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風吹く先のミチの果て  作者: 並木やまみ
生命の脈動
4/15

 歩く度に周囲の草木がガサガサと大げさな音を立て、むせ返るような緑の匂いが鼻を突く。

 簡単に草木を踏みしだいただけの、最早道と呼んで良いものかと思いたくなるような素朴過ぎる獣道を歩いて行くと、程なくして視界が急に開けた。


「……ここか……」


 道を行く三人の内、先頭に立って歩いていたフリックがそう呟くと、隣から息を飲む音が聞こえた。


「……」

「……今更怖くなったか?」


 隣に立っていたロレンタにフリックがそう問いかけると、彼女はパッと振り返り、すぐさま否定の言葉を並べた。

「なっ、い、いえ、私は……」

「まあ、ダンジョンを怖がるのは普通の感覚だ。別に恥ずかしがることでもねえ」

 そう言いながら、フリックは目の前の光景を注視した。彼の言葉を肯定しているのか、後ろに立っていたイヴがこくりと頷いた。


 小規模な森を抜けた先、切り立った崖の足元部分に、それはぽっかりと口を開けていた。両側に立っている、何やら奇妙なモチーフが描かれ石を積み上げて作られた石柱が、ここがかつて人の手が入り利用されていた場所であっただろう事が窺える。とうの昔に放棄され、今や魔物の巣と成り果てている場所。

 危険とロマンが混在する、ダンジョンと称される洞窟の入り口は、濃い闇を湛え冒険者達を待ち構えていた。



 いつから、誰がそう呼びだしたのかは定かではないが、魔物の巣と化し危険地帯に認定された洞窟や古代の遺構等を、この世界の人間達はダンジョンと称している。文明史が刻まれ始めた頃から魔物達はダンジョンを根城とし、人類の生活圏を常に脅かし続けてきた。だが、ダンジョンには魔物が収奪した物品や遺構に遺された財宝等が眠っている場合があるので、冒険者にとっては一攫千金のチャンスが眠る、ロマンに満ちた場でもある。


 さて、その存在を知る一部のリード市民や近隣の狩人から『先住民達の玄室』と呼ばれているこの洞窟、もとい横穴は、大昔にこの辺りに住んでいた部族が埋葬や祭祀に利用していたものだったらしい。しかし街道が出来、人々の開発の手が次第に伸びるにつれ居心地が悪くなったのか、その部族は横穴を残して何処へと去ってしまったと言う。

 無論街道から離れているとはいえ、リードからほど近い距離にあるこの横穴は今の今まで手つかずのままとはいかず、とうの昔に冒険者達によって走破され、それきり誰からも顧みられることは無かった。

 が、つい先月の事。その横穴に魔物が多く住みつき近隣の人々に害を与え始めた。被害に遭った人々の依頼に応え、とある冒険者一党(パーティ)が魔物達を駆除すべく、魔物の巣、もといダンジョンと成り果てた件の横穴へと赴いた。

 群れ成す魔物達を切り捨て、奥へ奥へと進んで行く内に、彼らは恐ろしい物を目撃し、恐怖に駆られ脱出。以来、この横穴へ近づく者は居なくなったという。



「……その恐ろしいものって、何なんですか?」

「それについては恐ろしい亡霊だのとんでもない怪物だのと、色々と尾ひれが付きまくってたせいでよく分からん。だが、用心するに越したことは無いだろうな」

 疑問符を浮かべるロレンタに、一歩一歩を慎重に踏みしめ、暗闇に包まれた前方を警戒しながらフリックはそう答えた。


 横穴の中は経年劣化で多少ひび割れたり欠けたりしている所はあれど、壁も床も石材によって人工的に整備されている。しかし壁に火を灯すための燭台はあれど肝心の明かりの類は当然無く、周囲は薄暗い。彼らの背後、横穴の入り口から辛うじて日の光が差し込んでいるが、奥へと進むごとに光は遠ざかり、次第に闇が深くなっていく。

