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05出発

 翌朝。

 寝室として僕が眠っていた部屋にリュックが入ってきて起こされる。


「起きて起きて! 出発だよ」


 まだ眠くてぼんやりとしたまま服を着替える。

 ソフィアもやってきた。部屋に置かれていた大きな衣装箱から何か出している。



「これを羽織ってください」



 手に持ったものを僕に渡してくれる。

 すべすべとした黒いものを広げるとそれはマントだった。



「ありがとう」


 羽織ろうとしたときひらひらひらと何かが落ちてきた。みると白いハンカチだった。


「あら」


 手にとって広げて、ソフィアはちょっと驚いたような表情をした。


「これ我が家の紋章入りのハンカチです。昔母が使っていたのを覚えています。このマントに入っていたのね」


「へえ。紋章なんてあるんだ」


 白いハンカチに渋い金色の糸で何やら図柄が刺繍されている。


「昔はわが家も名家といわれていて家にあった食器やグラスなどにはこの紋章の刻まれていたものもありました。昨日お話したようにそういうものは全部売ってしまってもうないのです。今となっては価値のないものでしょう」


「ふうん」


 さっと畳んでソフィアはハンカチをポケットに仕舞っている。


 リュックが「はやく、はやく。いくよー」と部屋の入口に立って、駆け足するように足を動かしながら僕たちを呼んでいた。


 その様子を見てソフィアが微笑んでいる。

 「行きましょうか」

 「はい」

 マントを羽織った僕はうなずいた。


 食堂でパンと牛乳という簡単な食事を済ませた僕たち三人は、例の閑散としたホールを通って家の外に出た。



  * * * * *



 朝の空気が気持ちよくて僕は伸びをする。

 わーいわーいとはしゃぐリュックの声がきこえて前を向く。


 ふたりとも荷物は少ないようだった。ソフィアは手ぶら。エルフは背中に茶色いバックパックを背負っている。



「ソフィア、何も持っていかないの」



 訊くとソフィアはドレスの腰に手をあててにこっと笑った。



「ここにポケットがあります」


「なるほど」



 短く答えた僕におかしそうにソフィアが笑う。さっそくポケットから何か取りだして渡してくれる。


 ごつっとした形の丸い一口サイズのキャンディーだった。


「ありがとう」

 受け取って口に放り込む。


 歩きはじめようとしてソフィアがふり返り、家を見上げている。

 つられて僕も上を仰ぐ。


 周囲にぽつりぽつりと建っているのは手作りのような木造の家が多いが、ソフィアの家は三階建ての煉瓦造りだった。この家に二人というのは広すぎるなと思う。

 外壁に緑色の蔦が絡まっている。三階にある出窓の屋根や枠はもとは白かったのだろう。ペンキとおぼしき塗装が剥げていて木材のみえている箇所がいくつもあった。



「小さな家でしょう」


「え」


「ここに来る前はもっと大きなところに住んでいました」


「なるほど」


「しばらくお別れね」


「すぐだよ。ね? ケンジがいるし!」


 リュックが駆けるように進んでいく。そのあとを僕とソフィアも歩いていく。


「その。リアムっていう魔術士の住んでいる家までどのくらいかかるの」


 ソフィアが戸惑ったような表情になった。


「それが……わからないのです。南から来たというのもリアムが昨日来たときの方角からわかったことです。いまはそれしか手がかりがなくて」


 そのときくるっとリュックがふり返った。


「居場所、わからないんだよね! だけどリアムは有名だから。きっと知ってる人がいるから!」


 そう言ってリュックはまた背中を向けて歩いていった。


「そ。そうなんだ……」


「ここから南の方角だと最初はタイタンという町になります。そこはここよりずっと拓けてるわ。人も多い。だからリアムのことを知っている人もいるのではないかと思います」


 タイタン。どこかで聞いたような地名だなと思う。


 しばらく歩いていくとまばらにあった住居らしきものは見えなくなった。だだっぴろい地平が広がっている。一本の道がずっとつづいている。


 白茶けた土と所々に緑の草が生えていて、あとは何もない。


「すぐに着くから楽しみにしていてね」


 タイタン。拓けてる。どんなところなのだろう。想像もつかなかった。 



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