1
ダンジョンで冒険ものを書こうと思ったは良いが、こんな感じで大丈夫か?
大丈夫だ、(多分)問題ない(だろう)。
みたいな感じの作品です。
序盤は大丈夫ですが、後々グロくなります。
木々特有の、青臭く湿ったような匂いが鼻腔を刺激するのを彼は感じた。
時間的にはまだ日も高く、青い空の中、雲はまばらに浮いている。それなのに周囲が薄暗いのは、それは彼らが森の中を一直線に貫く細い線のような、簡素に作られた狭い道の中を歩いているせいだろう。
「まったく、こんな道しかまともに通るとこ無えってどういうことだよ……」
大きく広げられた木々の枝葉が頭上を覆うその中、せかせかと動かす足を止めないまま、彼は一人ごちた。フードの付いた袖の無い外套の下は、胸や肩などの要所を板金で保護しつつも、軽く、素早く動けることを念頭に置いた軽装備に身を包んでいる。まだ二十歳そこそこの若者だった。
「このペースなら今日の夜までなら、次の街にはギリギリ着くかもしんねえけどなあ、くそ、他にもっとマシな道が無いか訊いておくべきだったか?」
枝葉から時々差し込む木漏れ日が、彼の顔を照らす。
実年齢よりも若干幼く見える、俗にいう童顔気味な顔に渋面を浮かべ、彼はため息をついた。
「……」
そんな彼を無言で、大きな二つの目でじっと見つめる、もう一人の人物が居た。
傍らで彼と同じようにそそくさと歩くその人物に、彼は意識を向けた。
「ん、……そうだなイヴ。お前の言いたい通りだ。過ぎたことを今更グチグチ零してもしゃあねえわな。兎にも角にも、無事予定通りに着くようぼちぼち頑張るしかねえな」
実際にはその人物は終始無言で、一言たりとも彼の言う通りのことを喋った様子は一切無かったわけだが……その人物、もといその少女は彼の言うことに異論は無かったようで、こくんと小さな頭を一度縦に小さく動かし、肯定の意を示した。
有り体に表現するのであれば、彼にイヴと呼ばれた十歳程と見受けられるその少女は、まさしく美少女であった。
陶器で作られた芸術品のような白く滑らかな肌に、柔らかみのある丸みを帯びた頬や二の腕。
しかし何よりも彼女の存在を印象付けるものは、愛らしい大きな両目に嵌められた黄金のような瞳と、それと対照的になっているかのような、腰まで届く見事な光沢を持った長い銀髪である。いたいけな少女らしい愛らしさと神秘性が同居した、そんな独特の魅力を少女は醸し出していた。小柄な体に合うよう設えられた、隣の青年と同じようなフード付きの外套と、その下にはシンプルな白いワンピースという、動きやすさ重視の飾りが極力廃された簡素な服装ではあるが、それにより彼女自身の魅力が引き立てられていると言える。
彼女はにこりと笑うことも、不満げに眉を顰めることも無い。リスやウサギ等の小動物さながらに、ただただその大きな丸い目をくりくりとさせながら、黙って彼に着いていくのみである。ただ、道端で美しい花を咲かせた植物などを見掛ければ、興味深げに歩きながらじっと目で追っているところを見る限り、全く感情が無い、という訳でもないように思える。
そんな少女との戯れもそこそこに、彼はついっと視線を道の両側へと向けた。森の中に作られたとあって、道の左右は木々や草花、茂みなどが密集しており、それらが作りだす濃い影は、そこに何か潜んでいるのではないかというあらぬ妄想を嫌でも描き立たせる。
いや、実際ただの妄想では済ませられない。青年は先の街から聞いた情報を頭の中で反芻した。
どうやら先日、主要な街道がこの辺りで降った雨の影響で落盤が発生してしまい、通れなくなったそうだ。西へ進むための他の道は無いか街の人々に訊いてみれば、森を貫く細い街道があるとのこと。ただしその森では最近野盗が潜伏しているらしく、あまり利用したがる者は居ないとか。
