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小学生でも勇者だもんっ!  作者: まおん
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01.平凡からの脱出


 春、穏やかな日差しに桜の花びらが舞い散る季節。期待と不安に胸を膨らませ、それぞれがそれぞれの目的地へと向かっていく。私、九条真央も、とある場所へと向かっていた。



~6ヶ月前~


 学校が終わり、家に帰宅しポストを覗くと、一通の手紙が届いていた。

「誰からだろう…」

自分から手紙を出した覚えはなく、封筒の裏を見てみるが、何も書かれていなかった。

「ただいま。」

誰からも返事は返ってはこない。カバンを下ろし、ソファーに腰掛け、手紙の封を切った。


 この度、魔法学校への入学権利が与えられました。入学を希望される方は、四月一日九時に下記の場所までお集まりください。なお、この手紙を忘れずにお持ちください。

※この内容は決して他の人に話すことのないようにお願い致します。また、この手紙は受け取り主の意思がないと判断されたと同時に消滅致します。


場所:〇〇県□□市丸山岬

  グルト魔法学校


「グルト魔法学校…?イタズラかな…。でも、丸山岬って確か家からバスで30分くらいだったよね。……いやいや、こんな怪しい手紙信じるわけないじゃん!」

そういって私はその手紙を引き出しの中にしまったのであった。



そして今に至る。確かにこの手紙を初めて読んだ時はありえないと思っていた。しかし、考えるたびに思った。私は今までなんとなく生きてきた。何かに挑戦するわけでもなく、平凡に生きられる道を選んできた。誰からも期待されることもない、つまらない人生。果たしてこのままで良いのだろうか。この手紙に期待しても良いのではないだろうか。その期待が強くなるにつれて、私には手紙が光に包まれ、次第にその光が強くなっていくように見えた。

「もし、私に魔法を使えるなら、一体どんな世界が待っているのだろう。」

そんなことを考えていると、あっという間に目的地の丸山岬に到着した。

バスを降り、少し歩くと何人かの人が集まっていた。

「あんたも例の?」

「えーっと…」

声をかけてきたのは大学生くらいの男の人だった。

「あぁ、悪りぃ。俺は宇佐美亮太。二〇歳。お前もこの手紙届いたんだろ?」

「は、はい。えっと、私は九条真央、十五歳です。」

「十五歳か、若ぇなぁ。よろしくな、真央!」

「はい、よろしくお願いします宇佐美さん!」

「亮太でいいよ。」

「わかりました。ところで、他の皆さんは…」

「他のやつな、俺もさっきから話しかけてんだけど、全く話してくれないんだよ。」

「当たり前でしょ。大体知らない人にすぐ名乗る方がおかしいのよ。」

「た、確かにそうでした…」

「いいだろ別に!これから一緒に学んでいく仲間なんだからよ!」

「まだあの手紙が本当かどうかも分からないのに何を言ってるのかしら。」

二人が言い争っていると、ふっと目の前に光が現れ、そこから人が出てきた。私たちが呆然と立ちつくしていると、光から出てきた男性が話し始めた。

「まあまあ、喧嘩はそこまでにして。みなさんお揃いですね?」

「お、お前、一体誰なんだよ!」

「おっと、これはこれは大変失礼致しました。私、グルト魔法学校から参りました、坂城と申します。これからみなさんにはこの崖から海に飛び降りてもらいます。」

「は?」

その場にいた全員が坂城さんの言葉を理解できなかった。

「飛び降りるって…そんなことしたら死んじゃうじゃない!」

「いいえ、大丈夫です。さて、誰から飛び降りますか?」

「俺、行きます。」

そう言ったのは、亮太さんより少し背の高い男の人だった。

「ええっと…はい、坂本剣さん。では、お願いします。」

坂城さんが合図をすると、坂本さんは迷いもなく崖から飛び降りた。

「……。嘘…でしょ…」

「さて、次は誰が行きますか?」

「こんなのやってられないわ!」

「これができない方はここでお帰りください。時間がないので、ここからはこちらから指名させていただきます。ではまず宇佐美亮太さん。」

「お、俺!?」

亮太さんは両手で頬をパシッと叩き、崖に向かって歩いて行った。

「まおん、俺はお前のこと待ってるからな!」

そう笑顔で私に言って、小さく「よしっ」と呟いて飛び降りた。

「それでは次の方、椎名玲さん。」

「…はい。」

椎名さんは二十二歳くらいでお姉さんって感じの人だ。椎名さんの表情は強張っていた。後ろ姿からも緊張が伝わってきた。

「椎名さん、無理に飛び降りていただかなくても構いませんよ。」

坂城さんがそう言うと、椎名さんは首を横に振り、大きく深呼吸してから飛び降りた。

「無事に行きましたね。残り2名。どうしますか?」

私ともう一人の女の人は一度目を合わせてから、女の人が言った。

「私、先に行きますわ。」

そう言うと、スタスタと崖の方へ歩いて行った。

「ふむふむ。あんなに嫌がっていたのに、おもしろい方ですな、北本リリさん。」

北本さんは崖ギリギリで振り返ってこう言った。

「あなたもきっとやって見せなさいよ。待ってるから。」

それから静かに飛び降りた。

「さて、最後になりましたね。九条真央さん、お待たせしました。」

私は崖の上に立った。そこで初めて怖いと感じた。後ろから見ていた時とは比べ物にならないくらいの恐怖。他のみなさんはこの恐怖を乗り越えて飛び降りてったのか。遥か下に広がる海。波が激しく岩にぶつかっている。ここから飛び降りたら死ぬ。そう思った途端、足がすくんでその場に座り込んでしまった。

「私には…できない…」

「いいのですか。あなたは宇佐美さんや北本さんの言葉を裏切るのですか。」

そうだ。亮太さん、そして北本さんは私に言ってくれた。「待っている」と。私は足に力を入れ、なんとか立ち上がり、もう一度下を見た。やっぱり怖かった。でも、さっきとは違って今はできる気がした。

「こんな私にも待ってるって言ってくれたんだ。行かなきゃ…!」

(そうです。あなたにならできます。いえ、やらなければならないんです。)

私は目をつぶって思いっきり崖からジャンプした。







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