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天体運航韻律再現譜 One of a Song of Imbolc  作者: 石田五十集(いしだ いさば)
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LEGACY-0010「通過儀礼の詳細とその変容」

 彼らがタウトについて述べる時、その言葉の端々に表れる格別の扱い方には確かにある種の聖性を読み取れるが、しかしその手触りは島で最も天に近い場所にいる聖なる人々のものとも地下に棲む根の魔女のものとも異なっている。郷とは、誰もがいずれ足を踏み入れることになる身近な聖域であり、且つ、出たが最後二度と戻ることの許されない人生の通過点を表象する。

 郷に入るのは有翼人だけだ。短命で明確な繁殖期が存在する有翅人はモラトリアム期間を過ごす場所を必要としない。人間と鳥の肉体が融合した人々の生理運動は極めて複雑で、個人差も大きい。そんな彼らが心身共に最も不安定になるのが「変身」(ジルマッツァエ)の前後である。これは人間の第二次性徴期に当たると考えて良いと思う。およそ三歳から五歳までの間に、彼らの身体は劇的な変化を遂げる。つまりある者はヒトに近づき、ある者は鳥に近づく。

 ヒトに近づく場合、身体の大部分を覆う羽毛と鱗が剥がれ落ち、飛ぶより歩くことを好むようになる。それまで衣服を鬱陶しいものとしか認識していなかった者達が裸でいるのを恥ずかしく思うようになるという事実から重要な知見を得られる。原罪など存在し得ない楽園においてさえ、人間としての自覚は羞恥心として表れるのだ。

 対して鳥に近づく者は少なくとも肉体的な意味においてはこの逆となる。地肌が露わになっていた部分は鱗に、鱗だった部分は羽毛に。その変位は腕にまで及び、骨格が変形して翼になるという極端な場合も少なからずある。こうして腰と腕に二対の翼を得た者は畏敬の対象とされる。しかしその精神性にはさほどの変化は見られず、せいぜい家を好まなくなって木の枝に隠れて寝起きするようになる程度である。また、言語も今まで通り操る。理性は必ずしも人間固有のものではないのだろうか。

 その議論は別の機会に譲るとして、変身は有翼人であれば誰もが経験するがその結末は本人の希望通りになるとは限らない。ヒトか鳥か、どちらに近づくかは選べる訳ではないからだ。このような著しい変化に対処するために郷は存在する。変身を遂げた若者は戸惑いを隠しきれないまま四つある性別ごとに分けられて宿舎に送られ、そこで共同生活を営むことになる。行動は特に制限されないが、実家を訪ねることは推奨されない。心細い新参者は少しの間怯えて過ごすが、周りを見渡せば同じ経験をした仲間が暖かく迎えてくれていることにすぐに気づく。こうして生涯の伴侶と結ばれるまでの数年を暮らすこの場所での思い出が、今後の彼らの人生を支えることになる。


    『通過儀礼の詳細とその変容』より、ヘレナ・ミンダバーグが記す

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