雨で数日間足止めを食らうことになった為、これ以上留まっては居られない。荷物をしこたま詰め込んだ商人の馬車ならまだしも、見るからに懐事情の貧しそうな、そして下手すれば手痛いしっぺ返しを食らう可能性も含んでいる冒険者を好んで襲う、物好きな野盗も居ないだろう。
いざとなれば逃げきれば良い。こう見えても彼らの全力逃走に追いつけた者は、人間だろうと魔物だろう何人たりとも居ないのだから。そういう訳で、二人は件の森の中に作られた道を通ることとなったのだ。
「くそ、なんだか嫌な予感がする。こんな道とっとと越えちまうに限る。少しペースを上げるが……イヴ、大丈夫か?」
彼からの確認の言葉に、イヴと呼ばれた少女は、先ほどと同じく、無言でただ一度こくんと頭を小さく縦に動かす。
イヴのその返答を受け、彼は口角を上げ笑みを浮かべると、良し、と呟いた。しっかりと確立された信頼関係に基づいた、力強い笑みだった。
「さて、それじゃ……」
青年が何気なく呟いた、その瞬間、
「イヤァァアアーーーーーーーーーアアァアッッ!!!」
今まで静寂を保っていた森の中に、突如金切声が響き渡った。周囲から幾羽もの鳥がぎゃあぎゃあと鳴き声を発しながら、一斉に木々から飛び立つ。
「な、何だ!?」
狼狽しつつ、青年は周囲を見回した。するとその横合いから、
「……!」
それまで青年と同じペースで一緒に歩いていたイヴが、急に前へと躍り出たかと思えば、素早く道の先へと走り始めた。
「ちょ、ちょっと待て! どうしたイヴ!?」
戸惑いながらも、青年はイヴを見失うまいと、慌てて後を追った。
どのくらい森の中の道を走ったかは分からないが、青年の前を走っていたイヴが急に立ち止まった。青年が何かと思い薄暗い道の先を見てみれば、奥の方から何か、いや、誰かがこちらに向かって、必死な様子で走ってくるのが見えてきた。
「はっ、はぁっ!」
徐々に迫るその人物の姿。よくよく見てみれば、それは要所要所にリボンがあしらわれた、可愛らしい服装をした少女だった。年頃はイヴよりも3、4歳は上と見える。ブロンドの背中程まである髪を左右に揺らしながら、息を切らせて走っている。
「ひっ、人!? た、助けてぇ!!」
こちらの姿を認め投げかけられた声は、先ほどの森中に響くような金切声とよく似通っていた。おそらくはこの少女が悲鳴を上げた本人か。
そしてその少女の後ろから追随するのは、遠くから見ても分かる程に小汚い恰好をした、野性的を通り越し野卑な雰囲気をこれでもかと漂わせた、五人程度の男達。
「げぇっ……!」
これがどういう状況であるかを一瞬で察した青年は、たちまち渋面を形作った。
「お願いします! お願いします! 助けて!!」
青年のすぐ目の前にまで迫ると、少女は取り乱しつつ、縋るように青年の後ろへと隠れ助けを乞う。
「おいちょっと待っ……」
「おぉい、お嬢ちゃあん。たまたま通りがかっただけの旅人にそんなこと頼んでも無駄だろうよ」
青年の言葉を遮り、五人の男達の内先頭を歩いてきた男が、そう少女に言葉を投げかけた。
「や、野盗です! この人達、私の乗ってた馬車、襲ってきた、悪い人です! やっつけて!!」
青年の後ろに隠れたまま要領を得るようで得ない言葉を放ち続ける少女を、男達改め野盗共は、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら見る。下劣な笑い声や口笛が、野盗共の間から響く。
「お兄さんよぉ、面倒なことに巻き込まれたくなけりゃ、とっととそのお嬢さんを渡しちゃくれねえか?」
「いやあ災難だったなあお嬢ちゃあん! もっと強え護衛を連れてくりゃこんなことにゃあならなかっただろうなあ!」
