魔法について
「さて、改めて。私はこの神殿の責任者、テオドール。君の名前は?」
「ムツキと言います。よろしくお願いします」
「よろしく、ムツキちゃん。えーと、治癒魔法を学びたいということだったよね」
「はい。ここに来れば教えてもらえると聞いて」
「その前に、ムツキちゃんは魔法についてどれくらい知っているのかな?」
「えっと、それは」
改めて問われると、全然わからない、というしかない。
「ふむ、ではまず最初にかるく基本的なところから話しておこうかな」
そう言って、テオドールさんは魔法の基礎的な情報を教えてくれた。
いわく、わたしが習得を希望している治癒魔法は回復系になり、初級として癒し(体力の回復、疲れをとる)、中級が治癒(傷の修復)、上級の再生(失った部位を作り出す)、そして、超級には蘇生魔法があるという。ただし、超級魔法は伝説で語られるほどのもので、現在その使い手は存在しておらず、王宮の図書館にその方法が記された本が保存されているのみだということだ。
「魔法は誰でも使えるんですか?」
「そうだね、人によって得手不得手はあるが、魔力を少しでも持っていれば何かしらの魔法はつかえるようになるよ。うちにある魔力を量る砂時計で調べられるから、あとで見てみようね」
あいつが、なんとかなるようにはしていると言っていたから、多分そのへんは大丈夫だろう。
「ムツキちゃんは、攻撃魔法や補助魔法には興味はないのかな?」
「はい。回復魔法に役立つのであれば別ですが。例えば、さっきの人はその、締めおとされていましたけど、それを魔法でカバーするとかはできないんですか?」
「うーん、さっき見てもらった通り、治癒の魔法は時間がかかるんだよね。眠りや麻痺の魔法で抑えられたらいいんだけど、そんなに持続時間がないし、刺激があるとさらに覚めやすくなっちゃうしね」
「そうなんですか」
あれは公認のやり方だったということか。そして、この国には麻酔という概念はないと。
「ふ~、ようやくくっついたわねぇ」
話していると、先ほどのシスターが額の汗をぬぐいながら通り過ぎようとした。
「あ、マリアくん、ちょうど良かった。紹介するよ、こちらはムツキちゃん。ここで魔法を学びたいそうだ」
「はじめまして、ムツキです。よろしくお願いします」
「こちらはマリアくん。うちで一番の回復魔法の使い手だよ。教育係も兼ねてくれているから、魔法を教わるのは彼女からになるね」
「初めまして、ムツキちゃん。よろしくね」
にっこり笑いながらマリアさんはギュッとわたしをハグしてくれた。
あたたかく柔らかい感触に、思わず口から溜息とともに言葉が溢れ出した。
「おかあさん・・・」
(はっ、しまった! つい!)
慌てて顔を上げると、慈愛に満ちた笑顔があった。
「そうよね、まだこんなに小さいんだもの。おうちが恋しくなったりもするわよねぇ」
「いえ、わたしはその」
「いいのよ、ここでは私がお母さんの代わりになってあげるわ」
横でテオドールさんも、口も出さずにニコニコと微笑ましそうに見ているだけだ。
どういうことだ、これでも中学生くらいを想像して姿を作ってきたのだが。もっと幼く見えているのだろうか。
と、いうか、違うのだ。マリアさんの一部があまりに母性を主張していたために思わず漏れた言葉だったというのに、大いに誤解されている。
悩んでいる間にも、マリアさんの抱擁は止まらない。それどころか、頭ナデナデまで追加されてしまった。
(まぁ、仕方ないかな。なにか支障がないうちは誤解させたままでもいいだろう)
マリアさんの母性に包まれるうち、だんだん考えるのがめんどくさくなってきてわたしは思考を放棄したのだった。




