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LEGACY-0015「記録するということ」
あらゆる言い伝え、あらゆる儀式の詳細、あらゆる知識の全ては常に虫の翅持つ人々の血の中にある。いかに人の姿を模していようとも、短い寿命のままの彼らでは我々と同じ習俗を持つことなど不可能だ。卵から這い出た時、彼らの周りには親はおらず生きていく上での知識を一から伝授されるにはあまりにも成長が早過ぎる。ゆえに、その時々に応じて取るべき行動の選択の多くを、彼らは本能に委ねる。
だが捕食や身の守り方、交尾など基本的な行動ならともかく生きていくうえで必ずしも必要とも思われないより概念的で些細な情報までも子細に記憶している(と言うより成長するに従い次第に思い出すかのように見える)ことについて、そのメカニズムの解析は不可能と見て良いだろう。着の身着のまま地球から漂着した私達にできることは、絶えず文化を作り替えたがる傾向にある鳥の翼持つ人々と、それを正す傾向にある虫の翅持つ人々とが均衡を保ちながらもゆっくり変化していく文明の変遷をつぶさに観察することだけだからである。
『記録するということ』より、シャンカラ・ニキラナンダが記す