 腰にランプを吊り下げ先頭を歩いていたフリックは、周囲を検分する。

「……今の所、罠の類は無し、だな。走破済みのダンジョンはこういうとこがありがたいな」

 宝は殆どお持ち帰りされてるだろうから期待できないけどな、とついでのように呟く。とはいっても、今回は宝目当てにダンジョンへ潜っている訳では無いためそれでも構わなかったが。

 ダンジョンでは遺構自体に仕掛けられていた防衛機能がまだ生きていたり、ある程度の知能と器用さを持った魔物が制作していたりと、侵入者を退けるための罠が張り巡らされていることがある。ここにも元々先に上げたような防衛機能があったようだが、とっくの昔に余所の冒険者によって解除されていたようだった。


 一本道を暫く進んでいくと、先頭を歩いていたフリックが急に立ち止まった。


「……?」

「フリックさん?」

「しっ……静かにしろ」


 フリックが手に持ったランプを前方に向かって掲げ始め、背後から進み出たイヴがフリックの隣に並び立つ。


「……!」


 ロレンタは、戸惑いつつも目の前のランプに照らされた先の、黒々とわだかまる闇を見た。

 すると闇の中から、たたっ、という小さな生き物が走るような音が聞こえたかと思うと、耳障りな鳴き声を発しながら何かが飛び出してきた。


「おっと……!」


 腰の片手剣に手を伸ばしていたフリックは即座に抜き打ちざまに、飛びかかってきたそれを斬り捨てた。

「ひゃっ……」


 ロレンタの視界に飛び込んできたのは、フリックの片手剣に深々と胴体に致命傷を負い、床に転がりぴくぴくと体を痙攣させている、一抱え程の大きさをした毛むくじゃらの生き物だった。

「これはっ……、う、ウヌヨン!?」


 ロレンタの言った通り、毛むくじゃらの体といい、額に一本生えた角といい、それは昨夜の夕飯に食したあのウヌヨンとよく似た生き物だった。しかしよく見れば足の付け根など体のそこかしこに黒いトサカのようなものが生えていたり、微妙に顔つきが凶悪だったりと、細やかな差異が見て取れた。

「似てるがそいつはムムヨン! 近縁種だそうだ! 危ねえから隅っこで縮こまってろ!」

 フリックが、恐らくは先の情報収集の折に手に入れていたであろう魔物の情報を告げると、即座にロレンタにランプを押し付けるようにして預け、戦闘態勢に入った。

 ロレンタは言われた言葉に素直に従い、即座に壁際で身を伏せる。その瞬間、闇の中からこちらを覗き込む赤い瞳が微かに見えた。こちらの方へ向いている赤い双眸の数は、合計三匹分。


 フリックが行った聞き込みによれば、彼らムムヨンはウヌヨン同じくこのリード周辺を主な生息地としている魔物である。しかしウヌヨンと比べ凶暴な性質を有している彼らは、個々の弱い能力を数で補う為集団で行動し、家畜や畑、時折人間を襲い害を成しているという。

 そのため街の住人達によって討伐対象とされ、先月踏み入ったという冒険者一党によって大方の数を減らされた。冒険者達が途中で逃げ出したため完全殲滅とまではいかなかったようだが、最大の武器である数が無くなったのならば、彼らはそれ程脅威にならない。


「イヴ、右の方を頼む。俺は左と真ん中をやる」

「……」

 フリックの言葉にこくり、と了承の意を返すと、イヴは彼の言葉通りに右側に居るムムヨンの方へと突っ込んで行った。小さな手で拳を握り、特に感慨無さ気な無表情で、一片の容赦も無く拳を振るう。


 メシャア、と、骨や肉がひしゃげる音がはっきりと響き、殴られたムムヨンは暗闇の奥深くへと、冗談に思えてくるような速度で吹っ飛ばされていった。

 その横ではフリックが、同時に左右から襲い来る二匹のムムヨンを迎え撃っていた。足元から迫り来る片方のムムヨンの額の角を、


「そいやっ!」


 足で思い切り踏みつけ身動きを取れなくする。その間に角を前面に押し出しながら矢の如く突っ込んでくる片方のムムヨンを回避。タイミングを読んでがら空きとなっている腹部を深く斬りつけ、床に転がした。その合間に腰に下げていたもう一本の片手剣を素早く引き抜くと、角を踏まれじたばたともがいているムムヨンの頭蓋に向け、真っ直ぐに切っ先を振り下ろした。


