! あいつは一生車いすのはず」


「治りましたよ? 魔法で」


「嘘をつくな! 魔法は万能じゃないんだ!」


「わたしの世界では奇跡的なことを魔法みたい、と言ったりするんですけどね」


 思わず苦笑してしまう。そもそも、蘇生ができる時点で・・・ 


「まぁ、お疑いならどうぞ確認していただければ。ここまでくればわたしはそう急ぎませんので」


「無論そうさせてもらう。確認が取れるまで、そこを動くなよ。こいつに見張らせておくからな」


 そういうとオーグさんは魔法で小鳥を出すと本棚の空いている所へ置き、部屋の奥へと歩いて行った。

 わたしが暇つぶしにと本を手に取ろうとすると、


「触るナ!」


 小鳥が鋭く鳴いた。


「こんなにたくさん本があるのに読むなと言うのですか? ひどい話ですね」


「オーグ様が帰ってクるまでじっとしてロ」


「わかりました。では、その間わたしとお話ししませんか?」


「おはなしシない! 黙ってじっとしてロ!」


 それ以後、話しかけても返事もしてくれなくなったので、諦めて本棚を見つめ、背表紙から本の内容を想像することにした。10冊ほどまで進んだとき、


「嘘はついていなかったようだな」


 いつの間にか戻ってきていたオーグさんに声をかけられて、わたしは一人遊びをやめた。


「無事確認が取れたようでなによりです」


「あぁ。しかし、あいつは言っていなかったようだがこの部屋の主は私だ。私の気に入ったものにしかここの本は見せないと決めている。そこで質問だ。お前、私のことを見てもそう驚いた様子がなかったな。誰かから聞いていたのか?」


「あなたのことはこの部屋に入る前に名前を伺っただけです。人間のアルビノに会うのは初めてですが、知識としてはそういった方がいるのは知っていましたので」


(動物では割とポピュラーだし)


「そうか、それで? 実際に目にしてみてどう思った? 気味が悪いか? かわいそうか?」


「特になにも」


「は?」


「しいて言えば、白いな、と、赤いな、でしょうか。あぁ、日に当たれないのは大変そうだな、と思いますが、まぁ日光過敏症などの人もいますからそれはアルビノに限ったことではないですしね」


「う? ん? そ、そうか」


「あ、目が赤いということは視力にも影響があったりするのでしょうか? それだと本好きにはつらいですよね」


「あ、あぁ、目には保護の魔法を使っているから大丈夫だ」


「そうですか、それはよかったです。これだけ本があって読めないというのは拷問に等しいですからね」


「そ、そうだな。お前も本が好きなのか?」


「えぇ、大好きです。オーグさんはいいですね、こんなにたくさんの本に囲まれて。そうだ、なにかお薦めの本はありませんか? できれば読み応えのあるもので・・・」


「読み応えというと、これなんかはどうだ? 地方の民間伝承を集めた本なんだが、作者独自の考察や見解が多く入っていて、現代的な検証もされているし私的にはかなりおもしろいと思うんだが」


「いいですね、ぜひ読ませてください」


「なら、この本も貸してやろう。同じ作者が、伝承をもとに書き上げた小説だ。後半かなりスリリングでとまらなくなるぞ」


「ありがとうございます、お借りします」


「それから、こっちの・・・」


 結局何冊もの本を借り、部屋を後にしたのはかなりの時間が経ってからだった。

 帰るために迎えに行くと、謁見の間でブラッシングされ輝きを増したオジョーと、ふわふわのオジョーの毛に埋まりご満悦の王様の姿があった。


『ムツキさん! 待ちくたびれましたわ!』


『ごめん、オジョー』


ネコ語でやり取りした後、王様に声をかける。


「あの、そろそろ帰らせていただこうかと思うのですが」


「お、おぉ、ムツキ殿。またいつでも遊びにくるといいぞ。この子も一緒にな」


 王様は、名残惜しそうにオジョーから離れた。


「はい、ありがとうございます」


『わたくしはもう結構ですわ。綺麗にしていただくのは構いませんけど、この人しつこいんですもの』


 ぶつぶつと呟くオジョーとともに城を後にし、サラと合流した。


「ムツキさん、どうでしたか!?」


「うまくいきましたよ、ほら、本もこのとお・・・」


「どうしました?」


「・・・魔法の本、借りてくるのを忘れていました」


「えぇ!?」


「つ、次。次返しに行ったときに借りてきます。もうわたし一人で大丈夫ですから!」


 しかし、それから先何度も本を返しに行っては、目的を忘れてオーグと感想談義をし、新しい本を借りて帰ってきてしまうのだった。

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