「諦めてとっとと売りとばされろォイ! 売りとばされた先の仕事は過酷だろうが、せめてもの慰みに後で俺達全員でかぁいがってやっからヨォ!!」
へっへっへえ、と下品な笑いを一斉に漏らす野盗共に対し、青年はげんなりとした表情を浮かべつつ言葉を発した。
「うわっ……よりにもよって少女性愛趣味の変態共かよ、キッツいわぁ……」
「おぉい!? おめえに言われたかねえんだよ!!」
青年の隣に立つイヴを指さしつつ、野盗共が示し合わせたかのような総突っ込みを入れた。
「お前らと一緒にすんなよ……。おい、言っとくけど俺とイヴはだな……」
青年が説明を始めたが、その続きは野盗のうちの一人の歓声にたちまち掻き消された。
「んん!? ちょっと待て!? そっちの銀髪の嬢ちゃんもよく見てみりゃかーあいいじゃあねえかあ!」
「おっほぉ!! マジだマジ!! こりゃあ上玉だぜえ!! 高く売れっぜこりゃあ!!」
イヴの姿を確認した野盗共の間に、歓喜の声が広がる。青年の傍らに立つイヴは自らの姿を不躾に見る大柄な男達を恐れるでも憶すこともなく、ただそんな男達を不思議そうな顔をしながら眺め、小首を傾げていた。
「おっとお、自分がどういう目に会うか、よく分かってねえって顔だなこのお嬢ちゃん」
「もう辛抱たまりませんぜお頭ぁ!! さっさとこの旅人の男をブッ殺して、お嬢ちゃん二人をお持ち帰りしましょうやあ!!」
「そうだなあ、遠慮するこたあねえ。どうせ小娘共は戦力にはならねえから実質相手は一人だ!! 囲んでやっちまえ!!」
頭目の男が安物のサーベルを鞘から引き抜き、4人の部下に命令を下した。
男が命令を下した途端、ヒャッハー!! と暴力を振るう機会を得たことへの歓喜の雄叫びを上げつつ、4人の男達がたちまち雪崩を打って青年に向かって襲い掛かって来た。
「いや、こう見えてちゃんと二人なんだよなあ。これが」
こちらに向かい突撃する男達を冷静に見つめながら、青年がぼそりと呟いた途端、
狭い道を横一列に並び突進する男達の内、一番右端を走っていた人物が、不意に高速で走る馬車にでも衝突されたかのように、腹に響くような打撲音を派手に立てながら勢いよく左方向へと吹っ飛ばされた。
そしてその衝撃に巻き込まれ、一列に並んだ男達もまた左に吹き飛ばされる。男達は全員道の脇の木々が密集する森の方に身体を飛ばされ、低木に頭から突っ込んだり、木の幹にしたたか体を打ち付けたりとバリエーションは微妙に違えども、全員そのまま気絶でもしたのか、それっきり動くことは無くなった。
「は……?」
「えっ……!?」
野盗の頭目が、そして追われていた少女も、目の前の光景が信じられないといったように目を見開いた。
二人の視線の先では、いつの間にかイヴが青年の右手前辺りの位置に立っており、右足を僅かに上げたままその場で静止していた。彼女はただ静かに、冷酷にさえ見える程の無感動な視線を、戦闘不能状態の男達に注いでいた。
彼ら二人は確かに見た。4人の男達が突撃し、青年の眼前に迫った途端、列の右端にイヴが軽やかな機動で回り込み、鞭のように右足をしならせたかと思えば、一瞬の間に男達が吹き飛ばされた。そんな光景を。
頭目に戦力になりはしないと相手にされなかった一人の少女が、瞬きする間に蹴りの一発で、大の大人4人を制圧したのだ。膝丈のスカートから伸びる未だ成長期前と思われる白く細い脚に、どこにそんな力があるのか。悪い冗談のような光景に、頭目の思考は暫く停止していた。
「はい、王手」
いつの間にか、頭目の傍らに青年が立っていた。伸ばされた手には一目で鋭利と分かる片手剣が握られており、その刃先はきっちりと頭目の首筋に当てられていた。