「ひゃっ……」


 頭蓋を貫き砕く生々しい音と、にわかにどろりと流れ出るどす黒い血に、ロレンタは情けない悲鳴を上げた。

「ロレンタ、無事か?」

「無事と言えば無事、ですけど……うぷっ……」

 口を押さえ、吐き気を堪えるようにしているロレンタ。こちらの様子を見に近づいてきたイヴが、フリックによって腹部を裂かれたもののまだ息があり辛うじて立ち上がろうとしていたムムヨンの頭を通り過ぎざま、白い脚で文字通り思い切り踏み潰した。水たまりを踏んで跳ね上がる水のような勢いで、血と脳漿が辺りに飛び散った。

「お、すまねえなイヴ。今止め刺そうと思ってた所だったんだがな」

「……うぐぅ」


 それ程重要でもない忘れ物に気付いたかのような調子であっけらかんとそう言い放つフリックの脇で、頭が砕ける様をうっかり直に見てしまったロレンタは顔面蒼白となりながら呻いていた。

 そんなロレンタの方へ顔を向け、フリックは気遣っているのか呆れているのか、如何ともしがたい声音で問いかけた。


「大分気分悪そうにしているが、大丈夫か……? まだ潜ったばかりだが」

「……いえ、大丈夫です。付いて行きたいと言ったのは私ですから」

「そうか? ……まあ我慢できなくなったら遠慮せず吐け。俺も初めの頃よく吐いたから気にしなくても良いからな」

「お気遣い、ありがとうございます……」


 実際に魔物と相対した二人よりも憔悴した様子で、ロレンタはふらふらと立ち上がった。

 第一波はとりあえず切り抜けることができたようだ。他に何も来る気配が無いと判断した一行は、更に奥地へと進むこととした。



 その後も奥へと進むごとにムムヨンによる散発的な襲撃は続いたが、いずれも大した能力も数も無く、フリックとイヴの二人によってあっけなく返り討ちにされていた。

 ダンジョンはほぼ一本道であり、道の両側に遺体の安置や祭事を行うための部屋が並んでいるという単純な構造をしていた為、ゲオルグの捜索作業に手間取ることは無かった。しかし成果は順調とはいえない。彼の生死はおろか、彼がここへ足を踏み入れたという痕跡すらもまだ見つかっていないのだから。


 三度、四度とムムヨン達による攻撃を退け、フリック達の捜索の手はいよいよダンジョンの深部にまで到達しようとしていた。

 相も変わらず真っ暗な通路を、ランプを掲げて進んでいく最中、不意に何かに気付き、フリックがぽつりと呟いた。

「ん? 何か落ちてねえか? あそこ」


 ほれ、とランプを掲げフリックが指を指した辺りに、確かに掌に収まるサイズの何かが、石造りの床の隅ににぽつりと落ちていた。辺りが薄暗い為、ともすれば見落としていただろう。

 それを見たロレンタが驚いた様子で目を見開き、呟いた。


「……あっ、あれ……」

 思わず駆けだそうとしたロレンタをフリックは「待て」と制止し、おもむろに進み出て床に落ちているそれに近づく。周囲に罠も敵も何も無いことを確認したフリックはひょいと拾い上げ戻り、それをロレンタに見せた。


「……手巾(ハンカチ)だな。ゲオルグのか?」

「……はい。間違いありません。お父さんのものです。何年か前に私がプレゼントしたものですから……間違えようがありません」

「じゃあ、やっぱりゲオルグはここに……」

 フリックがその先を言おうとした時、


 ひたり、と、闇の奥から、何かが這い寄るような音が響いた。


「……!?」

 突然のことに常に無表情を貫くイヴ以外の二人が表情を強張らせ、音がした暗闇の先を全員が見据える。

 ひたり、ひたり。音は次第にこちらへと近づいていき、そして……


「……ひっ」


 『それ』がランプの光に照らされ姿を表した瞬間、ロレンタは引きつった声を上げ、冒険者としてそれなりの経験を積んできたはずのフリックでさえも、思わず息を飲んだ。

 まず見えたのは、石膏のように白い肌をした大きな手。ひた、と地面を撫でるその腕は手首から肘にかけての腕部分が不自然な程に肥大化している。そして肩、頭部、背と、ぬっと明りの中へと這いずり出てきた『それ』は果たして何と呼ぶべきか。魔物と呼ぶにはあまりにもおぞましく、冒涜的な姿をしていた。

