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最初の記憶
気づいたら、真っ暗な温かいところで、ふわふわと漂っていた。
蓋を閉めたお風呂のなかで浮かんでいるみたいだ。
全身の力が抜けて、なんだかどうでもよくなってくる。
いやいや、さっき頑張るって決めたばかりなんだから、流されるなわたし!
気合いをいれて、ぶんっと手を振ると、柔らかい膜みたいなものに触れた。
そこでピンとくる。
あ、これってもしかして、おかあさんのお腹のなか?
あらー、まじですかー。普通こういうのってある程度成長したところから始まりませんか?
最近はそうでもないのかな。でもいくらなんでも早すぎじゃあ。
こんなとこで意識があってもやることないしなぁ・・・
まあでも、手があるってことはある程度育っている。
猫の妊娠期間は2カ月位だからここにいるのはそんなに長い時間にはならないはず。
ならせっかくだしこの貴重な体験を楽しんでいましょうか。
この時のわたしはまだ知らなかった。
これが、人をダメにする恐ろしい時間の始まりだったということを。