「んじゃちょいと武器捨てて両手上げてくれよ。妙な動きしたらすっぱりいかせてもらうんで、慎重に頼むぜ」
刃先を動かし刃の反射光をこれみよがしに閃かせる青年に、頭目は抵抗する気もすっかり失せたのか、言われるがままにすることにした。
「さて、他に仲間が居たとすれば面倒だからな。とっととずらかるぞ」
武器を捨てさせた後、頭目の男を縛り上げ適当に道に転がすと、青年はイヴと少女にそう声を掛けた。
「……!、は、はい!」
未だ衝撃冷めやらぬのか、ぽかんとした顔のまま立ちすくんでいた少女だったが、青年にそう声を掛けられた途端、そう反応を返した。
「あ、あの!」
少女は青年に呼びかけると、彼に向き直り、ぺこりと頭を下げた。
「急な申し出にも関わらず、助けてくれてありがとうございました! 私の名前はロレンタ・ウィンコールドと申します!」
はきはきとそう礼を述べる少女、ロレンタ。そんな彼女に対し少々面食らいながらも、青年も名乗り返すことにした。
「ほぼ成り行きというか、巻き込まれただけというか……まあいいか。あー、俺はフリックという。姓は捨てた。見れば分かるが冒険者だ。そっちのはイヴだ」
青年に紹介されていることを特に意に介すことなく、イヴは明後日の方向へ顔を向け、木々の間を飛び交う小鳥をマイペースに眺めていた。
「フリックさんに、イヴちゃん……?」
ロレンタは二人の姿をまじまじと見る。一見何の変哲も感じられない冒険者像をしているフリックと、同性でも美しいと感じられる容姿を持ち、そして大の男四人を一息で蹴り飛ばす戦闘能力を持った、自分よりも幾分か年下に見える少女イヴ。
この二人はどのような関係だろうか。どのような事情で共に冒険者稼業をしているのか。そもそもイヴは一体全体何者なのか。
疑問は尽きないが、アウトローな気質が強い冒険者の中には、人には容易に話せないような複雑な事情を三つや四つ程持っている者も少なくない。いきなりあれこれ詮索するような事を言うのは恩人に対し不躾にも程があるので、ロレンタがそれきり何も言えずにいると、
「まあ詳しい話は歩きながらでもできるだろ。とりあえずはここを離れるぞ」
「あっ、はい!」
フリックがそう言ってイヴを連れて歩き始めたので、ロレンタは慌ててその後を追った。
鬱蒼とした森の中の道を、三人はやや速めに歩いていく。ふと思いついたかのように、フリックがロレンタへ話しかけた。
「そういやお前、馬車が襲われたとかどうとか言ってたが、この先にあるのか?」
「えっと、先の道で襲われたので、多分このまま歩いて行けばあります。この森の向こうにある、リードの街へ行こうと思っていたんですが……」
「お、行き先一緒か……。んで襲われたと。護衛はどうしたんだよ」
その途端、しょんぼりとした表情を浮かべたロレンタ。
「冒険者を数人雇ってたんですが、いざ野盗と遭遇したら勝てそうにないって思ったのか、私も馬車も置いて自分達だけでさっさと逃げて行っちゃいました……うう、高い前金を払ってたのに……」
「ありゃりゃ、それはまあ御気の毒に……まあ冒険者の中にはたまーに、少なくない確率で、そういう前金だけ貰っておいてまともに仕事を果たすことなくトンズラ、なんて詐欺まがいの連中も居る。良い勉強代になったとでも思っておけ」
そう言ってぽんぽんと、慰めるようにロレンタの肩を軽く叩くフリック。それの真似事なのか、フリックの反対側、ロレンタの左側を歩いていたイヴが同じく慰めるように、ロレンタの左肩をぽんぽんと軽く叩いていた。
「身に染みて学習しましたよ……うう。……あ、」
ロレンタが顔を上げた先、道のど真ん中に一台の幌馬車が止まっていた。2、3人が乗れる程度の小型の馬車である。こちらに後部を向けた状態であり、御者台の方はこちら側からは見えない。
