治癒の練習~人間編~
動物たち相手の自主練習もかなり進み、自信もついてきた頃。
「そろそろムツキちゃんも患者さんを相手にしてみてもいいかしらねぇ」
わたしの呪文詠唱を見ていたマリアさんが、そう言った。
「もう呪文や魔力のコントロールはかなり上手くなっているし」
「そうだね、いつまでも神殿の人たちばかりじゃ、なかなか経験もできないしね」
テオドールさんも同意する。
ちなみに、動物相手に練習しているのは内緒なので、彼らはわたしが広範囲の治療までできるようになっていることは知らない。
「そうしたら、次に来た人の治療はムツキちゃんにまかせてみようかしらぁ」
「わかりました」
「もちろん、私もサポートするから、緊張しなくていいわよぉ」
「ありがとうございます」
たぶん大丈夫だと思うが、教えてくれている人の顔は立てておいたほうがよいだろう。
「すみません! 治療をお願いします!」
そんなことを考えていると、早速"次の人”がやってきたようだ。ずいぶんと切羽詰った様子の男性だが。
「この子が、熱湯をかぶってしまって」
と、両手に抱きかかえてきた毛布の中に包まれていたのは、2歳ほどの子供だった。
頭の方から顔全体が、赤くはれ上がっている。少し覗いた首元も赤くなっていることから、服の下まで火傷が広がっている可能性もある。
呼吸は浅く、手の先は真っ白。ショック症状を起こしているのか。
(とにかくまず、循環と意識の確保と、それから)
「とりあえず治癒を始めようか」
「えぇ、ではキュ」
「ちょっと待ってください! まず、マリアさんは<癒し>をお願いします。<治癒>はわたしが。テオドールさんはこの子の服を脱がせてください。切ってしまってかまいません。くっついているところは無理に剥がさないで」
「え、でも」
「皮がめくれると悪化します。余計な痛みを与えたくないですし」
それでなくとも傷に直接触る<治癒>は痛みが強い。こんな小さな子では、耐え切れない可能性がある。まずは少しでも<癒し>で状態を回復させるべきだ。
開かれた服の下も案の定火傷を負っていた。幸いひどいところでもⅡ度ほどのようだから、私の魔法でも修復可能だろう。範囲も、これくらいなら一度に覆えるはずだ。
「では、マリアさん、お願いします」
「え、えぇ<癒し>!」
子供が少し落ち着いた様子になったのを確認し、今度はわたしが呪文を唱える。
「大いなる神よ、今その慈悲によりこの者の傷を癒したまえ。〈治癒〉!」
できるだけ痛みのないように、跡の残らないように。薄く、優しく、素早く、正確に。
「私も・・・って、あら?」
「・・・ふぅ~」
今までになく気を使いながらの魔法だったが、どうにかうまくいったようだ。
「どうして? まだ一度しか、」
「気合です」
「え?」
「できるだけ早く治そうと思って頑張ったら、一気に治りました」
「え、でも、そんなことが」
「それより、もう一度<癒し>してあげたほうがいいんじゃないですか?」
「あ、そ、そうねぇ・・・。ムツキちゃん、後で詳しく聞かせてもらうからね」
なんだか面倒くさくなったので勢いで押し切ろうと思ったが、無理だったようだ。話をするまでになにかもう少しいい言い訳を考えなくては。
すっかり元気になった親子を見送ったあと、テオドールさんもやってきて二人がかりで問い詰められたので、もうある程度は本当のことを言ってしまおうと、動物相手(メジの時の反応を考慮して小鳥などの小動物だけということにした)に特訓をした結果、できるようになったと説明した。一度に広範囲をカバーできた理由に関してはわからないと言い張ったところ、魔力が大きかったので魔法が広く使えたのかもしれないとテオドールさんが適当な理由をつけてくれた。
勝手に魔法を使っていたことに関しては怒られたが、そのあと、これなら即戦力になると言って喜ばれもしたし、今度マリアさんが再生魔法も教えてくれると約束してくれたので、治癒魔法のデビュー戦、結果としてはまずまずだったのではないだろうか。




