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03書庫

 ソフィアのあとについて部屋から出ていく。


 みしみしと音の鳴る廊下を通る。廊下にも絨毯は敷かれていない。

 ここは二階だったようで、廊下の手すり側から階下のホールが見える。降りていく階段の中央あたりはすり減って歪んでいた。


 しばらく歩いて隣の部屋の扉の前に立つ。



「ここにわが家の所有する書物を保管しています」



 ソフィアが扉に鍵を差し込みがちゃと音がした。彼女の手がそっと扉を押している。中へ入るともうひとつ扉があらわれた。


 ソフィアはなにか呪文のようなものを唱えている。

 かしゃりと扉が開く。ぎいいと重たげな音。扉がすべて開ききる。



 古びた本の匂いなのか。

 黴くさい空気がしんとしていて頬がひんやりとする。



 薄暗い部屋のなかには四方のみならず空間全体に書棚が並んでいた。まさに書庫だ。

 三人でそろそろと細いスペースを歩いていく。迷路のようだ。



「父が大切にしていたもの。祖父からそのまた父から譲り受けてきたもの」



 唱うようなソフィアの声が部屋のなかを通り抜けていく。

 書棚に並ぶ書物たちの分厚い背表紙には、僕には読めない文字が書かれている。


「数年前ここに私たちは引っ越してきました。引っ越す前に住んでいた家にいた頃は、毎日が賑やかでした。父の生徒や母のお客様がしょっちゅうやってきて――。父も母も元気だったころです。いろいろとあって私たちは家族でここへやってきました。両親も亡くなって――いまこの家を訪ねてくる人はほとんどいません。いいえ。いないと言っていいわ。誰も来ない」


 ソフィアが眉を寄せて少し寂しげな表情をした。だがそれは一瞬だった。


 リュックはそばの書棚から本を抜き出して眺めている。


「ところが昨日、両親が亡くなって以来初めてリアムがこの家にやってきました。昔話を少しだけしてすぐにこの書庫をぜひ見てみたいと言うのです。それで部屋へお通ししました。ずっと私とリュックがいっしょにいたんです。でもよく考えたらこの部屋のなかには一緒にいたけれども、始終目を離さなかったというわけではなかったかもしれません」


 空気が淀んでいる。中途半端に半分空いたカーテンから淡く光が差している。そこだけ白い埃の舞っているのがよくみえた。


「やっと気づいたのはあいつが帰ってからだよ」


 そう言ってリュックは彼女には似つかわしくなくそうっと本を閉じた。


「ソフィアが気づいたんだ。一冊だけ。なくなっているって! オレとソフィアで探し回ったけどどこにもなかった。少なくともこの家の中にはないね」



    * * * * *



 もとの部屋へ戻ってからソフィアが「ケンジ」と言った。


「これから私たちはその本を取り戻しに行きます。いっしょに行ってほしいのです。お願いします」


 両手を合わせてお願いされている。


「お手伝いしたいけど。僕で何か役に立てることがあるのならぜひと思う。だけど何もわからないし力もないし。そのリアムって人は魔法を使うんだろ」


 急にリュックが笑い出した。


 ぴょんぴょん跳ねて僕のところへ来たリュックにぎゅっと抱きつかれた。甘い。なにかわからないがものすごく甘いものに包まれている。菓子。砂糖。レモン。これは酸っぱいのだが。そういうものを連想させられる。


 それからぱっと体を離したリュックに「心配ないよ」と元気いっぱいに言われる。


「召喚してここへ立ったときから。ケンジは魔法が使えるようになってるんだもん」


 ――まじか。



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