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天体運航韻律再現譜 One of a Song of Imbolc  作者: 石田五十集(いしだ いさば)
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LEGACY-0001 「来訪者に告げる最初の言葉」

第三話で登場した飛べない人・地球人。彼らが遺したエデンの園に関する膨大な記述を章ごとに少しずつ掲載します。

 この島に漂流して二年が経った。いや、一年か?何しろこの島では一年が僅か一八〇日程度しかなく、従って島の環境は地球のそれよりも遥かに目まぐるしく変化していく。幸い外から来た私の体内時計はそのままになっているようで、倍の速さで老化していく訳ではないらしい。

 ここは一体どこなのか。私が最初に抱いた疑問はこれだった。君もそうなのではないか?

 気がついた時には私は西の砂浜に打ち上げられていた。海を漂流して辿り着いたとしか考えられないが不思議と身体は濡れていなかった。船はなく、また乗った記憶もない。意識がはっきりしないまま私は立ち上がり霧の濃い浜辺を手探りで歩いた。朝だった。ここはどこなのか。気を失う前何があったのか?おもいだそうとすると頭がずきずき痛む。その答えを見出せるのはまだ暫く先だった。それより先に新たな疑問に出会ってしまったからだ。霧を進んだ先に浮かび上がったのは想像を絶する高さの竜血樹、現地の住民達が<大樹>(ラトゥエ)と呼ぶ巨木だった。その異様に私は恐怖を覚え、次の瞬間には好奇心のあまり駆け出していた――そうして、ここに辿り着いたのだった。どろどろの靴を履いた私を死骸、異物と判断したこの島は私を消化すべく葦を私の身体に絡みつかせて地下へと引き擦り込んだ。目の前の現実を理解する余地も与えられないままムカデやらシロアリやらがうようよする浮島の<胃>に落とされた私は何とか普段から携帯していた懐中電灯で追い払ってことなきを得た。この島に漂着した者は先ずここで機転を試されるのだろう。生き延びてこれを呼んでいるということは君も似た経験をしたに違いない。

 <大樹>の太い根を掻き分けて島の中央へ進めば大抵洞窟の入り口に辿り着ける。そうして漸く、私は最初の疑問への手掛かりとこれから取り組む無限の疑問とを見出したのだった。

 君も既に見ただろうが、この洞窟の壁には無数の樹木が描かれている。竜血樹のようなキノコ型ではなくごく一般的なタイプの(これはかつてこの島に竜血樹以外の樹木があったことを意味している)。これはパターン化された枝が記号になっており下から上に解読することで文章として読むことができる。また天井には天体の配列を元に作り出した記号を組み合わせた図が刻まれている。いずれも人類が発明したものとは似ても似つかない未知の文字体系だ。幸い私の前に何人もの人々がこの島を訪れ熱心な研究資料と大逸れた仮説とを書き残してくれた。この二年間の殆どは彼らの言語と洞窟の文字を学びそれらを理解することに費やした。洞窟の文字群を解読し客観的な視点で精査した末に得た結論によれば、ここはエデンの園である。ここまで読んでこの石板を捨ててしまうのはやめてほしい。ここにある情報を信じる限りではそう結論づけるしかないのだ。アダムが髪から賜った仕事は何であったか?楽園の管理とそこに住む生き物達に名を与えることである。洞窟に刻まれた全ての文章は紛うことなく博物誌であり、その最初の著者は人類最初の男にして我らが罪深き父アダムなのだ。


    『来訪者に捧げる最初の言葉』(エメット・ブラウンが記す)

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