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天体運航韻律再現譜 One of a Song of Imbolc  作者: 石田五十集(いしだ いさば)
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LEGACY-0005「言語体系」

 なるべく書くという行為自体のハードルを下げるためにアナログの原稿用紙に書き留めてからPCに打ち込んでいるわたしですが、全く続きが思いつかず一ヶ月ほど原稿作業が止まっていたのがここ数日でようやく展開を思いつきぼちぼち執筆を再開しております。現状、「二七日目」まで完成しました。「五〇日目」がひとつの区切りとなる本作ですが何となくの構想だけなら「三三日目」まで浮かんでますので大丈夫です、書けるはず……!!

 有翼人種及び有翅人種の言語を学ぶにあたってまず念頭に置かなければならないことは、彼らがこの世界をいかに認識しているかという点である。不朽の名作映画「GHOST IN THE SHELL」で語られたように、人は言葉によって抽象的な思考を可能としたが、しかし、優れた道具であるはずの言葉が正確な認識力と柔軟な思考を妨げている。現に我々は(ホモ・サピエンスは)、極めて性能の高い眼球のおかげで一〇万色もの色相を判別可能だ。本来なら。しかし我々が一〇万の色相それぞれに固有の名を与えることを怠ったばかりに、貧しい語彙しか持たない認識の世界に住むことを余儀なくされているのだ。例えるなら解像度の低いカメラでどれだけ美しい鮮やかなものを撮ってもその美しさを再現しきれないのと似ている。

有翼人種・有翅人種にとってこの問題はより深刻だ。何しろ彼らの光スペクトルの可視領域は我々より遥かに古い。言い換えるなら、我々にとっての赤外線や紫外線が色として認識できる、ということである。更に虫の精に関しては触角から得られる微細な電気信号も視覚に影響を及ぼしているらしい。

そのような根本的な理由から、彼らの認識する世界は我々より遥かに豊かである。一体どれほどの色相を判別しうるのか、専門的な装置がない限り検証は不可能だ。厳しい研鑽を積んだ有翅人種の行者には真昼の白い太陽光が時たま完全な虹色に見えるのだと聞いた。いずれにせよ我々の常識を遥かに凌駕しているのは間違いない。


 鳥や虫としての形質を強く受け継いだ彼らが、能力も生態も大きく異なる彼らが共通の言語を発明するにあたって、このあまりにも微細な認識能力をある程度抽象化する必要に迫られた。つまりは妥協だ。この類いの「解像度」の皇帝は個人差が大きい。高解像度の種族が低解像度の種族と情報のやり取りを行うには、認知のレベルを低い方に合わせてやる必要がある。過去のある時点で、彼らにも言語に認識を導く手綱を譲り渡す瞬間が訪れた。だがそれでも、私としてはもっとレベルを下げて欲しいくらいなのだが(彼らが葉や花弁の色を言い表すのにどれだけの数の単語を作り出したか知りたければ「妖精達の色相環」(パトリシア・スイージー)を読むと良い。触角を持つ虫の精ならではの色彩感覚についても章を割いて考察している)。

 彼らの認識する世界は絶えず変化している。萌え出る黄緑の葉と枯れて茶色にすぼまった葉は同じものではない。例え一日の内にそれだけの変化が起きたとしても、そうは認識しないのだ。<大樹>の上に成り立つこの島ではあらゆるものが絶えず移ろう。「永遠」を意味する言葉を知らない彼らはあらゆる物体を動きや形、色と関連づけて認識する。彼らの言語に名詞はない。「樹」を言い表すために「樹」とは言わず、代わりにいくつもの形容詞と動詞を費やす。即ち<立つ(タァ)・生まれ変わる(シラール)・茶色に属する色相ロフォ>と言った具合だ。順序は問わない。通じさえすればもっと別の言葉を当てはめて良い。<広い(フ)・赤に属する色相シーユ>も空を意味するがこの場合は明け方か夕方の空を指す。但し砂浜で会話をする場合これだけでは不充分だ。何故なら海もまた広く青いか赤いものだから。厳密に空を指す場合<広い・青い・手の届かない(ティエルトゥエ)>等が考えられる。海の場合は<広い・青い・浮かぶ(シァル)>がひとつの正解だ。以前、代わりに<泳ぐ>を当て嵌めたことがあったが、彼らの言葉では<滑空する>と同義なので結局空か海かはっきりしないとのことだった。

 彼らの会話は常にこのような動詞と形容詞の詩的で無秩序な羅列に彩られている。地下の洞窟や石板に刻まれた太古代の文章は当然ながら現代の口語と比べると大きく様変わりしてはいるもののこの基本自体は変わらない。解読の際には不可解な品詞の羅列が一体何を意味しているのかを充分に理解する必要がある。さもなくば、内容を誤解し決して真実には辿り着けないであろう。


  「言語体系」より、カミル・マズルが記す。

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