 蜥蜴のように地面を這って出たそれは、極端な肥満体のように全身がぶよぶよと弛んだ白い肌に覆われていた。丸い頭部は血管がくっきりと浮き出ており、半ば飛び出た目玉はひっきりなしに、左右別々にでたらめな方向を向きながらぐりぐりと動き続けていた。這っている為腹部はどうなっているかは不明だが、背面は背骨の周囲のみに獣のような剛毛が生えている。


『ア゛ァー……ァー……』


 その化け物は、喘鳴交じりの野太い呻き声を上げると、目玉を動かし続けたまま、首のみをこちらへと向けた。


「……ロレンタ。一応訊いておくが、まさかこいつがお前のお父さんって言う気じゃないよな?」

「ばっ!、こんな時に、馬鹿なこと言わないでくださいよっ……」

 半ば涙目になりつつ、ロレンタは弱々しさが滲む声音で言い返した。

「だろうな……こいつが前の冒険者がビビって逃げたっていう、噂の化け物か? ……確かに依頼も放り出して逃げ出したくなる気も分かるぜこりゃあ……」

 平静を装いつつも口の端をヒクヒクと僅かに引きつらせながら、フリックは呟いた。


 這っているので大きさは分かり辛いが、仮に立ち上がったとするならこのダンジョンの天井近くまで頭が届くだろう。体高も体全体が膨れ上がっているせいで腹部も背も分厚く、イヴの身長を軽く越えていた。

 さながら土座衛門を彷彿とさせるような不気味な巨体が暗闇の通路の中でこちらに向かって這い寄ってくるというおぞましい状況であるにも関わらず、全員が何とか逃げずにその場に留まることができたのは、勇敢と言うべきか、あるいは愚かと言うべきか。


 それを証明するかのように、真っ先に銀の長い髪をなびかせ矢のように駆けだしたイヴ。彼女は醜悪な化け物に一切臆すことなく小さな拳を握り込むと、これまでにさんざその威力を証明してのけた一撃を化け物の顔面にめり込ませた。


 肉がめり込む粘着質な音が一瞬響き、そして、

「……!」


 イヴが何かに気付いたかのように、一瞬だけ僅かに目を見開かせると即座にその場を飛び退いた。続いて間断無く、白くぶよぶよとした太い腕が、彼女が一瞬前まで居た場所を虫でも叩くかのように掌で打ちつける。鼓膜に響く高い破砕音を響かせながら、石畳の破片が宙を舞った。

 殴られた顔面は鼻の辺りを中心として派手に陥没し顔全体が歪んでおり、しかしまるで痛みなど全く感じていないかのように化け物は頭を軽く振り動かすと、途端崖を上るかのような挙動で床を這い、猛然とこちらへ迫って来た。

 化け物の横幅は通路を半ば塞ぐ程に大きく、左右に避けることは不可能。しかもフリックの背後にはロレンタが居る。彼女を化け物の衝突に巻き込むわけにはいかなかった。


「クソッ……」

「えっ!? えぇっ!?」


 フリックは即座にロレンタの腰を抱きかかえると、突然の行動に慌てふためく彼女を無視し、タイミングを読み高く飛びあがった。眼下を通り抜けて行く化け物を確認し着地した瞬間、フリックはロレンタを壁の隅へと置き、彼と同じように突進を回避したイヴと共に、突進を終えたばかりの無防備な背面を晒す化け物に向かって一直線に走った。


「そい、やッ!」


 走りながら剣を抜き、掛け声と共にフリックがこれまた白くぶよぶよとした左の足の踵付近を剣で突き刺した。その隣ではイヴが大きな右足を引っ掴んで抱え、関節を本来曲げるべき方向とは違う向きに、一思いに折り曲げた。ごきり、と大きく響く鈍い音。

