閑話 オジョーの発情期
まだ、授業が始まってまもない頃のことだった。
その日は朝から何かおかしかった。
まず、教室に入るとすでにグレーもチャトラも来ていた。さらに、クツシタまでもがわたしのすぐあとにやってきたのだ。
そして、いつものように寝るでもなく、落ち着かない様子で歩き回ったり、壁の臭いを嗅いでみたり、爪研ぎをしたりしている。
かくいうわたしも、なんだかそわそわとしてじっとしていられない気分になっていた。
そしてその空気は、オジョーが教室にやって来た時に最高潮に達した。
(なんだろうか、これは。それに、このにおい・・・)
そう、オジョーからはなにかものすごくいい匂いがした。今までに感じたことのない、引き寄せられるような、そして誰からも独占していたいような・・・
「みなさん、おはようございます」
「「「「おはよう!」」」」
みな、我先に挨拶をし、誰よりもオジョーに近づこうとする。今にも小競り合いが起こりそうなピリピリとした雰囲気。
その本能的な動きにわたしははっとなった。
(あ、これ、もしかして)
わたしは慌ててオショーさんを呼びに走る。本能に抗うのは辛いが、それでもまだこどもの身体。完全に支配されているわけではないのが幸いか。
教室での出来事を伝えると、オショーさんは急ぎメスの先生を連れて一緒に来てくれた。
戻ってみると・・・オジョーは教卓の上でみなに崇め奉られていた。
「オジョーくん、外でネコジャラシ先生と少し話をしてもらえんかの」
「まあ、オショーさん、もちろんよろしいですわよ。ではみなさん、またのちほど」
「オジョーまたね! あとでね!」
「一緒に美味しいもの食べに行こうね!」
「昼寝の方が楽しい・・・」
「さ、オジョーさんこちらへ」
オジョーが教室の外へ連れて行かれ、しばらくすると、においの効果が薄れてきたのかみんな少しずつもとの様子へ戻っていった。
「さて、みな、ちと特別授業が必要だの」
「オショーさん、とくべつじゅぎょーってなんですか?」
「うむ、なんだの、生命の神秘について、かの」
そう、生命の神秘。つまりオジョーは発情期を迎えていたのだ。
まだわたしたちは完全におとなになっていなかったからあの程度の反応で済んだが、これがもし何も知らない成熟したオスネコ同士だったら・・・考えるとぞっとする。ネコの発情期はまさに修羅場だ。まず確実に血を見ることになっていただろう。
それから、わたしたちは人間でいう保健体育の授業を受け、精神のコントロールの方法も訓練するように言われたのだった。
ちなみに、オジョーも帰ってきた時には普通に戻っていたので発情の押さえ方をネコジャラシ先生に教わったのだろう。
・・・ネコの発情を止める方法が知りたい方は、お近くの獣医さんにお尋ねください。




