初めての授業
寮のようなところで一晩を過ごし翌日。
指定された時間に教室に行くと、わたしが一番乗りだった。オショーさんもいない。
「・・・」
しばらく待ってみたが誰も来ない。
「・・・・・・」
まだ来ない。
「・・・・・・・・・」
物音すら聞こえない。
まさか、教室を間違えた? いやいや、そんなことはないはず。時間だって何度も確かめた。
不安で堪らなくなって部屋から飛び出そうとしたとき、
「おや、シロ君。ずいぶんとはやいの」
オショーさんがのんびりと戸を開けて入ってきた。
「あの、集合は9時でしたよね?」
「うむ」
「今、10時ですよね?」
「お、そうじゃの」
お、そうじゃの。じゃねーよ‼ 少なくとも管理する側は時間守れよ‼ 自分で言った事だろうが‼
はぁ、はぁ・・・。
「・・・時間は守らなくてよいのですか?」
「人間の生活には必要だがの。まだ最初だからそんなにきっちりせんでも大丈夫じゃぞ」
「なら最初からそう言ってください。ぼく、予定があるのに守れないの嫌いです」
「そりゃ悪かったの。じゃが、あまりカリカリするものではないぞ」
「っ!」
おもわず反論しかかったとき、
「あら、わたくしが一番だと思ってましたのに」
クリーム、もといオジョーが優雅に入ってきた。
「シロ君は、9時にきておったらしいぞ」
「まぁ⁉ お父様たちからこの授業のことも聞いておりましたけれど、そんなにはやい方がいらっしゃるとは。わたくし、慢心していたかもしれませんわね」
「うむ、わしも長年ここで教えておるが初日から時間通りにくる子ははじめてだの」
そんなレベルなのか。しかもいま
「オショーさん、授業というのはまさか」
「うむ、まずここでやるのは、時間通りに動く授業だの。あとは、朝起きて夜寝る訓練も行うぞ」
「それならぼくはもうできます。早く次のクラスへ行かせてください!」
「そんなに焦らなくてもいいと思うがのう」
「お願いします!」
冗談じゃない。そんなところで足止めをくっている場合ではないのだ。
「うーむ、では、1週間遅刻なしでいられれば次の課題へうつろうかのう」
1週間か・・・本当は今すぐにでも教えてほしいところだけれど、まぁ仕方ないか。
「ありがとうございます!」
「オショーさん、その試験、わたくしも受けますわ」
突然オジョーが割り込んできた。
「しかし、君ははやいとはいえ間に合ってはおらんぞ」
「今日は支度に手間取っただけですわ。由緒ある家の娘として、同じ年の子に後れを取るわけにはいきませんわ」
「そうかの。まあ、参加は自由だがの。失敗すれば次には進めんからの」
「わかっておりますわ。シロさん、負けませんわよ」
「う、うん。よろしく」
別に勝負してるつもりはないんだけれど。
「では、みんな揃うまで待つとするかの」
「はい」
「ええ」
30分後。
「おはよー! お、ふたりともはやいなぁ!」
グレーが到着。
1時間後。
「おはよ~。ご飯食べてたらちょっと遅くなっちゃった」
チャトラ。おそらくこの遅くなったは、自分の中での到着時間より、という意味だろう。
2時間後。
「寝ても寝てもねむい」
あくびをしながらクツシタが現れた。
「さて、全員そろったし、昼食に行くかの」
「僕おなかすいてないよ、オショーさん」
「ぼくはたべられるよ~」
「うむ、人間はの、1日3食朝昼晩と食べるのが通例なんじゃ。人間に溶け込むためにはそういった細かいところが案外重要だからの」
飛び級制度があって本当によかった。1週間耐えきればもう少し実りのある授業が受けられるはず。
人間の時にはあまり思わなかったけれど、わたしは案外イラチだったようだ。