その弐
すごく個人的な意見を言わせて貰おう。
僕はいわゆる異世界チーレムを書く気はない。
典型的な例では現実世界ではパッとしなかった男が異世界に召喚されたり、転生したりする。それが異世界で成り上がって、モテまくるお話だ。
もちろん、そういう作品に人気があり、すでにジャンルとして確立されていることもわかっている。『異世界チーレム』というジャンルが、ある程度の経済効果を上げているからこそ、編集や絵師の力を借りて書店に並んでいるのだと思う。
ただ、僕は書く気はない。
まず、非現実的で感情移入できない。
『異世界だから』と言ってしまえばそれまでなのだが、常識的に考えて、現実世界で努力しなかった奴が異世界に行ったって努力するわけがないし、そんなやつにチート能力与えたところで、碌なことはしないと思う。僕は違和感を感じてしまうのだ。
ステレオタイプな『剣と魔法の異世界』というのは、いわば暴力の世界である。中世ヨーロッパ的な支配者がいて、奴隷がいて、現代社会以上の理不尽が待ち受けているはずなのだ。そこで生きていくために主人公の目の前に『神様』という存在が登場し、RPGの勇者的なチート能力を都合してくれるのだろう。
だが、貧乏人がいきなり金持ちになったところで碌な金の使い方をしないのと同じで、そこらのニートやオタクやいじめられっ子が異世界に転生したり、トリップしたりしてもそう簡単に英雄になれるはずない。それが出来る奴はたぶん現実世界でもリア充の部類だ。
もちろん、「だからこそ、そのサクセスストーリーが面白い」という意見はあると思う。現実ではありえないからこそ、異世界に夢を求めるのだろう。少女まんがだって現実にいないようなイケメンと恋をするからウケる。カッコいい男が登場しない少女まんがなんて存在しない。ニーズとして求められる以上、少女漫画家を目指すならそれを書かねばならない。
ただ、一方で『異世界チーレム』というジャンルに、僕は、『現実社会にコンプレックスを抱き続けて成長した世間知らずな劣等生のガキに、こともあろうか刃物を持たせる』というアホらしさを感じてしまったのだ。
そういう作品が好きな人にも断っておくが、僕は別に他作品を批判するつもりはない。僕自身、十分楽しませてもらっている。そもそも人を楽しませる目的で書かれているフィクション作品を批判するなんて不毛だし、苦労して書いた作者に「別のを書け」という資格はない。
だから僕は、「ならちょっとひねりの入ったものを自分で書こう」と思っただけだ。
つまり、実験だ。
面白ければウケる。面白くなければウケない。それだけの話だろう。
だれも困ってない、よね?
さて、拙作『異世界に穴があったら入りたい』には、リナ・スタンレーという『ヒドイン』が出てくるわけだが、僕は彼女をチーレム系物語にしばしば登場する『チョロイン』のアンチテーゼとして作っている。
おそらく読者にとっては、読んでて忌々しくなるような無能な働き者だろう。そして主人公のと間には恋愛感情はたぶん芽生えない。
だが、僕はこのキャラクターを咬ませ犬にする気もないのだ。
その構成にどういう評価を付けるのかは読者各自の自由である。ただし、このストーリーは僕なりのコンセプトがあって書いているので今後の展開を『お願い』されても困る。
殺してくれとかぶん殴ってくれとか、悪いけどできないから。
彼女は高いレベルで甲斐性なしの世捨て人になってしまった主人公を、冒険の世界に引きずり込むために必要なファクターだ。
半端な小悪党が噛みついてくるだけなら、主人公はそいつを始末してまた引きこもるだけだろう。「こんな糞女さっさと排除しろ」という感想もあるが主人公だけなら、やすことなすこと出来過ぎていて面白くないと思う。
「無能でも働く」「正しいと思ったらやる」「社会の批判なんて知ったことか」「海賊王に俺はなる」
主人公タクミ・ファルカが忘れてしまった何かを彼女は持っている。
やりたいことがあるのなら抱くべきは願いや祈りではない、今、この時の目標だ。たとえバカで稚拙であろうとも、自ら行動する人間には誰かがついてくる。いくら賢く巧妙であろうとも、口先だけの人間には誰もついて来ないだろう。
リナ・スタンレーの行動理念は正にこれだ。
冒険ドラマの主人公に必要なのはそういう志だと思うんだよね。
神様に与えられたチート能力や咬ませ犬との出会いではないと思う。
あくまで個人的な意見だが。