「あった! あれです! 私が乗ってた馬車!」
少しだけ元気を取り戻したロレンタが、馬車に向かって駆けて行こうとしたが、
「待て待て」
「ぐへっ……」
フリックがロレンタの服の襟首を掴み、強引に彼女を止めた。慌てて後ろを振り返り、ロレンタは即座に抗議する。
「ちょっと何するんですか!? 殺す気ですか!?」
「いきなり行こうとすんな、まだ馬車の詳しい様子が見えねえ。慎重に行くぞ」
「詳しい様子って、……何があるっていうんです?」
「ガハァッ!!」
先ほどの野盗と同じような風体をした男が、白目を剥いて気絶し、地面へと突っ伏した。
「とまあこういうことがあるからな。油断は禁物ってな訳なんだわ」
「な、成程……」
木に隠れながら、神妙な顔で頷くロレンタ。
密集した木々が覆い茂る森の方へ身を隠しつつ、少しずつ馬車の前方へと回り込んだ三人。すると、先程の野盗達の仲間の一人、恐らくは馬車の見張り役であろう男が、後ろ側からは見えなかった御者台の方に潜んでいたのが分かった。隙を突いてフリックが飛び出し当身を食らわせれば、男はあっさりと倒れ伏した。
急に人がやって来たことに驚いたか、馬車に繋がれた馬が落ち着きなさげに嘶く。すると直ぐさまイヴが馬のもとへと歩き、その鬣を無造作に撫で黙々となだめ始めた。どうどうの一言も言わないばかりか手つきも明らかに素人くさかったが、不思議なことに馬はまるで熟練の御者になだめられたかのようにあっさりと落ち着いた。それどころか差し出されたイヴの掌に頭を摺り寄せ、明らかに懐いているように見えた。
「さて、馬も落ち着いたな。……おいロレンタ! そういや気になってたんだが、お前以外にも一緒にリードまで行こうって連れは居るか? あ、トンズラこいた冒険者連中は除いてだぞー」
「いえ、私一人です。都市ミルエベから、ここまで来ました」
「ミルエベ!? 一人で!?」
フリックが目を僅かに見開いた。彼らがこの森を通る前に滞在していた街から戻って街道を通り、街やいくつかの分岐を三、四つ程超えた先にある都市だ。つまりはそこそこ遠い。具体的にはここまで馬車で来るのに三日程度はかかる。
「一人でそんな所から冒険者まで雇ってリードまでって、あんた何しに行くんだ……?」
その問いに、ロレンタは少しだけ顔を伏せ、俯く。気のせいか、その時の彼女の顔は少しばかり悲し気なように見えた。
「それは、まあ……色々とあって」
深い事情を察したのか、今はそれ以上尋ねる気にもなれず、フリックは素直に頷いた。
「……分かった。それで、御者はどこに居るんだ?」
「……あっ!!」
「……もしかして御者も冒険者任せだったのか……?」
「あう……」
一気に表情が絶望に染まったロレンタを見て、フリックがはあ、と仕方が無いというようにため息をつく。
「そういう事か。……あー、馬の扱いは少しだけだができなくもないから、御者の真似事くらいはできるが、どうする?」
「……お願いします。すみません、何から何まで……」
「どうせこの際ついでだ、ついで。さっきも言ったろ、俺達もリードへ行くつもりだって。あ、お前と俺だけじゃなく、ちゃんとイヴも乗せていってくれよな」
「もちろんですもちろんです! どうぞ!」
その言葉を貰うと同時に、フリックはひょいと御者台に飛び乗り、手綱を握る。そしてそれを始めとして、イヴやロレンタも馬車へと乗り込んだ。
「それじゃあ、本当に申し訳ありませんが、よろしくお願いします。フリックさん」
「ん。分かった。さーて出発しんこー、っと」
ぱしんと手綱を鳴らし出発の合図を出すと馬は歩きだし、一行を乗せた馬車は森の中を進んで行った。