 あれだけの巨体が腕のみの力で勢いよく突っ込めるわけが無い。こうして足を使用不能にしたことでもう突進は不可能、ないしは勢いを弱めることができたはずだ。

 化け物は痛みに鈍いのか、普通の生物ならば痛みに悶え苦しむであろう攻撃にも無頓着な反応を示し、そのまま緩慢とした仕草で首を動かすと、フリック達の方へと陥没したままの顔面を向けた。


 フリックは素早く化け物の巨体を駆け上がると、今しがた足から抜いたばかりの剣を、化け物の白くぶよぶよとした喉元に突き込んだ。そしてそのまま首を掻き斬らんと剣に力を込めて動かし、半月状の斬り込みを入れた。傷口からどす黒い血が溢れ、滝のように流れ出る。

「とっとと、くたばれッ……!」


「……!」

 そして、フリックの横合いから飛び出してきたイヴが目にも留まらぬ速度で、化け物の側頭部へ、剣で斬り込みを入れた方から蹴りを入れた。

 化け物の首は一瞬の内に斬り込みから傷口が裂けて広がり、蹴りの衝撃で首の骨が折れ、そして頭部は銅から完全に離れたちまち千切れ飛んでいった。血をまき散らしつつ宙を舞った頭部はそのまま壁にぶつかり、床へと転がった。


 頭を失った瞬間、化け物の胴体は一拍遅れて全身が弛緩し、力を失った体はどさりと床の上へ崩れ落ちた。そしてそれきり、ぴくりとも動くことはなくなった。


「……死んだか?」

「……」

 誰に言うでもないフリックのその問いに、こくり、とイヴは頷いて応えた。

「お前が言うなら間違いなく死んでるか。……はあ、やれやれだぜ」


 化け物の胴体から飛び退き、ため息を一つついた後、フリックはロレンタの姿を確認する。見れば彼女は顔を強張らせたまま地べたに尻餅をついている。……どうやら腰が抜けてしまっているらしい。

「おーい、ロレンタ? 大丈夫か?」

「は、はひ……」


 どこか虚ろな目で、一拍遅れてそんな返事が返ってきた。早めに終わらせないと、彼女の精神は危ういかもしれないと、フリックは薄々思った。

「な、な……なんなんですかあれ?」

「それは俺が訊きたい。イヴは、……お前にも分からねえか」

 フリックがイヴの方を見ると、イヴも首を横に振り否定した。

 彼らは冒険者という立場上、メモにでも残しておかないと覚えていられない程に様々な魔物と遭遇している。しかし具体的にどこがどう、と言葉に表すことはできなかったが、先ほどの化け物はある程度の経験を積んだ冒険者であるフリックをもってしても、今まで出会って来た魔物とは明らかに毛色の違った『何か』であるとしか感じられなかった。


 立ち上がろうとするロレンタに手を貸しつつ、フリックはロレンタに言った。

「ロレンタ。ここまで来ておいてなんだが、正直俺は一旦街に戻って、お前を置いて探索することを割と真剣に考えてる。……どうする? 正直に答えた方が良いぜ」

「っ……それこそ、ですよ。ここまで来ておいて、今更引き下がることなんてできません。……せっかくお父さんに繋がる手がかりを見つけたんですから。どんな結果が待っていようと、私は後悔なんてしません」

 その答えに、はあ、と仕方が無いといった風にため息をつくフリック。

「頑固だなあお前も。まあ、いざとなったら俺達のことは見捨てて、お前だけでもここを出て、街へ戻れよ」

「……フリックさん……」


 フリックのその言葉に戸惑いつつも何か返そうとしたロレンタだったが、もう会話は終了したものと判断したフリックが「行くぞ」と踵を返し奥へと進もうとしていた為、ロレンタは言い掛けた言葉を飲み込みつつ慌ててその後を追うこととなった。


ストックがもうそろそろ尽きてきているので、少しペースが遅くなります。少々遅れても当作品の存在を忘れないでいてくれるとありがたいです。

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