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練習台は・・・

「え、ムツキちゃん一人で来たって、海の向こうからだったの!?宿も決まってないのね?」

「はい。あちらは魔法はほとんど普及していなかったので」

「そうなの。じゃあ、ここに住んだらいいわぁ。ここには私たち修道女(シスター)の住むところもあるし、同い年くらいの子もよく遊びに来ているのよ」

「いいんですか?」

「えぇ。そのかわり、神殿のお手伝いはしてもらうけれど」

「ありがとうございます、助かります」


 魔法を学ぶためにとりあえず大陸へ渡ってきたが、手持ちのお金は猫として町を回っていたときに拾った幾ばくかの小銭と、マグロさんの餞別だけだったので、渡りに船だった。

 それに、ここにずっといればそれだけ魔法の練習もしやすいはずだ。


 神殿に滞在してしばらく。自分やテオドールさんを練習台に使い、近くにいた動物などにも手当たり次第に魔法をかけることで(動物病院といった概念すらないこの世界、しかも野生動物であれば、自力で治せなければ死ぬしかないといった状況の中、元気にしてあげる、と言うと喜んで協力してくれた)、わたしは〈ヒールし〉を習得し、治癒の魔法の練習を始めていた。

 やり方としては、〈ヒールし〉とあまり変わらない。ただ、呪文が加わったため、少し時間がかかるようになったなったのと、傷口に魔力を触れさせる必要があること、もとのイメージがきちんと出来ていないと傷が残ってしまったりするようだった。


「大いなる神よ、今その慈悲によりこの者の傷を癒したまえ。〈治癒(キュア)〉!」


(神って誰だろう。まさか、ここに来るときにいたあいつではないだろうな)


その日も、どうでもいいことを考えながら神殿の裏手の森で魔法の練習がてら傷ついた動物を治してあげていると


「おい、おまえ!」


 後ろから男の子の声がした。


「はい、なんですか?」

「ひぃ!?」


 振り向いて返事をすると、なぜか悲鳴を上げて引かれた。


「お、おまえ、なに連れてるんだよ!」

「あ、この子たちですか?ケガをしたらしいので治癒の魔法の練習をさせてもらっていました」

「魔法の練習って・・・それっ、オオカミだろ!?」

「あぁ、犬じゃなかったんですか?確かに少し大きいかな、とは思いましたが」


 ネコが人間大の世界だ。それが普通なのかと。


「まぁいいでしょう。人に危害は加えませんよ」

「うそだ! 父ちゃんが言ってたぞ。オオカミは家ちくや人をおそうって!」

「少なくともこの子たちは大丈夫ですよ。わたしが言い聞かせておきますから」


 振り向いて、念のため確認する。


『人を襲ったことはある?』

『牛や羊は食べたことある』

『今後はやめてね。人間に狙われると割に合わないよ。それに、今度やったらもう治してあげないから』

『わ、わかった。もうやらない』


「なんなんだよ、おまえ! ガウガウ言いやがって! お、おれを襲わせるつもりか!?」


『とりあえず今日のところは帰ってくれるかな? なんだかややこしそうな子だし』

『わかった。また頼む』

『うん、じゃあね』

『ありがとう』


 くるりときびすを返してオオカミの群れは姿を消した。

 ・・・“ありがとう”! 獣医が動物に言われたい、でも絶対言ってくれない言葉ナンバーワン! それが、単純に擦り傷を治しただけで聞けるなんて! あぁ、意思の疎通ができるというのはなんて素晴らしいのか。


 いつまでも感動に浸っていたいところだったが、少年が後ろから睨みつけてくるのでひとまず対応してあげることにした。


「さ、これでいいでしょう。それで、なんの用ですか?」

「あ、あいつらは? どこいったんだ?」

「帰ってもらいましたよ。治療も終わったことだし。で、御用は?何もないのであればわたしも帰らせてもらいますが」

「お、お」

「お?」

「おまえ、生意気なんだよ! いきなりきて、魔法どんどん使えるようになって、神殿にまで住みやがって。おまえが来るまでは、おれが一番だったんだ!マリアさんだってすごいってほめてくれて・・・それなのに!」

「なるほど、嫉妬ですか。しかし、自分ができないことを棚に上げて人を攻撃するのはお門違いもいいところです。褒められたいのであればあなた自身がもっと努力すべきだ。人の足を引っ張って上に立つことのなにが偉いものか」

「ちがう! おれだってがんばってる。でも、なかなかうまくならなくて、」

「なぜ上手くいかないか、考えたことはありますか?」

「え?」

「なにがいけないのか、なにが足りないのか。そこを考えて、工夫し、補うことで練習は初めて意味を持ちます。ただ闇雲に失敗を繰り返し続けることは、時間の無駄でしかない」

「・・・・・・」


 しまった。子供相手にすこしきつく言いすぎたか。しかし、今のうちから正しい努力をすれば、きっと成長できると思うのだが。


「おまえの言ってること、むずかしすぎてわかんねぇよ」


 どうやら、黙っていたのは理解不能のためだったようだ。よかったのか悪かったのか。


「と、とにかく、あなたは魔法が上手くなってマリアさんに褒められたいということでしょう? ならば、今のやり方ではダメだということです」

「なにがダメなんだよ。あと、まま、マリアさんは関係ないからな!」

「そうですか、まぁそのへんはどうでもいいんですけれど。それから、そろそろお前というのはやめてください」


 地味にイラっとくるので。


「わたしはムツキです。あなたは?」

「・・・おれは、メジ」

「ではメジ、まずできる魔法を使ってみてください。それから、できない魔法も。一緒に、なにが問題か考えましょう」

「なんでだ?」

「え? なにがですか?」

「なんで、手伝ってくれるんだ?」

「そうですね・・・。魔法を覚えるのが早いもの勝ちというわけでもなし、競い合う必要性を感じません。それに、何事も、人に教えることができてようやく自分のものになったと言えるものです。わたしはあなたの練習に付き合いますが、あなたがわたしの練習台でもあるわけです」


(頑張る子供を応援するのは大人の義務でもあるだろうし)


「やっぱり、よくわかんねぇ」

「お互いに助かるということです。さぁ、時間がもったいない。さくさくいきましょう」


 こうしてわたしは、新しい練習台を手に入れた。丸め込んだ感じもあるが、両得なのでいいだろう。

 オオカミたちを含む動物たちのことも、なし崩し的に受け入れてもらうことにしよう。


 

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